• 著者: Francesco Facchinetti, Yohann Loriot, Mei-Shiue Kuo, Linda Mahjoubi, Ludovic Lacroix, David Planchard, Benjamin Besse, Françoise Farace, Nathalie Auger, Jordi Remon, Jean-Yves Scoazec, Fabrice André, Jean-Charles Soria, Luc Friboulet
  • Corresponding author: Luc Friboulet (Gustave Roussy Cancer Campus, Villejuif, France)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-07-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27401242

背景

ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がん (NSCLC) は、全NSCLCの1-2%を占める希少なoncogene-addicted cancerであり、その治療においてチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) が重要な役割を果たす。特に、ALK/ROS1/MET阻害剤であるcrizotinibは、ROS1融合遺伝子陽性NSCLCの標準治療として確立されている (Shaw et al. NEnglJMed 2014)。しかし、EGFRやALK融合遺伝子陽性NSCLCと同様に、crizotinibに対する獲得耐性の発現は不可避な課題である (Lynch et al. NEnglJMed 2004; Kwak et al. NEnglJMed 2010)。これまでに、ROS1キナーゼドメインにおける獲得耐性変異としては、G2032RとD2033Nの2種類のみが臨床で報告されていたに過ぎない。一方、ALK融合遺伝子陽性NSCLCでは、crizotinib耐性に関与する11種類の耐性変異が既に報告されており、より詳細な耐性メカニズムの理解が進んでいる (Choi et al. NEnglJMed 2010; Katayama et al. SciTranslMed 2012; Doebele et al. ClinCancerRes 2012)。

ROS1とALKは進化的に保存された受容体型チロシンキナーゼであり、ATP結合部位のアミノ酸配列において77%もの高い相同性を示す (Rikova et al. Cell 2007)。この構造的相同性に基づき、ALKにおけるTKI耐性変異の知見をROS1に類推し、ROS1変異に対するTKI感受性を予測するモデルを構築できる可能性が示唆されていた。しかし、ROS1融合遺伝子陽性NSCLCの患者数がALK融合遺伝子陽性NSCLCに比べて少ないため、ROS1における耐性変異に関するデータは依然として不足しており、治療選択の指針となる包括的な予測モデルは未確立であった。特に、crizotinib耐性後の治療選択肢を決定するための分子メカニズムの解明と、それに基づいた新規TKIの有効性評価は喫緊の課題であった。

本研究は、crizotinib耐性を示したEZR-ROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者から新規のROS1変異を同定し、その機能的特性を詳細に解析することを目的とした。さらに、ROS1とALKの構造的相同性を活用し、既報のALK耐性変異データに基づいてROS1変異全般に対するTKI感受性を予測する臨床応用可能なモデルを構築することで、ROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者の個別化治療戦略の発展に貢献することを目指した。このアプローチは、希少ながん種における治療選択のギャップを埋める上で重要な意義を持つと考えられる。

目的

本研究の目的は、crizotinib耐性を示したEZR-ROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者から新規のROS1キナーゼドメイン変異を同定することである。同定された変異の機能的特性をin vitroで詳細に検証し、crizotinib、ceritinib、および第3世代ALK/ROS1 TKIであるlorlatinibに対する感受性を評価する。同時に、ROS1とALKの構造的相同性に基づき、ALKの既報耐性変異データを利用して、ROS1変異全般に対するTKI感受性を予測する臨床応用可能なモデルを構築する。このモデルを通じて、ROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者の治療選択、特にcrizotinib耐性後の最適な次治療選択に有用な指針を提供することを目指す。

結果

crizotinib耐性EZR-ROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者における新規S1986Y/F変異の同定とlorlatinibによる克服: 63歳男性の非喫煙者で、2010年8月にステージIV肺腺がんと診断された。初回治療後に病勢進行し、2013年1月の胸膜生検再検でROS1再構成 (FISHで腫瘍細胞の40%に陽性) とEZR-ROS1融合遺伝子 (RNA-seqで同定) が確認された。CGH解析ではHOXA7遺伝子増幅と3’ROS1領域の欠失が検出された。2013年9月からcrizotinib 250 mg 1日2回投与を開始し、6ヶ月でRECIST 1.1基準で-75%の奏効を達成し、22ヶ月間病勢コントロールが維持された。しかし、2015年7月に病勢進行が認められ、左肺結節の再生検を実施した。WES解析により、ROS1キナーゼドメインのexon 37に新規のS1986YおよびS1986F二重変異が同定された。この検体は70%の癌細胞を含み、WESリードにおいてS1986Yが18%、S1986Fが17%の割合で検出された。他の関連する分子異常は認められなかった (Figure 1B)。

この患者は、ALK C1156Y変異に対するlorlatinibのin vitroでの強力な活性の報告に基づき、2015年12月からlorlatinib 100 mg 1日1回投与の臨床試験 (NCT01970865) に登録された。投与開始から40日後のCTスキャンで、RECIST 1.1基準で-89%という著しい奏効が確認され、この効果は6ヶ月後も維持された。副作用はグレード1の高コレステロール血症と末梢神経障害であった。ROS1 S1986とALK C1156は、アミノ酸残基は異なるものの、構造的に類似した求核性アミノ酸であり、S1986Y/FとC1156Y変異はベンゾイル基を持つチロシン/フェニルアラニンへの置換であり、同様の構造変化を誘導すると考えられた (Figure 1C)。

新規ROS1変異の機能的特性評価: EZR-ROS1^WT、EZR-ROS1^G2032R、EZR-ROS1^S1986F、およびEZR-ROS1^S1986Yを発現するBa/F3細胞を用いた細胞生存アッセイを実施した (Figure 2A)。n=3回の独立した生物学的複製実験の結果、Lorlatinibは、EZR-ROS1^WT細胞に対してcrizotinibおよびceritinibよりも約7-10倍低いIC50値を示し、優れた阻害活性を有することが確認された。EZR-ROS1^S1986FおよびEZR-ROS1^S1986Y変異細胞では、crizotinibおよびceritinibに対するIC50値が顕著に増加し、耐性が付与されることが示された。しかし、lorlatinibはこれらのS1986F/Y変異細胞に対しても強力な阻害活性を維持した。既報のsolvent-front変異であるEZR-ROS1^G2032Rは、crizotinib、ceritinib、lorlatinibの3薬剤全てに対して耐性を示し、lorlatinibのIC50値は約500 nmol/Lであり、臨床での有効性は困難であると予測された。

シグナル伝達経路の免疫ブロット解析: 細胞生存アッセイの結果は、ROS1および下流シグナル経路の活性化に対する免疫ブロット解析によって裏付けられた (Figure 2B)。EZR-ROS1^WT細胞では、lorlatinibは低用量 (10 nmol/L) でROS1のリン酸化、AKT、ERK、S6のシグナル伝達を完全に遮断した。S1986Y/F変異細胞では、crizotinibおよびceritinib処理後もpROS1とpS6のリン酸化が持続し、細胞生存が維持された。これに対し、lorlatinibのみがS1986YまたはS1986F変異細胞においてROS1、AKT、ERKシグナルを完全に遮断し、S6のリン酸化を抑制した。これらのin vitro結果は、ROS1 S1986F/Y変異がcrizotinibおよびceritinibに対する耐性を付与する一方で、lorlatinibがその阻害活性を維持することを示した。

S1986Y/F変異がROS1構造とTKI結合に与える構造的影響: 分子動力学シミュレーションによる構造解析を実施した (Figure 3)。S1986Y/F変異はROS1の活性部位に直接位置しないものの、キナーゼドメインのαCヘリックスの運動と、近接するグリシンリッチループ (残基1950-1960) の先端位置に変化をもたらし、N-ローブ構造に大きな変化を引き起こすことが観察された。crizotinib結合時にはグリシンリッチループの先端がinside-outの位置に、lorlatinib結合時には反対方向に位置することが示された。この結果は、lorlatinibが変異型ROS1においてもATP結合ポケットへのアクセスと構造変化誘導能を維持できることを示唆している (Supplementary Figure S1)。

ROS1/ALK相同性に基づくTKI感受性予測モデルの構築: ROS1の既報耐性変異部位であるS1986、G2032、D2033が、それぞれALKのC1156、G1202、D1203に相同であることを確認した (Figure 4)。この相同性に基づき、9種類のROS1耐性変異 (1981Tins, L1982F, S1986Y/F, M2001T, F2004C/V, L2026M, G2032R, D2033N, G2101A) について、ceritinibおよびlorlatinibに対する感受性を対応するALK変異の既報データから予測した。予測結果は以下の通りである。1981Tins, L1982F, S1986Y/F, F2004C/V, D2033Nはceritinib耐性/lorlatinib感受性であると予測された。M2001T、ゲートキーパー変異であるL2026M、およびG2101Aはceritinib感受性が残存すると予測された。G2032Rは3薬剤全てに耐性を示すと予測された。ROS1 L1982R変異やS1206Y変異に相当するものは、単一塩基置換では生じないため、発生しえないと結論付けられた。この予測モデルは、Katayama et al. ClinCancerRes 2015によるD2033N変異やL1982F変異のin vitroデータとも一致しており、その妥当性が支持された。

考察/結論

本研究は、crizotinib耐性ROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者から新規のS1986Y/F二重変異を同定し、その機能的特性をin vitro、in silico、および臨床統合解析を通じて詳細に解明した最初の報告である。特に、第3世代ALK/ROS1 TKIであるlorlatinibがS1986Y/F変異を克服できることを示し、患者の臨床的奏効によってその有効性を裏付けたことは、本研究の重要な新規性である。ROS1融合遺伝子陽性NSCLCはALK融合遺伝子陽性NSCLCよりも症例数が少なく、耐性変異に関する情報が乏しいという課題があった。本研究で構築された、ALKの豊富な臨床データをROS1に相同性によって転用する予測モデルは、この知識のギャップを埋める上で極めて有用である。

先行研究との違い: これまでのROS1耐性変異に関する報告はG2032RとD2033Nの2種類に限定されており、S1986Y/F変異は本研究で初めて同定された。また、Katayama et al. SciTranslMed 2012Doebele et al. ClinCancerRes 2012がALKにおける耐性メカニズムを詳細に報告しているのに対し、本研究はROS1とALKの構造的相同性に基づき、ALKの知見をROS1に「治療転用可能性」のパラダイムとして適用した点で対照的である。

新規性: 本研究で初めて、ROS1 S1986Y/F変異がcrizotinibおよびceritinibに対する耐性を付与するが、lorlatinibには感受性を維持することをin vitroで機能的に実証し、臨床的奏効によってその有効性を確認した。さらに、ROS1 S1986Y/F変異とALK C1156Y変異が構造的に相同であり、同様のTKI感受性パターンを示すことを明らかにし、この相同性に基づいたROS1変異全般に対するTKI感受性予測モデルを新規に構築した。このモデルは、ROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者の治療決定に直接貢献する実用的なツールを提供する。

臨床応用: 本知見は、ROS1再構成NSCLC患者の治療決定、特にcrizotinib耐性後の次治療選択において極めて重要な臨床的意義を持つ。例えば、S1986Y/F変異が同定された場合、ceritinibが無効である可能性が高いため、その投与を回避し、lorlatinibを選択するという具体的な指針を提供する。また、G2032R変異に対するlorlatinibの活性はin vitroで不明瞭であったため、foretinibやcabozantinibといった広域スペクトルTKIが代替候補となる可能性も示唆された。本研究は、反復生検による分子診断の不可欠性を再確認し、液体生検やDNAシーケンスで同定されたROS1変異からTKI感受性を予測できる実用的ツールを提供することで、個別化医療の推進に貢献する。

残された課題: 今後の検討課題として、予測モデルに含まれるものの、まだ臨床での発現頻度や感受性が検証されていないROS1変異 (M2001T, F2004C/V, G2101Aなど) の実際の臨床的意義を評価する必要がある。また、P-glycoproteinの効率や血液脳関門 (BBB) 透過性を含む薬物動態学的要因がTKIの有効性に与える影響を詳細に評価することも重要である。さらに、反復生検が困難な患者のために、cell-free DNAベースの非侵襲的モニタリング技術をROS1融合遺伝子陽性NSCLCに応用し、耐性変異を早期に検出する技術の開発が残された課題である。

方法

臨床・分子解析: Gustave Roussy Cancer Centerにおいて、crizotinib耐性を示したEZR-ROS1融合遺伝子陽性NSCLC患者から連続生検検体を取得した。患者は、分子スクリーニング研究であるMOSCATO (Molecular Screening for Cancer Treatment Optimization, NCT01566019) およびMATCH-R (Molecular Analysis for Therapy Choice-Resistance, NCT02517892) 試験の枠組みで同意を得て参加した。これらの検体を用いて、ROS1融合遺伝子および耐性変異の同定を行った。具体的には、Whole-exome sequencing (WES) によりROS1キナーゼドメインの変異を解析し、Comparative Genomic Hybridization (CGH) (Agilent technology) により遺伝子コピー数異常を評価した。ROS1融合パートナーの同定にはRNA-seq (Illumina technology) を用い、ROS1再構成の確認にはFISH法を実施した。FISH陽性基準は、腫瘍細胞の40%以上でROS1スプリットシグナルが検出されることとした。

In vitro機能実験: マウス由来のBa/F3細胞株をDSMZ細胞バンクから購入し、マイコプラズマ陰性を確認した。これらのBa/F3細胞に、レンチウイルスベクターを用いてEZR-ROS1^WT、EZR-ROS1^G2032R、EZR-ROS1^S1986F、およびEZR-ROS1^S1986Yの各融合タンパク質を発現させた。各細胞株に対し、crizotinib、ceritinib、およびlorlatinib (PF-06463922) を様々な濃度で48時間処理し、Cell-Titer-Gloアッセイにより濃度依存的な細胞生存率を評価した。IC50値を算出し、各TKIに対する感受性を比較した。また、3時間のTKI処理後、免疫ブロット法によりROS1のリン酸化 (pROS1) および下流シグナル経路 (pAKT, pERK, pS6) の活性化状態を評価した。使用した抗体はCell Signaling Technology社製である。

構造解析: ROS1の構造変化およびTKI結合様式を評価するため、in silico分子動力学シミュレーションを実施した。初期ROS1構造としてPDB 4UXLをProtein Data Bankからダウンロードし、Swiss-modelサーバーを用いて変異型タンパク質構造を生成した。Gromacs package 4.5.5とAmber99sb力場を用いて、野生型および変異型ROS1構造の分子動力学シミュレーションを10 ns実施した。TIP3P水モデルを使用し、オクテドラルボックスにタンパク質を溶解させた。RMSD (Root Mean Square Deviation)、RMSF (Root Mean Square Fluctuation)、およびタンパク質-リガンド相互作用エネルギーを解析し、PyMolソフトウェアで構造を可視化した。統計解析にはGromacsツールを用いた。

臨床lorlatinib投与: 患者は、ALKまたはROS1再構成NSCLC患者を対象としたlorlatinibの第I/II相臨床試験 (NCT01970865) に登録された。lorlatinibは100 mgを1日1回経口投与され、RECIST 1.1基準に基づき、CTスキャンによる腫瘍径の変化で治療効果を評価した。副作用はCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) に従って評価した。