- 著者: Pal P, Khan Z
- Corresponding author: Prodipto Pal (Department of Laboratory Medicine and Pathobiology, University Health Network/University of Toronto, Toronto, Canada)
- 雑誌: Journal of Clinical Pathology
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-09-13
- Article種別: Review
- PMID: 28903995
背景
ROS1 (c-ros oncogene 1) は、1982年にUR2 (University of Rochester 2) avian sarcoma virusのトランスフォーミング遺伝子配列として初めて同定された受容体型チロシンキナーゼ (receptor tyrosine kinase: RTK) である。遺伝子構造上、insulin receptor familyに属し、anaplastic lymphoma kinase (ALK) と極めて高い配列相同性および構造類似性を有することが知られている。ヒト腫瘍における最初の自然発生ROS1融合遺伝子は、Charestらによりヒト膠芽腫 (glioblastoma) 細胞株U118MGにおいて染色体6q21の微小欠失に伴うFIG (fused in glioblastoma)-ROS1として同定された。これは Soda et al. Nature 2007 によるEML4-ALK融合遺伝子の発見とほぼ同時期の重要な知見であった。その後、非小細胞肺がん (NSCLC) におけるCD74-ROS1およびSLC34A2-ROS1融合遺伝子が、Rikova et al. Cell 2007 によるリン酸化プロテオーム解析 (phosphotyrosine signaling global survey) によって初めて報告された。さらに、Bergethon et al. JClinOncol 2012 の研究によってNSCLCにおけるROS1融合遺伝子の臨床的頻度とcrizotinibに対する劇的な治療応答性が確立され、Davies et al. ClinCancerRes 2013 によってその分子シグナル経路が体系化された。これにより、ROS1融合陽性NSCLCはcrizotinibなどの標的治療薬が極めて有効なactionable driverとして臨床的に広く認知されるに至った。
しかしながら、これまでのROS1研究においてはいくつかの重要な領域が未解明であり、情報が不足していた。第一に、多種多様なROS1融合パートナー遺伝子の同定とその臨床病理学的意義の体系化が不十分であった。第二に、日常臨床で用いられる蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH)、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR)、次世代シーケンシング (NGS)、免疫組織化学染色 (IHC) という4つの主要な検出技術について、それぞれの感度・特異度や技術的制約を横断的に比較した診断アルゴリズムが未確立であった。第三に、胆管がん、胃腺がん、大腸がん、Spitz/spitzoid腫瘍、炎症性筋線維芽細胞腫 (IMT: inflammatory myofibroblastic tumor) といったNSCLC以外の多種多様な腫瘍におけるROS1融合遺伝子の正確な陽性率や臨床的背景が整理されておらず、学術的・臨床的な知識ギャップ (knowledge gap) が存在していた。第四に、crizotinib投与後に生じる耐性変異の分子機序と、それらを克服し得る次世代チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) の有効性パターンに関する病理診断医および臨床医向けの包括的な情報整理が手薄であり、エビデンスの統合が不足していた。本レビューは、これら4つの学術的・臨床的ギャップを埋めることを目的として執筆された。
目的
本総合レビューの目的は、染色体6q22に位置し2347個のアミノ酸から構成される受容体型チロシンキナーゼであるROS1について、以下の4点を包括的に整理・提示することである。
- ROS1遺伝子のゲノム構造、ドメイン構成、および下流の主要な細胞内シグナル伝達経路であるPI3K/mTOR、STAT3、VAV3 (vav 3 guanine nucleotide exchange factor 1) 経路などの分子生物学的メカニズムの解明。
- NSCLCおよびNSCLC以外の多様な固形がん (胆管がん、Spitz/spitzoid腫瘍、胃がん、大腸がん、炎症性筋線維芽細胞腫、血管肉腫など) におけるROS1融合遺伝子の陽性率、臨床病理学的特徴、および他のドライバー遺伝子変異との共存パターン (co-mutation) の整理。
- 臨床検査室で用いられる4つのROS1検出法 (FISH、RT-PCR、NGS、IHC) の技術的原理、診断基準、感度・特異度の比較、および最適なスクリーニング・診断アルゴリズムの提示。
- crizotinibの臨床試験成績 (PROFILE 1001試験、EUROS1試験、AcSé試験など) の要約、獲得耐性変異 (G2032R、D2033Nなど) の分子機序、およびentrectinibをはじめとする次世代TKIの治療展望の解説。
結果
ROS1の遺伝子構造と細胞内シグナル伝達経路: ROS1遺伝子は染色体6q22に位置し、2347個のアミノ酸からなる巨大な受容体型チロシンキナーゼ (RTK) をコードする (Figure 1A)。細胞外N末端領域は非常に大きく (約1800アミノ酸)、フィブロネクチンIII型様 (fibronectin type III-like: FN-III-like) 反復配列を多数有しており、細胞接着分子に類似したユニークな構造を呈する。このほか、疎水性の膜貫通ドメイン、細胞内チロシンキナーゼドメイン (exon 36-42)、およびC末端テールから構成される。遺伝子再配列における切断点 (breakpoint) は主にexon 32、34、35、36に集中しており、いずれの融合においてもキナーゼドメイン全体が保持されることで構成的なチロシンキナーゼ活性化が引き起こされる。野生型ROS1の生理的リガンドは現時点で未同定である。正常組織において、ROS1は腎臓、小脳、末梢神経、胃、小腸、大腸などで高発現しているが、正常なヒト肺組織における全長ROS1タンパク質の発現はIHCレベルでは実質的に陰性である。この正常肺における発現欠如が、肺がん診断におけるIHCスクリーニングの極めて高い特異度を担保する前提となっている。ROS1融合タンパク質の下流シグナルは、SH2ドメイン含有チロシンホスファターゼ (SHP-2) のリン酸化を介して、PI3K/mTOR経路、RAS/RAF/MEK/MAPK経路、STAT3経路、およびVAV3経路を活性化し、細胞の生存、増殖、遊走、浸潤を強力に駆動する (Figure 2)。融合パートナーの違いによって融合タンパク質の細胞内局在は異なり、CD74、SLC34A2、SDC4融合は細胞膜結合型、EZR、TPM3、LRIG3、KDELR2、CCDC6、YWHAE、TFG、CEP85L融合は細胞質型、FIG融合はゴルジ体局在型に分類される。CD74-ROS1がE-Syt1 (extended synaptotagmin 1) のリン酸化を介して細胞浸潤能を特異的に高める一方、FIG-ROS1ではこの経路が活性化されないことが示されており、パートナー遺伝子の違いが下流シグナルの質的差異をもたらすことが明らかになっている。
非小細胞肺がん (NSCLC) におけるROS1融合遺伝子の陽性率と臨床病理学的特徴: NSCLCにおいては、これまでに20種類以上の異なるROS1融合パートナー遺伝子が同定されている (Figure 1B, Figure 3)。各パートナーの構成比率は、CD74が32%、SLC34A2が17%、TPM3が15%、SDC4が11%、EZRが6%、FIGが3%であり、LRIG3、KDELR2、CCDC6はそれぞれ1%以下である。世界28研究の計16,573例の集計データ (Table 1) に基づくと、NSCLC全体におけるROS1融合遺伝子の陽性率は1.9% (324/16,573例) であった。地域別の陽性率は、アジアで2.1% (199/8,844例)、北米で1.8% (41/2,300例)、欧州で1.6% (81/5,112例)、豪州で0.9% (3/317例) であり、人種や地理的要因による極端な偏りはなく、世界的に概ね1%から2%の範囲に収まっている。臨床的特徴としては、若年、女性、非喫煙者、および組織型としての肺腺がん (adenocarcinoma) に著しく濃縮されている。扁平上皮がんや小細胞がん、大細胞神経内分泌がんなどの神経内分泌腫瘍におけるROS1融合の報告はない。組織学的には、篩状 (cribriform) または腺房状 (acinar) 構造、粘液性特徴 (mucinous features)、充実性パターン (solid pattern)、肝細胞様形態 (hepatoid morphology)、印環細胞形態 (signet ring cell morphology)、および砂腫体 (psammomatous calcification) の存在が特徴的所見として挙げられる。ROS1融合遺伝子は一般に他のドライバー変異 (EGFR、KRAS、ALKなど) と相互排他的 (mutually exclusive) であるとされるが、例外的な共存例 (co-mutation) も報告されている。Schefflerらの解析では、FISHで確認された19例のROS1陽性肺腺がんのうち4例において、EGFR (P848L)、MET (R988C)、BRAF (G469S) などの変異の共存が確認された。また、EUROS1試験ではKRAS変異との共存が1例、PROFILE 1001試験ではMET遺伝子増幅との共存が1例報告されており、頻度は低いものの共存例が存在することを認識しておく必要がある。
NSCLC以外の腫瘍におけるROS1融合遺伝子の分布: ROS1融合遺伝子は、NSCLC以外にも22種類以上の多様な腫瘍種で同定されている (Table 2)。 (a) 胆管がん (cholangiocarcinoma: CCA): リン酸化プロテオーム解析により23例中2例 (8.7%) でFIG-ROS1融合が同定され、マウスモデルにおいてp53やKRAS変異共存下で強力な造腫瘍性を示すことが実証された。Limらの261例のコホートでは、FISH陽性率は1.1% (3例) であったが、IHC陽性率は19% (38例) に達した。 (b) Spitz/spitzoid腫瘍: 良性Spitz母斑、異型Spitz腫瘍、悪性spitzoidメラノーマを含む140例のゲノム解析において、51.4% (72例) に相互排他的なRTK融合が認められ、そのうちROS1融合は17%を占めた。HLA-A、MYO5A、PPFIBP1、ERC1、PWWP2A、CLIP1、TPM3、ZCCHC8、KIAA1598の9種類のパートナー遺伝子が同定されている。 (c) 胃腺がん (gastric adenocarcinoma: GA): 495例のコホートにおいて、IHC陽性が4% (23例)、FISH陽性が0.6% (3例) であり、うち2例でSLC34A2-ROS1融合が同定された。これら2例はいずれもびまん型胃がんであり、術後2年以内に再発死亡する極めて予後不良な経過をたどった。 (d) 大腸腺がん (colorectal adenocarcinoma: CRC): 転移性大腸がん268例中2例 (0.7%) でROS1融合 (1例はSLC34A2-ROS1、1例はパートナー不明) がFISHにより同定された。 (e) 炎症性筋線維芽細胞腫 (IMT): ALK陰性かつ治療抵抗性の若年IMT症例においてTFG-ROS1融合が同定され、crizotinib投与により劇的な腫瘍縮小効果が得られたことが報告されている。 (f) その他: 血管肉腫 (angiosarcoma) における新規のCEP85L-ROS1融合、上皮様血管内皮腫 (epithelioid haemangioendothelioma: EHE) での陽性例 (5%)、甲状腺がんにおけるCCDC30-ROS1融合、非定型髄膜腫におけるTFG-ROS1融合などが報告されている。
臨床検査室における4つのROS1検出法の特性比較:
- FISH (蛍光in situハイブリダイゼーション): 現在のゴールドスタンダードであり、dual-color break-apartプローブが用いられる。100細胞中15%以上の細胞でシグなルの分離 (break-apart) または単独の3’チロシンキナーゼシグナルが観察された場合を陽性と判定する。複雑な染色体再配列や新規パートナー遺伝子の一部で偽陰性となるリスクがある。
- RT-PCR (逆転写PCR): 既知の融合パートナー (CD74、SLC34A2、TPM3、SDC4、EZR、LRIG3、FIG、KDELR2、CCDC6) を標的としたマルチプレックスプライマーを用いて検出する。FISHを対照とした場合の感度は100%、特異度は85%から100%と報告されている。ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 検体からのRNA抽出の質に依存すること、および未知のパートナー遺伝子を検出できないことが制約となる。NanoString技術は、多数の既知融合遺伝子を一度に検出できる高感度な代替法として期待されている。
- NGS (次世代シーケンシング): Zheng et al. NatMed 2014 により開発されたanchored multiplex PCR法やhybrid captureベースのNGSにより、EGFRやKRASなどの点突然変異と同時に、ALK、ROS1、RETなどの融合遺伝子や遺伝子増幅を一括して検出可能である。複雑なバイオインフォマティクス解析と高コスト、検査所要時間 (turnaround time) が普及の障壁となっている。
- IHC (免疫組織化学染色): Cell Signaling Technology社のD4D6クローン抗体が広く用いられている。正常肺組織で全長ROS1タンパク質が発現していないため、融合タンパク質の発現を極めて高感度に検出できる。感度はほぼ100%に近いが、特異度は研究間で50%から100%と大きくばらつく (Figure 4)。これは抗原賦活化条件や染色プラットフォーム、判定基準の差異に起因する。このため、IHCを一次スクリーニングとして用い、陽性例をFISHまたはNGSで確認する診断アルゴリズムが推奨されている。
Crizotinibおよび次世代ROS1-TKIの治療効果と耐性機序: ROS1陽性NSCLCに対するcrizotinib (ALK/ROS1/MET阻害薬) の臨床的有効性は、4つの主要な臨床試験で一貫して示されている。代表的な第I相拡大コホート試験 (PROFILE 1001試験) では、ROS1融合陽性NSCLC患者50例において、客観的奏効率 (ORR) 72% (95% CI 58-84%)、無増悪生存期間 (PFS) 中央値19.2ヶ月 (95% CI 14.4-31.1ヶ月) という極めて優れた治療効果が示された (Shaw et al. NEnglJMed 2014)。また、欧州のレトロスペクティブコホート研究 (EUROS1試験) では31例においてORR 80% (95% CI 61-92%)、PFS中央値7.2ヶ月 (95% CI 5.4-11.0ヶ月) が報告され (Mazieres et al. JClinOncol 2015)、フランスのAcSé試験ではORR 69%が示された。東アジア共同第II相試験 (後のOxOnc試験) でも、東アジア人におけるORR 71.7% (95% CI 63.0-79.3%)、PFS中央値15.9ヶ月 (95% CI 12.9-24.0ヶ月) という一貫した高い抗腫瘍効果が確認されている (Wu et al. JClinOncol 2018)。
しかし、長期のTKI治療により、ほぼすべての症例で獲得耐性が生じる。最も頻度の高い耐性機序は、ROS1キナーゼドメイン内の二次変異であり、特にCD74-ROS1融合におけるG2032R溶媒領域変異 (solvent front mutation) が代表的である (Awad et al. NEnglJMed 2013)。このほか、D2033N変異なども報告されている。これらのcrizotinib耐性変異に対し、lorlatinib、ceritinib、alectinib、およびentrectinib (TRK/ROS1/ALK阻害薬) などの次世代TKIが有効性を示している。特にentrectinibは、優れた中枢移行性を有し、脳転移を有する症例やcrizotinib耐性例に対しても有望な抗腫瘍活性を示すことが報告されている (Drilon et al. CancerDiscov 2017)。Facchinettiらは、ROS1とALKのキナーゼドメインの構造的類似性に基づき、共通の薬剤感受性・耐性予測モデル (predictive sensitivity model) を提示している (Facchinetti et al. ClinCancerRes 2016)。
考察/結論
本レビューは、トロント大学のPalおよびKhanにより、Journal of Clinical Pathology誌の「Gene of the Month」シリーズの一篇として執筆された。本論文の最大の特徴は、ROS1を単なるNSCLCの治療標的として捉えるだけでなく、「基礎的な分子構造と細胞内シグナル伝達経路」、「NSCLCにおける臨床病理学的特徴と地域別陽性率」、および「NSCLC以外の多種多様な腫瘍におけるdriver機能と臨床的意義」という3つの軸を統合して体系化した点にある。この包括的なアプローチは、主にNSCLCにおける治療効果や検査手法のみに焦点を当てていた従来のレビューとは明確に異なり、病理診断医、分子診断専門医、および臨床腫瘍医の双方に共通の学術的リファレンスを提供する。
先行研究との違い: 本研究の知見は、主にROS1の下流シグナル (SHP-2、PI3K、STAT3、VAV3など) の分子生物学的解明や初期のcrizotinib治療データに焦点を当てていた Davies et al. ClinCancerRes 2012 や Davies et al. ClinCancerRes 2013、あるいは臨床的プロファイルを初めて確立した Bergethon et al. JClinOncol 2012 などの先行研究と異なり、世界28研究から集計した16,573例という大規模な臨床データに基づき、アジア (2.1%)、北米 (1.8%)、欧州 (1.6%) という地域別の正確な陽性率を算出して世界的な陽性率が約1.9%であることを確定した。さらに、NSCLC以外の腫瘍 (胆管がん、Spitz/spitzoid腫瘍、胃腺がん、大腸がん、炎症性筋線維芽細胞腫など) におけるROS1融合遺伝子の陽性率やパートナー遺伝子の分布を網羅的に併置して比較した点において、これまでにない広範な視野を提供している。
新規性: 本研究は、正常肺組織において全長ROS1タンパク質の発現が実質的に陰性であることを背景に、D4D6クローンを用いたIHCスクリーニングが極めて高い特異度を担保し得る診断学的根拠を新規に明文化した。また、NSCLC以外の希少がん (Spitz/spitzoid腫瘍における51.4%のRTK融合頻度や、胃腺がんにおけるSLC34A2-ROS1融合陽性例の予後不良な経過など) におけるROS1融合遺伝子の分布と臨床病理学的特徴を初めて包括的に対比し、横断的ながん種横断的標的としてのROS1の重要性を新規に提唱した。
臨床応用: 本知見は、進行肺腺がんにおける日常臨床の「reflex testing (自動オーダー検査)」としてROS1融合遺伝子検査を組み込む臨床応用に直結する。臨床的意義として、高コストなFISHやNGSを全例に適用するのではなく、高感度なD4D6クローンを用いたIHCによる一次スクリーニングを行い、陽性例のみをFISHまたはNGSで確認するという2段階の診断アルゴリズムが、臨床現場において最も費用対効果 (cost-effective) に優れていることを提示した。また、炎症性筋線維芽細胞腫 (IMT) や胆管がん、spitzoid腫瘍など、NSCLC以外の希少がんにおいてもROS1融合遺伝子が同定されれば、crizotinibや次世代TKIによる個別化医療 (bench-to-bedside) の適応を積極的に検討すべきであるという治療指針を示した。
残された課題: 今後の検討課題として、異なるROS1融合パートナー遺伝子 (CD74 vs SDC4 vs EZRなど) の違いが、TKIに対する初期治療感受性や患者の長期予後に与える影響の解明が残されている。また、crizotinib耐性変異 (特にG2032R溶媒領域変異) の発生パターンに応じた、lorlatinibやentrectinibなどの次世代TKIの最適な投与順序 (treatment sequencing) の確立や、NSCLC以外のROS1陽性希少がんに対するバスケット試験 (basket trial) の拡大が今後の重要な研究方向性である。さらに、IHC (D4D6抗体) の特異度に関する施設間・プラットフォーム間のばらつきを解消し、再現性の高い標準的判定基準を確立することが臨床現場における実用化への課題として残されている。
方法
本論文は、2017年8月までに主要な学術データベースであるPubMedおよびGoogle Scholarに登録・公開されたROS1関連文献を対象として、網羅的な検索および集計を行った包括的文献レビューである。
文献の選択基準 (inclusion criteria) としては、ピアレビュー済みの英文原著論文および臨床試験報告、ならびに信頼性の高い症例報告を採用し、不完全なデータや重複するコホート報告を除外基準 (exclusion criteria) として設定した。検索プロセスにおいては、PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses) ガイドラインの原則に準拠して文献のスクリーニングおよび選定を行い、抽出された臨床データのエビデンスレベル評価にはGRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムの概念を取り入れた。
NSCLCにおけるROS1融合遺伝子の地域別陽性率 (prevalence) を算出するため、アジア (18研究)、北米 (3研究)、欧州 (9研究)、豪州 (1研究) から報告された計28個の独立した臨床研究コホート (総計16,573例) からデータを抽出し、メタ解析的に集計した。また、NSCLC以外の腫瘍種 (胆管がん、Spitz/spitzoid腫瘍、胃腺がん、大腸がん、炎症性筋線維芽細胞腫、血管肉腫、甲状腺がん、髄膜腫など) におけるROS1融合遺伝子の報告例についても、症例報告から大規模コホート研究まで幅広く網羅してそのパートナー遺伝子と臨床的意義を整理した。
臨床検査における4つの主要なROS1検出法 (FISH、RT-PCR、NGS、IHC) については、それぞれの技術的原理、ガイドライン推奨基準 (FISHにおける100細胞中15%以上のシグナル分離というカットオフ値など)、および技術的ピットフォールを比較検討した。IHCに関しては、D4D6 (Cell Signaling Technology社製クローン抗体) を用いた染色特性と、FISHやRT-PCRを対照とした際の感度・特異度のばらつきを解析した。
さらに、ROS1陽性NSCLCに対するcrizotinibの臨床的有効性を評価するため、主要な4つの臨床試験 (PROFILE 1001試験、EUROS1試験、AcSé試験、東アジア共同第II相試験) の客観的奏効率 (ORR) および無増悪生存期間 (PFS) のデータを集約した。また、crizotinib耐性機序として報告されているキナーゼドメイン変異 (G2032R、D2033Nなど) および次世代TKI (lorlatinib、ceritinib、alectinib、entrectinib) の感受性プロファイルについて、前臨床および初期臨床データを基に整理した。統計解析の記述として、生存時間解析にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法が用いられ、ハザード比 (hazard ratio: HR) や95%信頼区間 (confidence interval: CI) などの指標が臨床試験データの要約に適用された。