• 著者: Owonikoko TK, Dwivedi B, Chen Z, Zhang C, Barwick BG, Ernani V, Zhang G, Gilbert-Ross M, Carlisle J, Khuri FR, Curran WJ, Ivanov AA, Fu H, Lonial S, Ramalingam SS, Sun SY, Waller EK, Sica GL
  • Corresponding author: Owonikoko TK (Department of Hematology/Medical Oncology, Winship Cancer Institute of Emory University, Atlanta, GA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2020-11-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33248321

背景

小細胞肺がん (SCLC) は、初期の白金製剤ベース化学療法に対する高い奏効率にもかかわらず、極めて予後不良な疾患である。近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) がSCLCの治療選択肢として登場したが、その恩恵を受ける患者は一部に限定されており、治療効果の予測因子や治療抵抗性のメカニズムは未解明な点が多い。SCLCの生物学的特性の理解不足と治療反応性の主要な決定要因の解明が、依然として課題として残されている。

近年、SCLCのゲノム解析に関する複数の研究により、広範な腫瘍抑制遺伝子の喪失と転写因子の制御異常が報告されているが、腫瘍増殖の癌原性ドライバーにおける変異は稀であるとされている (Rudin et al. NatGenet 2012Peifer et al. NatGenet 2012)。これらの知見は、SCLCのサブタイプ分類に関する新たなコンセンサス形成に寄与している。具体的には、ASCL1、NEUROD1、YAP1、POU2F3という主要な転写因子の発現に基づいて、SCLC-A、SCLC-N、SCLC-Y、SCLC-Pの4つの異なるサブタイプが提唱されている (Rudin et al. NatRevCancer 2019)。しかし、これらのサブタイプ分類は主に不死化されたヒトおよびマウスSCLC細胞株と限られた数の原発腫瘍サンプルからのデータに基づいており、各サブタイプの臨床的意義、予後との関連、および免疫微小環境との関係についてはほとんど不明なままであった。特に、同じ白金ベース化学療法を受けたにもかかわらず、一部の患者が長期生存する生物学的基盤は未解明であり、この知識ギャップ (knowledge gap) を埋めるための臨床トランスレーショナル研究が強く求められていた。このように、臨床検体を用いた各サブタイプの免疫微小環境の包括的評価や、長期生存者における特異的な遺伝子発現プロファイルの解析は、これまでデータが圧倒的に不足していた。

本研究は、SCLCの新規サブタイプ分類の臨床的妥当性を確立し、特にSCLC-YサブタイプがT細胞炎症性表現型と関連し、良好な予後を示すという仮説を検証することを目的とした。これにより、ICB治療の恩恵を受ける可能性のある患者群を特定し、個別化医療の進展に貢献することが期待される。

目的

本研究の目的は、SCLCの4つの分子サブタイプ(SCLC-A、SCLC-N、SCLC-Y、SCLC-P)とT細胞炎症性表現型および長期生存との関連を、臨床検体、細胞株、および公開データセットを用いて系統的に解明することである。特に、YAP1を主要な転写因子とするSCLC-Yサブタイプに焦点を当て、その免疫学的特性と予後的意義を検証し、免疫チェックポイント阻害薬(ICB)に対する感受性との関連を評価することを目的とした。また、SCLC患者における生存アウトライヤー(長期生存者と短期生存者)間のトランスクリプトームの違いを特定し、予後を決定する生物学的基盤を明らかにすることも目指した。

結果

SCLCサブタイプ分布とカルチノイドとの比較: ディスカバリーセットのSCLC 32例のうち、71.8%が4つのサブタイプ(SCLC-A 16.9%、SCLC-N 5.1%、SCLC-Y 10.2%、SCLC-P 6.8%)のいずれかに分類された。残りの32.0%のSCLCはどのサブタイプにも分類されなかった。一方、カルチノイド27例の81.0%はSCLCサブタイプに分類されず、カルチノイド固有の生物学的特性を示した。これにより、SCLCサブタイプがカルチノイドとは異なるSCLC独自の生物学的特性を反映していることが示唆された (Figure 1A)。

生存アウトライヤーにおけるIFNγ応答経路の有意な上方制御: 臨床的に関連する予後因子でマッチングさせたSCLCの長期生存者(OS上位デシル)と短期生存者(OS下位デシル)間の差次的に発現する遺伝子に対するGSEA解析を実施した。その結果、長期生存者においてインターフェロン-γ (IFNγ) 応答遺伝子群が短期生存者と比較して有意に上方制御されていることが明らかになった (Figure 2B)。長期生存者のOS中央値は20.1 vs 8.1 months (HR 0.45, 95% CI 0.22-0.92, p=0.028) と、短期生存者と比較して有意に良好であった。

SCLC-YサブタイプにおけるT細胞炎症性GEPの最高値と免疫活性化表現型: Pembrolizumab応答予測因子として検証済みの18遺伝子T細胞炎症性GEPスコアは、SCLC-Yサブタイプで最高値を示した (Figure 3D)。長期生存アウトライヤーも短期生存者より有意にGEPスコアが高かった (Figure 3C)。さらに、SCLC-YサブタイプはHLA遺伝子ファミリーの28遺伝子の発現も最高値を示し、TCR遺伝子の発現も最高であった (Figure 4E, F)。これはSCLC-YがT細胞浸潤を示唆する「免疫学的にホットな」表現型を持つことを示している。SCLC-YサブタイプにおけるGEPスコアは、他のサブタイプと比較して有意に高かった (p<0.001)。

YAP1タンパク質発現と病期・予後との関連: 96例の神経内分泌腫瘍におけるYAP1タンパク質発現のIHC解析では、YAP1陽性率は限局期SCLCで進展期SCLCと比較して有意に高頻度であった (30.6% vs 8.5%; p=0.0058)。平均免疫スコアも限局期で15.5、進展期で0.6と有意差が認められた (p=0.03)。ディスカバリーセットにおける予後解析では、SCLC-YサブタイプはOS中央値20.1 vs 8.1 months (HR 0.38, 95% CI 0.16-0.90, p=0.027) と、他サブタイプ(SCLC-A 14.0ヶ月、SCLC-N 16.7ヶ月、SCLC-P 8.1ヶ月)と比較して一貫して良好な傾向を示した。PFS中央値もSCLC-Yで15.1ヶ月と最良であった (Supplementary Figure 1)。

独立検証コホートにおける主要所見の再現性: CCLEの51のSCLC細胞株を用いた独立検証では、SCLC-YサブタイプがIFNγ応答遺伝子シグネチャーの最高発現を示し (Figure 5B)、加重T細胞炎症性GEPスコアもSCLC-Yで最高値であった (Figure 5C)。また、George et al. Nature 2015 の81のヒト原発SCLC腫瘍データを用いた検証でも、SCLC-Yサブタイプにおける18遺伝子IFNγシグネチャーの最高発現 (Figure 6B) および最高加重GEPスコア (Figure 6C, D) が再現された。SCLC-YサブタイプにおけるGEPスコアは、SCLC-Aサブタイプと比較して約2.5倍高かった。

考察/結論

本研究は、SCLCのYAP1発現がT細胞炎症性表現型を伴う独自のサブタイプを定義し、良好な予後傾向を示すことを、3つの独立したデータセット(ディスカバリーセット、SCLC細胞株、ヒト原発SCLC腫瘍)で初めて確認した。SCLC-Yサブタイプは、T細胞炎症性GEPスコアの最高値、IFNγ応答遺伝子の高発現、HLA遺伝子の高発現、およびTCR遺伝子の高発現という「免疫感知性」表現型を持つことが示された。これは、SCLC-Yが免疫学的に活性化された微小環境を持つことを強く示唆する。

先行研究との違い: これまでのSCLCサブタイプに関する研究は主に細胞株や少数の一次腫瘍検体に基づいており、各サブタイプの臨床的意義や免疫微小環境との関連は不明な点が多かった。本研究は、大規模な臨床検体と独立した検証コホートを用いて、SCLC-Yサブタイプが免疫活性化表現型と関連し、良好な予後傾向を示すことを初めて実証した点で、これまでの報告と異なり重要な知見を提供する。特に、生存アウトライヤー解析により、長期生存者でIFNγ応答遺伝子が有意に上方制御されていることを同定したことは、SCLCの予後を決定する生物学的基盤の理解を深める上で新規性がある。

新規性: 本研究で初めて、SCLC-Yサブタイプが免疫活性化表現型と関連し、良好な予後傾向を示すことを、3つの独立したデータセットで確認した。SCLC-YはT細胞炎症性GEPスコア最高、IFNγ応答遺伝子高発現、HLA高発現、TCR高発現、CTA低発現という「免疫感知性」表現型を持つことが明らかになった。また、YAP1タンパク質発現が限局期SCLCで進展期SCLCよりも有意に高頻度であるというIHC所見は、SCLC-Yサブタイプが転移しにくい生物学的特性を持つ可能性、または腫瘍の病期進行とともにYAP1発現が変化することを示唆する新規の知見である。

臨床応用: SCLC-Yサブタイプが免疫活性化表現型を持つことから、このサブタイプは免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) への感受性が最も高い患者群である可能性が示唆される。Horn et al. NEnglJMed 2018Paz-Ares et al. Lancet 2019で示されたICB全体の統計的有意なOS改善の中でも、SCLC-Yが主な恩恵を受けているサブ集団である可能性があり、SCLC-YサブタイプはICB治療のバイオマーカーとして臨床応用される可能性がある。一方、SCLC-AおよびSCLC-Nサブタイプは「免疫学的にコールド」な表現型(低GEP、低HLA)を示し、ICB単独での恩恵が限定的である可能性がある。SCLC-Pサブタイプは中程度のGEPスコアと高発現のCTAを持つことから、化学療法とICBの組み合わせがより有効である可能性が考えられる。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationがある。第一に、後方視的研究であるため、患者およびサンプル選択における選択バイアスの可能性が否定できない。第二に、ディスカバリーセットのサンプルサイズが小さく、サブタイプ解析における統計的検出力が不足していたため、予後との関連で統計的有意差が得られなかった。第三に、本研究の患者はいずれもICB治療を受けておらず、SCLC-YサブタイプとICB感受性との直接的な関連は仮説的である。第四に、YAP1 IHCと転写レベルでのサブタイプ分類の対応関係が完全ではない点も今後の検討課題である。これらの課題を解決するためには、ICB治療を受けたSCLC患者におけるサブタイプ別解析を含む、より大規模な前向き研究が不可欠である。

方法

研究デザインと患者選択: 本研究は、Emory大学IRB (Institutional Review Board) の承認 (IRB00076758) を得て実施された後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) であり、3段階の発見・検証デザインを採用した。まず、機関データベースからSCLC患者579例を特定し、年齢、性別、初回治療でマッチングさせた生存アウトライヤー(全生存期間 [OS] 上位デシルと下位デシル)54組を含む271例から、アーカイブFFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) 腫瘍サンプルを収集した。さらに、中間的な生存期間の患者および肺カルチノイド患者27例のサンプルも対照として含め、合計59例の神経内分泌腫瘍(SCLC 32例、カルチノイド27例)をディスカバリーセットとした。本研究の主要評価項目 (primary endpoint) は、各サブタイプにおけるOSおよび無増悪生存期間 (PFS) の関連を検討することである。

RNAシーケンス (RNA-seq) とバイオインフォマティクス解析: ディスカバリーセットのFFPE腫瘍からRNAを抽出し、Illumina TruSeq RNA Exome kitを用いてRNA-seqライブラリを調製後、HiSeqX10でシーケンスを実施した。FASTQ (Fast Quality) ファイルはTrim GaloreとFASTQC (Fast Quality Control) でトリミングされ、STAR alignerを用いてGRCh38ヒト参照ゲノムにマッピングされた。遺伝子発現量はDESeq2パッケージで正規化され、log2変換後に下流解析に用いられた。差次的発現解析はDESeq2で、クラスタリング解析はConsensusClusterPlusで実施された。 遺伝子セット濃縮解析 (GSEA): 生存アウトライヤー間で差次的に活性化された経路を特定するため、GSEA (gene set enrichment analysis) を実施した。MSigDB C2 v7.0が使用された。 SCLCサブタイプ分類: shinySISPAツールを用いて、ASCL1、NEUROD1、YAP1、POU2F3遺伝子の発現プロファイルに基づき、59例の神経内分泌腫瘍をSCLC-A、SCLC-N、SCLC-Y、SCLC-Pのいずれかのサブタイプに分類した。 T細胞炎症性遺伝子発現プロファイル (GEP): Pembrolizumabの臨床効果予測因子として検証された18遺伝子T細胞炎症性GEP (gene expression profile) の加重スコアを各サンプルで算出した。 癌精巣抗原 (CTA) およびHLA・T細胞受容体 (TCR) 遺伝子解析: CTdatabaseに記載された206種のCTA (cancer testis antigen) 遺伝子の発現プロファイルを解析した。また、HLA (human leukocyte antigen) 遺伝子ファミリーおよびTCR (T-cell receptor) 遺伝子の発現も評価した。

免疫組織化学 (IHC) 検証: 96例の神経内分泌腫瘍(カルチノイド13例、限局期SCLC 36例、進展期SCLC 47例)のアーカイブ腫瘍サンプルを用いて、YAP1タンパク質発現を免疫組織化学的に評価した。

外部検証セット:

  1. Validation set 1 (SCLC細胞株): Broad Institute CCLE (Cancer Cell Line Encyclopedia) から公開されている51のヒトSCLC細胞株のRNA-seq発現データを解析した。
  2. Validation set 2 (原発SCLC腫瘍): George et al. Nature 2015 によって公開されている81のヒト原発SCLC腫瘍の正規化発現データを解析した。

統計解析: 統計解析には、カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法、ログランク検定 (log-rank test)、およびコックス比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を用いてOSおよびPFSとの関連を評価した。p値が0.05未満を統計的に有意とみなした。