- 著者: Sen T, Dotsu Y, Corbett V, Puri S, Sen U, Boyle TA, Mack P, Hirsch F, Aljumaily R, Naqash AR, Sukrithan V, Abdel Karim N
- Corresponding author: Triparna Sen (Department of Oncological Sciences, Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York, NY, USA)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2025
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 39756451
背景
肺神経内分泌腫瘍(NENs)は、低悪性度の高分化型神経内分泌腫瘍(定型カルチノイド、非定型カルチノイド)から、高悪性度・低分化で予後不良の大細胞神経内分泌癌(LCNEC)および小細胞肺癌(SCLC)まで、非常に異質な腫瘍群を包含する。SCLCの発生率は減少傾向にあるが、その他の肺NENの世界的発生率は過去数十年で増加している。例えば、米国では定型カルチノイドの発生率が1973年から2012年の間に5倍に増加し、0.3/10万人から1.49/10万人となったとDasari et al. (JAMA Oncol 2017) が報告している。LCNECは全肺癌の約3%を占める。従来のWHO組織学的分類に加え、分子・シーケンシング技術の進歩により、各サブタイプの生物学的理解が深まっている。しかし、希少性ゆえに前向き試験は乏しく、特に高分化型カルチノイドやLCNECにおいて治療エビデンスが不足している点が課題である。また、SCLCはこれまで単一の生物学的実体と考えられていたが、近年その異質性が明らかになり、分子サブタイプに基づいた治療アプローチの必要性が示唆されている (Rudin et al. NatRevCancer 2019)。特に、SCLCの分子サブタイプ分類(SCLC-A, -N, -Y, -P)や、LCNECのSCLC様、NSCLC様、カルチノイド様サブタイプなど、分子レベルでの理解の進展は著しい。しかし、これらの分子サブタイプを臨床バイオマーカーとして検証し、治療選択に結びつけるための前向き試験は依然として不足しており、この点が今後の大きな課題として残されている (George et al. Nature 2015)。
肺NENsの病理学的診断は、腫瘍細胞の形態、有糸分裂数、壊死の有無に基づいて行われるが、特に非定型カルチノイドと高悪性度NENsの鑑別は困難な場合があり、正確な診断が治療方針決定に不可欠である。例えば、2022年WHO分類では、Ki-67高値または有糸分裂高値のカルチノイドという新規カテゴリが導入され、より攻撃的な表現型を持つカルチノイドの存在が示唆されている (Rindi et al. Endocr Pathol 2022)。しかし、これらの分類が臨床的アウトカムにどのように影響するか、また治療選択にどのように組み込むべきかについては、さらなる研究が必要であり、この点は未解明な部分が多い。
SCLCは、TP53とRB1の不活化変異がほぼ普遍的に認められることが特徴であり、高い腫瘍変異負荷(TMB)と喫煙に関連するG→T置換が高頻度に見られる (George et al. Nature 2015)。NOTCHシグナリングの障害も共通の特徴であり、DLL3はSCLCの最大85%で細胞表面に発現し、有望な治療標的として注目されている (Saunders et al. SciTranslMed 2015)。LCNECは、ゲノムシグネチャーに基づいてSCLC様、NSCLC様、カルチノイド様の3つの分子サブタイプに分類されることが示されており (George et al. NatCommun 2018)、これにより個別化治療アプローチの可能性が示唆されている。しかし、これらの分子分類が臨床現場で広く活用されるためには、さらなる検証と標準化が必要であり、そのための前向き研究が不足している。
免疫チェックポイント阻害剤(ICI)は、進行期SCLCの1次治療においてプラチナ-エトポシド併用化学療法との併用で標準治療となり、生存期間の延長を示した (Horn et al. NEnglJMed 2018、Paz-Ares et al. Lancet 2019)。しかし、SCLCにおけるPD-L1発現やTMBは、NSCLCのような免疫療法反応性の予測マーカーとしては機能しないことが報告されており、免疫療法耐性機序の解明と克服が残された課題である (Burr et al. CancerCell 2019)。また、DLL3を標的とするT細胞エンゲージャー(TCE)であるタルラタマブが、進行SCLCの2次治療として承認され、新たな治療選択肢を提供している。しかし、これらの新規治療法が全ての患者に有効であるわけではなく、個別化された治療戦略を確立するためには、さらなる研究が必要である。
目的
本レビューは、肺神経内分泌腫瘍(NENs)のサブタイプ別の疫学、診断、病期分類を整理し、進化する分子ランドスケープとバイオマーカー(腫瘍表現型、機能的イメージング、新規分子マーカー)に焦点を当てる。具体的には、SCLCの分子サブタイプ分類(SCLC-A, -N, -Y, -P)や、LCNECのSCLC様、NSCLC様、カルチノイド様サブタイプなど、分子レベルでの理解の進展を強調する。さらに、臨床アウトカム、治療戦略、進行中の臨床試験、および今後の方向性を包括的にレビューすることを目的とする。特に、DLL3標的治療薬であるT細胞エンゲージャー(TCE)タルラタマブなどの新規治療の進展と、免疫療法耐性機序の克服、希少サブタイプにおける分子ベース治療の個別化といった今後の課題を詳述する。本レビューは、肺NENsの異質性を踏まえ、個別化された診断・治療戦略の確立に向けた最新の知見を提供し、今後の研究方向性を提示することを目指す。
結果
病理分類と診断の要点: 2022年WHO分類は、定型カルチノイド(2mm²あたり有糸分裂数2未満、壊死なし)、非定型カルチノイド(2mm²あたり有糸分裂数2-10または壊死あり)、SCLC・LCNEC(いずれも2mm²あたり有糸分裂数10超)に分類される。新たに「Ki-67高値または有糸分裂高値のカルチノイド」カテゴリが導入された。LCNECは神経内分泌形態(小柱、柵状、オルガノイド、ロゼット)と免疫組織化学(クロモグラニンA、シナプトフィジン、CD56/NCAM-1のうち少なくとも1つ陽性)で診断される (Table 1)。これらの分類は、腫瘍の悪性度と予後を反映し、治療戦略の決定に不可欠である。特に、非定型カルチノイドと高悪性度NENsの鑑別は、治療選択において重要な意味を持つ。DIPNECHは、肺神経内分泌細胞のびまん性増殖であり、WHOにより前浸潤性病変と見なされ、カルチノイド腫瘍の前駆病変である可能性が示唆されている。DIPNECH患者の約27%がカルチノイド腫瘍を発症することが報告されている (Sun et al. Eur Respir J 2022)。
ゲノミクスランドスケープと分子サブタイプ: カルチノイドは変異量が低く、クロマチンリモデリング遺伝子(MEN1変異11-22%)の変異が特徴である。SCLCはTP53とRB1の両アレル不活化変異が高頻度で、喫煙由来のG→T置換が高頻度に見られる (George et al. Nature 2015)。NOTCHシグナリング障害が共通の特徴であり、DLL3(NOTCH阻害因子)はSCLCの最大85%で細胞表面に発現し、治療標的として有望である。LCNECは、ゲノムシグネチャーに基づいて(1) SCLC様(RB1/TP53/CREBBP/EP300/MLL変異)、(2) NSCLC様(PI3K-AKT-mTOR、EGFR/ERBB2/FGFR1変異)、(3) カルチノイド様(MEN1変異)に分類される (Figure 4)。この分子分類は、LCNECの治療選択において個別化アプローチの可能性を示唆している。SCLCのゲノム解析では、SOX2遺伝子の高頻度増幅も報告されている (Rudin et al. NatGenet 2012)。
トランスクリプトミクスとSCLCサブタイプ: SCLCはASCL1(SCLC-A)、NeuroD1(SCLC-N)、YAP1(SCLC-Y)、POU2F3(SCLC-P)の転写因子で分子分類される (Rudin et al. NatRevDisPrimers 2021)。SCLC-Iは炎症性サブグループであり、免疫療法反応性のバイオマーカー候補である。SLFN11はPARP阻害剤反応の予測因子として示唆されている。LCNECのトランスクリプトーム解析では、George et al. NatCommun 2018の分類でtype 1(TP53+STK11-KEAP1、ASCL/DLL3高発現)とtype 2(TP53+RB1、NOTCH高発現)に分けられる。これらのサブタイプは、異なる治療感受性を持つ可能性があり、今後の臨床試験での検証が期待される。また、肺カルチノイドのシングルセルRNAシーケンシング解析では、腫瘍微小環境のリンパ系コンパートメントが正常肺組織と類似している一方で、骨髄系コンパートメントでは非炎症性単球由来骨髄細胞と筋線維芽細胞に富む浸潤が認められた (Bischoff et al. Int J Cancer 2022)。
DIPNECHとカルチノイドの治療戦略: DIPNECHはソマトスタチンアナログ(SSA)により症状改善と長期疾患制御が期待される。カルチノイドは手術切除が基本である。進行期ではエベロリムスがRADIANT-4肺サブグループ解析でPFSを改善し(9.2ヶ月 vs 3.6ヶ月、HR 0.50, 95% CI 0.28-0.88)、忍容性も良好であった。テモゾロミド(±カペシタビン)は客観的奏効率(ORR)14-30%、PFS中央値10ヶ月を示す。ソマトスタチン受容体(SSTR)陽性例に対するペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)はORR 27.3-39.0%、PFS 20.1-29.0ヶ月、OS 42-63ヶ月を達成した。カボザンチニブは進行期神経内分泌腫瘍(NETs)でPFSを改善した(8.4ヶ月 vs 3.9ヶ月)。早期カルチノイドに対する補助化学療法は、リンパ節転移を伴う定型カルチノイドの5年生存率を悪化させる可能性があり、ルーチンでの使用は推奨されない (Filosso et al. Eur J Cardiothorac Surg 2019)。
SCLC治療のブレークスルー: Horn et al. NEnglJMed 2018 および Paz-Ares et al. Lancet 2019 試験により、プラチナ-エトポシド+アテゾリズマブまたはデュルバルマブが進行期SCLCの標準1次治療となった。限局期SCLCでは、ADRIATIC試験で化学放射線療法後のデュルバルマブ地固め療法が有望な結果を示した。2次治療ではトポテカン、ルビネクテジン(ORR 35.2%)、パクリタキセル(ORR 24-29%)が用いられる。2024年にはタルラタマブ(DLL3-CD3 T細胞エンゲージャー)がDeLLphi-301試験(ORR 40%、PFS中央値4.9ヶ月)に基づき2次治療として承認された。BI 764532、HPN328、PT217など多数のDLL3標的療法が開発中である (Table 2)。限局期SCLCに対する化学放射線療法は、1日2回45 Gyまたは1日1回66 Gyのいずれかが推奨される (Turrisi et al. NEnglJMed 1999)。
LCNEC治療の課題とアプローチ: LCNECの最適治療は未確立であり、SCLCまたはNSCLCレジメンの外挿に基づく。早期例では手術+補助化学療法(プラチナ-エトポシド/イリノテカン優先)が推奨される。進行期はSCLC様またはNSCLC様1次治療、後治療にフルオロピリミジン+テモゾロミドまたはニボルマブ+イピリムマブが用いられる。免疫チェックポイント阻害剤の周術期および地固め療法における役割は、主要な研究から除外されているため、不明確である。LCNECはSCLCと比較してリンパ節転移が少ない傾向があり、早期病期で発見される可能性が高いことが示唆されている (Rekhtman et al. ClinCancerRes 2016)。
免疫療法の可能性(カルチノイド): スパルタリズマブ単剤でORR 16.7%を、ニボルマブ+イピリムマブは非定型カルチノイドでORR 33%を、テモゾロミド+ニボルマブはORR 64%(7/11例)を示したが、現行ガイドラインでは推奨に至っていない。PD-L1発現や腫瘍変異負荷 (TMB) はSCLCにおいて免疫療法反応性の予測マーカーとして機能しないことが示されている (Burr et al. CancerCell 2019)。SCLCにおける免疫療法耐性は、MHC class 1抗原提示経路の欠損に起因すると仮説が立てられており、EZH2阻害剤などのエピジェネティック治療がこの耐性を克服する可能性が検討されている。
考察/結論
肺神経内分泌腫瘍(NENs)は病理・分子・臨床アウトカムが極めて異質であり、サブタイプ別の個別化治療戦略が必須である。本研究は、(1) 高分化型カルチノイドと高悪性度神経内分泌癌の間にsupracarcinoidsと呼ばれる移行型が存在し、細胞可塑性・老化・免疫疲弊による脱分化が示唆される点、(2) SCLCの分子サブタイプ(SCLC-A/N/P/I)が治療応答予測に利用可能だが臨床バイオマーカーとしての検証が必要な点、(3) LCNECにおける3分子亜型分類は治療選択に有用だが前向き検証が未充足である点を強調する。
先行研究との違い: これまでのSCLC治療は化学療法が中心であったが、本レビューでは免疫チェックポイント阻害剤とDLL3標的療法の導入により、治療パラダイムが大きく変化していることを強調している点で、従来のレビューと対照的である。特に、DLL3標的治療薬タルラタマブの承認は、SCLC治療における過去30年で最大級の進展であり、その臨床的意義と今後の展望を詳細に論じた点で、これまでの報告と異なるアプローチをとっている。また、SCLCの分子サブタイプ分類(SCLC-A, -N, -Y, -P)が治療応答予測に利用可能である可能性や、LCNECの3分子亜型分類が治療選択に有用である可能性を、最新の知見に基づいて新規に整理した点も、これまでのレビューとは異なる。
新規性: DLL3標的T細胞エンゲージャーであるタルラタマブの承認は、SCLC治療における過去30年で最大級の進展であり、本研究で初めてその臨床的意義と今後の展望を詳細に論じた。また、SCLCの分子サブタイプ(SCLC-A/N/P/I)が治療応答予測に利用可能である可能性や、LCNECの3分子亜型分類が治療選択に有用である可能性を、最新の知見に基づいて新規に整理した。さらに、高分化型カルチノイドと高悪性度神経内分泌癌の間に存在する「supracarcinoids」という移行型腫瘍の概念を提示し、細胞可塑性、老化、免疫疲弊による脱分化の可能性を指摘した点も新規性がある。
臨床応用: EZH2阻害、ATR阻害、SEZ-6標的、SSTR2-PRRTなど新規治療標的が次世代治療の核となる可能性があり、これらの知見は将来の臨床現場における治療選択肢を広げることに繋がる。特に、タルラタマブの導入は、進行SCLC患者の治療選択肢を大幅に拡大し、臨床的有用性が高い。SCLCサブタイプに基づく個別化治療の進展は、より効果的な薬剤選択を可能にし、患者アウトカムの改善に貢献する。例えば、SCLC-NサブタイプはMYCの過剰発現によりオーロラキナーゼ阻害剤に反応しやすい可能性があり (Mollaoglu et al. CancerCell 2017)、SCLC-AサブタイプはBCL-2阻害剤に感受性を示す可能性がある (Sen et al. Nat Rev Clin Oncol 2024)。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) カルチノイドとLCNECにおける前向きランダム化試験の不足、(2) PD-L1/TMBがSCLCで予測マーカーとして機能しない免疫療法耐性機序(MHC class 1抗原提示欠損)の克服、(3) 希少サブタイプでの分子ベース治療個別化、(4) 高分化型NETの免疫療法エビデンス確立が挙げられる。特に、SCLCにおける免疫療法耐性の克服には、エピジェネティックモジュレーションやT細胞エンゲージャーなどの新規治療戦略の開発が不可欠である。また、SCLCの分子サブタイプを臨床バイオマーカーとして検証し、治療選択に結びつけるための前向き試験が依然として不足している。分子病理学・トランスレーショナル研究・臨床試験の連携が、この異質な疾患群の予後改善に不可欠である。
方法
本研究はレビュー論文であるため、特定の実験的手法は用いていない。著者らは、2021年WHO胸部腫瘍分類および2022年WHO神経内分泌腫瘍分類を基盤とし、びまん性特発性肺神経内分泌細胞過形成(DIPNECH)、SCLC、LCNEC、定型・非定型カルチノイドに関するゲノミクス、トランスクリプトミクス、エピジェネティクス研究を広範に調査した。主要な臨床試験として、RADIANT-2、RADIANT-4、SPINET、LUNA、Horn et al. NEnglJMed 2018、Paz-Ares et al. Lancet 2019、ADRIATIC、DeLLphi-301などの結果を統合し、進行中の臨床試験についてもレビューを行った。
文献検索は、PubMed、Google、Internet Explorer、Bingなどの電子データベースを用いて、1970年から2024年6月1日までの期間に発表された関連文献を対象とした。検索キーワードには、「pulmonary carcinoids」、「typical carcinoids」、「atypical carcinoids」、「pulmonary neuroendocrine neoplasms」、「small-cell lung cancer」、「large cell neuroendocrine carcinoma」、「lung neuroendocrine neoplasms」を含めた。診断および治療戦略に関する研究を優先的に抽出し、エビデンスレベルの高い研究を重点的に評価した。統計手法に関する記述は、各臨床試験の報告に基づき、ハザード比 (HR)、95%信頼区間 (95% CI)、p値などが用いられていることを確認した。例えば、RADIANT-4試験では、エベロリムス群とプラセボ群の無増悪生存期間(PFS)を比較するためにログランク検定が用いられている。また、SCLCの分子サブタイプ分類に関する研究では、トランスクリプトーム解析やゲノムシーケンシングデータを用いたクラスター解析が主要な手法として採用されている。本レビューでは、PRISMAガイドラインに準拠した系統的レビューは実施していないが、広範な文献検索と専門家による評価を通じて、肺NENsに関する最新かつ重要な知見を網羅的に収集・整理した。