- 著者: Takahide Matsui, Futaba Osaki, Shu Hiragi, Yuriko Sakamaki, Mitsunori Fukuda
- Corresponding author: Takahide Matsui; Mitsunori Fukuda (Tohoku University, Graduate School of Life Sciences, Sendai, Miyagi, Japan)
- 雑誌: EMBO Reports
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-03-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 33724661
背景
細胞外小胞 (EV) の中でも、エンドソーム起源の多胞体小体 (MVB) が形質膜と融合することで放出される小型EV (sEV、主に直径約100 nm) はエクソソームと呼ばれ、細胞間コミュニケーションの重要な媒体として研究が加速している Kalluri et al. Science 2020。エクソソームはタンパク質、脂質、核酸などのカーゴをMVBの腔内小胞 (ILV) へ選択的に取り込み、MVBが形質膜と融合することでILVがエクソソームとして細胞外に放出されることが知られている Pegtel et al. AnnuRevBiochem 2019。単一細胞から産生されるsEVはサイズや内容物において不均一 (sEV異質性) であることが認識されてきたが Colombo et al. JCellSci 2013、Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016、Zhang et al. NatCellBiol 2018、この異質性を生み出す分子機構はこれまで十分に理解されていなかった。
エクソソームのILV形成には大きく2種類の経路が知られている。一つはESCRT (endosomal sorting complexes required for transport) 依存経路であり、ESCRT-0/I/II/IIIの順次リクルートによるユビキチン化カーゴのMVBソーティングが関与する。もう一つはESCRT非依存経路であり、セラミド産生によるスフィンゴミエリンからセラミドへの変換がILV膜の負曲率を促進する機構 Trajkovic et al. Science 2008、またはALIX-Syntenin1 (Syntenin-1)-Syndecan1 (Syndecan-1) 複合体によるヘパラン硫酸プロテオグリカン依存的ILV形成 Baietti et al. NatCellBiol 2012 が報告されている。しかし、これらの経路が細胞内でどのように使い分けられ、sEV異質性を生むのかについては全く不明であり、この点が知識ギャップとして残されていた Mathieu et al. NatCellBiol 2019。
MDCK (Madin-Darby Canine Kidney) 細胞は明確な頂端-基底側非対称性 (極性) を持つ上皮細胞株であり、極性研究のin vitroモデルとして広く用いられている。インサートカルチャーシステムを用いることで、頂端側と基底側から分泌されるsEVを物理的に分離・独立して回収することが可能である。この特性は、sEV異質性を技術的に複雑なフローサイトメトリーや特殊デバイスなしに解析する実験系として最適と考えられ、本研究の基盤となった。従来の非極性細胞株を用いた研究では、複数のsEV産生機構を空間的に分離して解析することが困難であったため、極性細胞を用いたアプローチは、この知識ギャップを埋める上で重要な役割を果たすと期待された。
目的
本研究の目的は、MDCK極性上皮細胞の頂端側と基底側から放出されるsEVの特性の違いを詳細に解析し、それぞれの産生機構を分子レベルで同定することである。これにより、sEV異質性の分子基盤を明らかにすることを目指した。特に、ESCRT経路、ALIX、およびセラミド産生経路の各々が、頂端側および基底側からのsEV放出にどのように関与するかを体系的に検討し、これらの機構が独立して機能するのか、あるいは相互作用するのかを解明することを目的とした。また、頂端側または基底側に特異的なsEVマーカーを同定することも重要な目的の一つであった。本研究は、単一細胞から放出されるsEVの異質性を生み出す分子メカニズムが未解明であるという知識の不足を解消することを目的とする。
結果
頂端側・基底側からの異なるsEVサブタイプの確認: PEG沈殿法で回収したsEVを解析した結果、頂端側sEVにはFlotillin-1およびCD63が多く検出され、基底側sEVにはCD9およびCD81が多く検出された (Fig 1A)。Annexin Iは両側で陰性であった。密度勾配浮遊アッセイでは、いずれのEVマーカーもFraction 5に浮上し、膜性小胞であることが確認された (Fig 1B)。直接免疫親和性捕捉法により単離したCD63陽性sEVは頂端側で約3倍多く (n=5 replicates、p<0.01)、CD9陽性sEVは基底側で約3倍多く検出された (n=5 replicates、p<0.01)。NTAにより、これらのsEVのサイズは主に50-100 nmであり、エクソソームの典型的なサイズと一致した (Fig 1D, G)。CD63が形質膜に局在せず、CD63陽性sEVがAnnexin I陰性であることから、これらはエクソソームとして同定された。
新規頂端特異的エクソソームマーカーGPRC5Cの同定: 頂端側および基底側sEVのLC-MS/MS解析を実施した結果、検出されたタンパク質の84%は共通していたが、GPRC5Cは頂端側sEVのみで特異的に検出された (Fig 2B)。自作の抗GPRC5C抗体を用いたイムノブロット解析では、GPRC5Cは頂端側PEGペレット、密度勾配Fraction 5、および頂端側CD9陽性・CD63陽性sEVでのみ検出され、基底側sEVおよび細胞溶解物では陰性であった (Fig 2C, D, E, F)。この結果は、GPRC5CがMDCK細胞の新規頂端エクソソーム特異的マーカーであることを強く示唆する。
ESCRT機能阻害は両側からのsEV放出を増加させる: HRS (ESCRT-0)、TSG101 (ESCRT-I)、EAP20/30 (ESCRT-II)、CHMP6 (ESCRT-III)、VPS4A/Bの各ESCRTコンポーネントをsiRNAによりノックダウンすると、頂端側および基底側の両方でCD9陽性sEV放出が約2〜3倍増加した (n=3〜5 replicates、p<0.05〜0.01) (Fig 3A, B)。NTA解析では、sEVのサイズ分布に大きな変化は認められなかった (Fig 3C, D)。同様に、リソソームV-ATPase阻害剤であるBafilomycin A1処理によっても、CD9陽性sEV放出が両側で時間依存的に増加し (Fig EV2A-D)、MVBの膨大化が観察された (Fig EV2E, F)。これらの結果は、ESCRTコンポーネントの枯渇がリソソーム機能不全を引き起こし、その結果としてMVBのリソソームへの融合が阻害され、形質膜への融合とエクソソーム放出が代償的に促進されることを示唆している。
ALIXノックダウンは頂端側sEV放出を特異的に減少させる: ESCRTコンポーネントのノックダウンとは対照的に、ALIXのノックダウンは頂端側CD9陽性およびCD63陽性sEV放出を約60〜70%特異的に低下させた (n=3〜5 replicates、p<0.01) (Fig 3A, B)。基底側sEV放出には影響がなかった。ALIX-KD細胞ではMVBサイズに変化が認められず (Fig EV2F, G)、これはHRS-KDやVPS4-KD細胞で観察されたMVBの膨大化とは対照的であった。このことから、ALIXはESCRT機構とは独立してILV形成および頂端側sEV放出を制御することが示唆された。さらに、ALIXと三元複合体を形成することが知られているSyntenin1およびSyndecan1のノックダウンも、ALIX-KDと同様に頂端側CD9陽性sEV放出を選択的に低下させ、基底側への影響はなかった (n=3 replicates、p<0.05) (Fig EV4)。これらの結果は、ALIX-Syntenin1-Syndecan1複合体が、CD63を含む頂端側ILVの形成とMVBの頂端側放出を特異的に制御する分子プラットフォームとして機能することを示唆する。
nSMase2阻害剤GW4869は基底側sEV放出を特異的に阻害する: スフィンゴミエリナーゼ依存性のセラミド産生経路の関与を調べるため、中性スフィンゴミエリナーゼ (nSMase) 阻害剤GW4869 (10 nM、24時間) をMDCK細胞に処理した。その結果、基底側からのCD9陽性およびCD63陽性sEV放出が約70〜80%特異的に低下し (n=3〜5 replicates、p<0.01)、頂端側sEV放出には影響がなかった (Fig EV5A-D)。nSMase2のsiRNAノックダウンでも同様に基底側選択的なsEV放出の低下が確認され (Fig EV5E-H)、基底側sEV放出がセラミド産生に依存することが薬理学的および遺伝学的に示された。ただし、頂端側の全PEG沈殿sEV (P100) はGW4869処理でやや減少したが、頂端側CD63陽性・CD9陽性sEVタンパク質量への影響はなかった (Fig EV3A, B)。これは、セラミドが頂端側の未同定のCD63/CD9陰性sEVサブセットの放出にも関与する可能性を示唆する。
ALIXとセラミドは独立して機能する: ALIXノックダウンとGW4869処理の二重処理実験を行った。頂端側sEV放出はALIXノックダウン単独の場合と同様に低下し、GW4869の追加効果は認められなかった。一方、基底側sEV放出はGW4869単独の場合と同様に低下し、ALIXノックダウンの追加効果は認められなかった (n=3〜5 replicates、p<0.01) (Fig 4A, B, C, D)。この結果は、ALIX依存性経路とセラミド依存性経路が、それぞれ頂端側と基底側からのsEV放出を完全に独立して制御していることを明確に示している。
考察/結論
本研究は、分極上皮細胞が少なくとも2種類の独立した分子機構でsEVを産生・分泌することを初めて系統的に示した。具体的には、ALIX-Syntenin1-Syndecan1複合体が頂端側からのエクソソーム放出を、nSMase2依存的セラミド産生が基底側からのエクソソーム放出を、それぞれ独立して制御することが明らかになった (Fig 4E)。
先行研究との違い: 従来の研究では非極性細胞株を用いており、複数のsEV産生機構を空間的に分離して解析することは不可能であった。例えば、Trajkovic et al. Science 2008 はセラミド経路がMVBでのILV形成を促進することを示したが、どの極性ドメインと対応するかは不明であった。また、Baietti et al. NatCellBiol 2012 はALIX-Syntenin1-Syndecan1複合体のエクソソーム生合成への関与を示したが、その頂端側特異性は本研究で初めて明示された。さらに、本研究はESCRTコンポーネント (HRS、TSG101等) のKDがエクソソーム放出を増加させるという反直感的な結果を提示したが、これはリソソーム機能不全によるMVB-形質膜融合の代償的増加というモデルで説明され、従来のESCRTがエクソソーム放出を促進するという見方とは対照的である。
新規性: 本研究で初めて、単一細胞内での2種類の独立したエクソソーム産生機構の同時存在を実験的に証明したことは重要な新規性である。また、GPRC5CをMDCK細胞の頂端側エクソソーム特異的マーカーとして同定したことも新知見であり、将来の腎上皮における極性EV生物学の研究ツールとして有用である。異なるMVBサブプールの存在を示唆する知見も重要であり、CD63とCD9がほとんど共局在しないという免疫蛍光結果がこれを支持する。
臨床応用: 上皮組織からの極性的sEV放出は、腸管上皮、腎尿細管上皮、肺胞上皮など、様々な生理的および病理的コンテキストで重要である。頂端側sEVは管腔内に分泌されるため、消化管、尿路、気道における細胞間コミュニケーションに関与する可能性があり、基底側sEVは固有層や血管側に向かい、全身的なシグナリングに関与する可能性がある。また、癌の上皮-間葉転換 (EMT) で極性が喪失した場合のsEV放出パターンの変化は、診断や治療標的として興味深い。ALIX阻害や中性スフィンゴミエリナーゼ阻害を通じたエクソソーム放出制御は、腫瘍微小環境形成の抑制に応用できる可能性があるなど、臨床応用への道を開く知見である。
残された課題: 今後の検討課題として、頂端側と基底側のsEVが単一のMVBから産生されるのか、あるいは異なるMVBサブプールから産生されるのかは未解明である。本研究の免疫蛍光の結果は異なるMVBサブプールの可能性を示唆している。また、本研究は主にタンパク質マーカーによる定量を行っており、核酸や脂質内容物の差異は検討されていない。非分極細胞での同様の機構の存在 (CD63陽性とCD9陽性のsEVが異なるMVBから産生されるという報告 Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016) の詳細な機構解析も今後の課題である。
方法
MDCK II細胞およびヒトCD63安定発現MDCK細胞を、0.4 µmポアのセルカルチャーインサート上で4日間培養し、極性を確立させた。EV回収は、まず培地を700 gで5分、3,000 gで10分、10,000 gで30分遠心分離し、細胞、細胞破片、アポトーシス小体、重いマイクロベシクルを除去した。その後、0.22 µmフィルターでろ過して、残存する大きなEVを除去した(pre-cleared medium)。精製sEVは、ポリエチレングリコール (PEG) 沈殿法 (16% PEG-6000/1 M NaCl) または超遠心 (100,000 g、1時間) で実施した。精製したsEVの評価には、イムノブロット (Flotillin-1、CD63、CD9、CD81、Annexin I、TOMM20 (Translocase of Outer Mitochondrial Membrane 20))、OptiPrep密度勾配浮遊アッセイ (10フラクション)、直接免疫親和性捕捉 (Dynabeadsに結合した抗CD63または抗CD9抗体)、Nanoparticle Tracking Analysis (NTA、Malvern NanoSight NS300)、電子顕微鏡および免疫陰性染色を用いた。
質量分析 (LC-MS/MS、Q Exactive Plus) は、超遠心で精製した頂端および基底側sEV (各2 µg) のトリプシン消化後のペプチドをSWISS-Prot (Swiss-Prot) データベースに対してMASCOT Server (MASCOT Server) とScaffold viewerプログラムを用いて同定した。GPRC5C (G protein-coupled receptor class C group 5 member C) 特異的抗体は、そのC末端領域 (アミノ酸298-442) に対するウサギポリクローナル抗体として自作した。
siRNAノックダウン (KD) は、HRS、TSG101、EAP20、EAP30、CHMP6、VPS4A/B (ESCRTコンポーネント)、ALIX、Syntenin1 (Syntenin-1)、Syndecan1 (Syndecan-1)、nSMase2を個別に標的とした。Lipofectamine RNAiMAXを用いて、インサート移行前と4日後の2回トランスフェクションを行った。nSMase阻害剤GW4869 (10 nM、24時間、Sigma-Aldrich) およびリソソーム機能阻害剤Bafilomycin A1 (100 nM) を用いた薬理学的処理も実施した。統計解析には、2群比較にはunpaired two-tailed Student’s t-testを、多重比較にはone-way ANOVAとTukey’s test (GraphPad Prism6) を用いた。細胞株としてはMDCK II細胞およびHEK293T細胞を使用した。