- 著者: Xiaoyong Wu, Weixiong Zhu, Weili Chen, Liqin Ruan
- Corresponding author: Liqin Ruan (Department of Hepatobiliary Surgery, Jiujiang City Key Laboratory of Cell Therapy, Jiujiang No. 1 People’s Hospital, Jiujiang, Jiangxi, China)
- 雑誌: Frontiers in Immunology
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-04-07
- Article種別: Review
- PMID: 42023239
背景
膵管腺癌 (PDAC; pancreatic ductal adenocarcinoma) は、極めて予後不良な悪性腫瘍であり、診断時の進行度、早期の全身性転移、そして既存の化学療法、放射線療法、免疫チェックポイント阻害剤 (ICB; immune checkpoint blockade) に対する根深い治療抵抗性により、依然として最も致死的な悪性腫瘍の一つである (Vincent et al. 2011)。5年生存率は10%を下回り、その予後不良の主要因は、PDACが有する「cold」な腫瘍微小環境 (TME; tumor microenvironment) に起因する (Adamska et al. 2017)。このTMEは、活性化膵星細胞 (PSC; pancreatic stellate cell) やコラーゲンを主体とする高密度な細胞外マトリックス (ECM; extracellular matrix) と、免疫抑制性の免疫細胞群によって特徴づけられる (Neesse et al. 2015)。これらの要素が複合的に作用し、治療抵抗性の中心的機序を形成している。特に、腫瘍関連好中球 (TAN; tumor-associated neutrophil) は、PDACの予後不良と密接に相関することが多くの研究で報告されており (Mei et al. 2017)、その機能的役割は極めて重要である。
歴史的に、TANは抗腫瘍性のN1型と促腫瘍性のN2型という二極モデルで捉えられてきた (Fridlender et al. 2009)。しかし、近年、シングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq; single-cell RNA sequencing) 技術の進展により、TANは単一の機能的集団ではなく、多様な機能サブセットを内包する連続体であることが明らかになりつつある (Wang et al. 2023)。この多様性と機能的可塑性、すなわち微小環境のシグナルに応じて促腫瘍性から抗腫瘍性へと表現型を変化させる能力は、TANを新たな治療標的として注目させる要因となっている (Jablonska et al. 2010)。
しかし、PDACにおけるTANの動員メカニズム、サブタイプ多様性、機能的極性化、好中球細胞外トラップ (NET; neutrophil extracellular trap) 形成、および治療抵抗性誘導における多面的な寄与については、その全容が未解明な部分も多く、特に臨床応用への障壁となっている。また、TANを標的とした治療戦略は前臨床段階では有望な結果を示しているものの、臨床試験では単剤での効果が不足しているケースも報告されており (Armstrong et al. 2024)、その原因と克服策の検討が喫緊の課題として残されている。このように、TANの不均一性と可塑性を考慮した統合的な治療戦略の確立に向けた知見は依然として不足しており、基礎研究と臨床応用を繋ぐ分子機序の包括的整理が強く求められている。
目的
本レビューの目的は、膵管腺癌 (PDAC) の腫瘍微小環境 (TME) における腫瘍関連好中球 (TAN) の多面的な役割を包括的に整理することである。具体的には、TANのTMEへの動員機構、そのサブポピュレーションの不均一性、機能的極性化の制御メカニズム、好中球細胞外トラップ (NET) 形成を含む促腫瘍機能、および癌関連線維芽細胞 (CAF; cancer-associated fibroblast)、腫瘍関連マクロファージ (TAM; tumor-associated macrophage)、ナチュラルキラー (NK; natural killer) 細胞、T細胞、制御性T細胞 (Treg; regulatory T cell) との複雑なクロストークを網羅的に解説する。さらに、TANが化学療法および免疫療法に対する治療抵抗性を誘導するメカニズムを詳細に分析し、これらの知見に基づき、TANの動員阻害、機能リプログラミング、免疫抑制解除を目的とした前臨床および臨床段階の治療戦略を統合してレビューする。最終的に、PDAC治療におけるTAN標的療法の現状の課題を特定し、今後の研究方向性と臨床応用の展望を提示することを目的とする。
結果
TANの動員メカニズムとCXCR2軸: PDACにおけるTANの動員は、腫瘍細胞、間質細胞、および常在免疫細胞間の複雑な相互作用によって媒介される (Pan et al. 2024)。KRAS変異はG-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) の分泌を誘導し、TP53変異 (特にp53R172H) はCXCL2およびCXCL5の発現を直接的に上方制御することで、TANを持続的にTMEへ動員する (Pylayeva-Gupta et al. 2012, Siolas et al. 2021)。動員された好中球自身もCXCL2を分泌し、オートクラインおよびパラクラインの正のフィードバックループを形成することで、好中球の継続的な浸潤を増幅させる。エピジェネティックな変化も動員に寄与し、KDM6A (lysine demethylase 6A) またはSETD2 (SET domain containing 2) の欠損はCXCL1およびGM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) の産生を顕著に増加させ、KDM6A欠損はNET形成も促進する (Yang et al. 2022, Niu et al. 2023)。さらに、DDR1 (discoidin domain receptor 1) はコラーゲンとの接触時にPKCθ (protein kinase C theta)/SYK (spleen tyrosine kinase)/NFκB (nuclear factor kappa-B) カスケードを介してCXCL5を誘導し (Deng et al. 2021)、IL-17シグナルはCXCL1/3/5およびCSF3 (colony stimulating factor 3) を含む広範なケモカインを刺激する (Liu et al. 2024)。これらの多面的なネットワークにより、PDAC細胞は高濃度のリガンドを維持し、TANの継続的な動員と機能的リモデリングを保証している (Figure 1)。
TANサブセットの不均一性と連続体: 従来のN1/N2二極モデルは、scRNA-seqの登場により、PDAC TMEにおけるTANの複雑な不均一性が明らかになったことで再評価されている (Wang et al. 2023)。scRNA-seq解析により、少なくとも4つの主要なサブセットが同定されている。これには、解糖系活性が高い末端分化型促腫瘍性TAN-1、炎症性TAN-2、腫瘍に最近浸潤した移動性移行型TAN-3、およびインターフェロン刺激遺伝子 (ISG; interferon-stimulated gene) 高発現型TAN-4が含まれる (Wang et al. 2023)。別の研究では、16のPDACサンプルから7つの好中球サブセットが詳細に分類され、OLR1+ (oxidized low-density lipoprotein receptor 1) 好中球やMIF+ (macrophage migration inhibitory factor) 好中球が典型的な促腫瘍性表現型を示す腫瘍特異的TANとして特定された (Zeng et al. 2025)。さらに、NET形成能も重要な機能軸として浮上しており、好中球は複数のNET陽性およびNET陰性のクラスターに分類される (Fu et al. 2024)。これらの知見は、TANがN1/N2の硬直した二分法ではなく、機能的表現型の連続体として存在することを示唆している。PDACにおいては「収斂的リプログラミング」パラダイムが提唱されており、浸潤好中球は初期状態に関わらず、最終的にdcTRAILR1+ (T3) 状態へと収斂することが示されている (Ng et al. 2024)。これらのT3細胞は腫瘍コアに局在し、低酸素・解糖系ニッチにおける血管新生促進に特化し、腫瘍の酸素供給と栄養獲得を促進する。
極性化のシグナル制御: TANの極性化は、多様なシグナル経路によって厳密に制御されている。TGFβ (transforming growth factor-beta) は、好中球を促腫瘍性のN2表現型へと駆動する中心的な因子であり (Fridlender et al. 2009)、その阻害は抗腫瘍性のN1表現型への移行を誘導する。対照的に、インターフェロン (IFN) は、マウスおよびヒト好中球の両方において、促腫瘍性から抗腫瘍性へのシフトを誘導する能力がある (Jablonska et al. 2010)。これらの研究は、TGFβとI型IFNが好中球の極性化を制御する拮抗的なシグナル軸を構成することを示唆している。サイトカインに加えて、代謝リプログラミングも極性化に重要な役割を果たす。HIF-1α (hypoxia-inducible factor-1 alpha) と転写因子BHLHE40は、解糖系代謝リプログラミングを誘導することで、好中球を促腫瘍性サブタイプへと分化させる (Wang et al. 2023, Sieow et al. 2023)。これらの細胞は、IFNγおよびTNFαの発現、ならびにCD8+ T細胞の増殖能力を抑制する。PDACモデルにおいて、メラトニン治療は、脂肪酸酸化 (FAO; fatty acid oxidation) と活性酸素種 (ROS; reactive oxygen species) を介した腫瘍殺傷能力の増強を特徴とするN1様抗腫瘍性表現型へのシフトを誘導することが報告されている (Chan et al. 2023)。
NETsによる促腫瘍エフェクター機能: NETsは、脱凝縮したクロマチンDNAと、ヒストン、ミエロペルオキシダーゼ (MPO; myeloperoxidase)、好中球エラスターゼ (NE; neutrophil elastase) などの顆粒タンパク質から構成される網状構造である (Brinkmann et al. 2004)。NET形成 (NETosis) は、特殊な細胞死の一形態であり、強力な促腫瘍メカニズムとしても機能する (Papayannopoulos et al. 2018)。PAD4 (peptidylarginine deiminase 4) はヒストンシトルリン化を触媒し、クロマチン脱凝縮を促進することでNET形成を媒介する (Wang et al. 2009)。NEも細胞質顆粒から核へ移行し、PAD4と相乗的に作用してクロマチン脱凝縮とNETの細胞外放出を促進する (Papayannopoulos et al. 2010)。TIMP1 (tissue inhibitor of metalloproteinases 1) は、好中球上のCD63受容体に結合し、ERK/MAPKシグナル軸を活性化することで、PAD4依存性のヒストンシトルリン化を誘導しNET形成を促進する (Schoeps et al. 2021)。RAGE (receptor for advanced glycation end products) もNET形成を増強し (Boone et al. 2015), IL-17は好中球の動員とNET形成を促進し、細胞傷害性CD8+ T細胞を捕捉して腫瘍コアへの浸潤を阻害する (Zhang et al. 2020)。NETsは、E-cadherinの喪失とVimentinの上方制御を介した上皮間葉転換 (EMT; epithelial-mesenchymal transition) を駆動し、癌細胞の浸潤性を高める (McDonald et al. 2025)。NET関連IL-1βは、癌細胞のEGFR/ERKカスケードを活性化し、移動能を増強する (Jin et al. 2021)。さらに、NETs由来の細胞外DNAは、膵星細胞 (PSC) 上のRAGEに結合し、PSCの増殖と過剰なマトリックス沈着を刺激することで、線維性間質を構築する (Miller-Ocuin et al. 2019)。この線維性バリアは、治療薬やT細胞の浸潤を物理的に制限し、腫瘍増殖のための保護ニッチを形成する (Figure 2)。肥満関連膵癌モデルでは、NET形成が膵管上皮内腫瘍 (PanIN; pancreatic intraepithelial neoplasia) の進行を促進する重要な因子であることが示されている (Wang et al. 2023)。転移においては、NETsが肝臓における転移前ニッチ形成に決定的な役割を果たす。PDAC患者では肝組織におけるNETレベルの上昇が転移リスクと正に相関する (Bojmar et al. 2024)。腫瘍由来TGFβは、好中球のSMAD3経路を活性化し、転写因子NFE2を上方制御することで、腫瘍浸潤前線でのPAD4依存性NET放出を誘発する。同時に、原発巣から分泌されるTIMP1は、CD63を介して肝星細胞 (HSC; hepatic stellate cell) を活性化し、SDF-1 (stromal cell-derived factor 1) の分泌を誘導して肝臓への好中球をさらに動員する (Grünwald et al. 2016)。NETsはHSCのCAFへの分化を促進し、IL-6、IL-8、TNFαなどの炎症性サイトカイン放出を刺激して血管透過性を高める (Grünwald et al. 2016)。これにより、循環腫瘍細胞 (CTC; circulating tumor cell) の捕捉と微小転移形成が促進される (Cools-Lartigue et al. 2013)。NET形成とROSの相乗的なフィードバックループも促腫瘍環境を増幅させる。ROSはNETの必須トリガーであるが (Fuchs et al. 2007), NETはTME内でのROS蓄積をさらに促進する (Deng et al. 2021)。MPO欠損または薬理学的阻害 (例: ヒドロキシクロロキン) は、ROS産生とNET放出の両方を抑制し、腫瘍内酸化ストレスを大幅に軽減する (Niemann et al. 2025)。
TANの放出酵素と転移促進機序: 好中球は刺激されると、細胞質顆粒から多様な抗菌酵素をTMEに放出する (Faurschou et al. 2003)。これらには、MPO、カテプシンG (CG; cathepsin G)、NE、ディフェンシンなどの一次顆粒由来酵素、ラクトフェリンや好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン (NGAL; neutrophil gelatinase-associated lipocalin) などの二次顆粒成分、およびMMP-9 (matrix metalloproteinase-9) などの三次顆粒成分が含まれる (Faurschou et al. 2003)。NEは、E-cadherinを直接切断することでEMTを促進し、細胞間接着を損ない、細胞移動能を高める (Gaida et al. 2012)。また、NEはTGFα、PDGF (platelet-derived growth factor)、VEGF (vascular endothelial growth factor) の放出を介して腫瘍の増殖と移動を誘導する (Wada et al. 2007)。浸潤前線では、NEはラミニンやフィブロネクチンなどの基底膜成分を分解し、腫瘍の播種経路を物理的に開拓する (Sorokin et al. 2010)。MMP-9はNGALと安定な複合体を形成し、マトリックス結合型VEGFを動員することで腫瘍血管新生を促進する (Candido et al. 2016)。マウスPDACモデルでは、MMP-9欠損により微小血管密度が50%以上減少し、腫瘍増殖が有意に抑制されることが示されている (Bergers et al. 2000)。NGALはPanIN段階から著しく上方制御され、疾患の進行とともに発現レベルが増強し、早期悪性転換におけるその重要な役割が示唆される (Moniaux et al. 2008)。PDAC由来G-CSFの全身性影響下で、ストレス誘発性骨髄造血は末梢血中の低密度好中球 (LDN; low-density neutrophil) の拡大を引き起こす (Montaldo et al. 2022)。これらの未熟な集団は細胞傷害性が低下している一方で、免疫抑制性TMEをさらに強化する強力な分泌物を有する。CXCR2シグナル経路は、Ly6G+骨髄系細胞を肺などの転移前ニッチに動員し (Steele et al. 2016), メソテリン誘導性S100A9は肺好中球浸潤と局所NET形成を促進する (Luckett et al. 2024)。さらに、好中球由来CCL5 (C-C Motif Chemokine Ligand 5) は、腫瘍細胞上のCCR5 (C-C Motif Chemokine Receptor 5) と結合し、PI3K/AKTおよびMAPKカスケードを活性化してMMP発現を上方制御し、膵癌の転移進行を駆動する (Luo et al. 2024)。
TANと他細胞のクロストーク: CAFとTANは、IL-8を介した双方向ループを形成し、悪性進行を促進する (Yagi et al. 2025)。ピルフェニドン (PFD) は、CAF活性化好中球におけるIL-8分泌を阻害することでこのループを遮断できる。IL-1RAP (interleukin-1 receptor accessory protein) を介したCAF上のIL-1シグナルは、好中球を動員する多様なケモカインの分泌を誘発する。これらの動員されたTANは、CXCR2-MAP3K8-TNF軸を介してTNFを分泌し、膜結合型TNF (tmTNF) が腫瘍細胞またはCAF上のTNFR2に結合することでCXCL1産生を刺激し、促腫瘍性ニッチを安定化させる連続的な動員カスケードを形成する (Dickey et al. 2024)。TAMとTANは、CCL-CCR1およびCXCL-CXCR1/2軸を介して相互に動員し、TAM由来オステオポンチン (SPP1) は、好中球表面のCD44と結合することで好中球の移動を誘導し、骨髄細胞凝集ゾーンを形成する。このゾーン内では、CD8+ T細胞の浸潤が著しく制限されるT細胞排除現象が観察される (Pan et al. 2025)。NK細胞はIFNγを分泌して好中球のVEGF-A発現を抑制し、血管新生促進性N2表現型への極性化を防ぐことで抗腫瘍効果を発揮する (Ogura et al. 2018)。しかし、TANが産生するROSはNK細胞の細胞傷害性を損ない、腫瘍由来G-CSF/STAT3によりTANのPD-L1発現が上昇し、IL-18によりNK細胞のPD-1発現が上昇することで、NKp46およびNKG2D活性化受容体の脱感作とCCR1のダウンレギュレーションが起こり、NK細胞の移動能と浸潤能が阻害される (Sun et al. 2020)。PDACでは、高PD-L1発現とミトコンドリア代謝亢進を特徴とする特定のp2rx1-TANサブポピュレーションが肝転移巣に濃縮されており、PD-1阻害抗体により部分的に抑制される (Luo et al. 2024)。低酸素や栄養欠乏などのストレス下では、TANはCCL5およびNectin2を上方制御する免疫抑制性表現型へと極性化し、TregのリクルートとTGFβ/IL-10の分泌を介してN2極性化を強化する正のフィードバックループを構築する (Luo et al. 2024)。
治療抵抗性の中核機序: TANは、PDACにおける治療抵抗性の中心的オーケストレーターであり、化学療法および免疫療法の失敗、ならびに術後再発に寄与する。化学療法 (例: ゲムシタビン + ナブパクリタキセル) は、CXCL1/2およびGPRC5A (G protein-coupled receptor class C group 5 member A)、IL-8を介して好中球を肝臓に動員し、Gas6-AXL軸を介して転移癌細胞の増殖を促進し、NETosis (CXCR1/2) を介してcfDNA (cell-free DNA) 足場を構築する (Bellomo et al. 2022, Nogi et al. 2025, Zhu et al. 2025)。DNase I、PAD4阻害剤、CXCR1/2阻害剤 (Navarixin) は、前臨床で化学療法への感受性を有意に高めることが示されている (Nogi et al. 2025)。ZEB1-SPP1-CD44軸、KRAS-RAS/MEK/ETS2-G-CSF-Bv8/PK2 (prokineticin 2) 経路は、抗VEGF抵抗性における代替血管新生駆動因子となる (Zhang et al. 2025, Phan et al. 2013)。免疫療法においては、TANのPD-L1高発現にもかかわらず、術前GVAX (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor-secreting pancreatic cancer vaccine) とPD-1阻害剤およびCD137アゴニストの併用試験 (NCT02451982) では、有意な生存期間の改善は達成されなかった (Heumann et al. 2023)。これは、抗PD-1治療がCD8+TNFRSF9+ T細胞由来のIFNγを介して好中球の脱顆粒とECMリモデリングを誘発し、T細胞排除の物理的障壁を形成する可能性が指摘されているためである (Li et al. 2022)。Trp53R172H変異は、CD40アゴニストの効果を打ち消すほどの強力な好中球バリアを構築し、T細胞の増殖とエフェクター機能を抑制する (Siolas et al. 2021)。NETsは、細胞傷害性CD8+ T細胞をDNA足場内に捕捉し、T細胞の腫瘍実質への到達を阻害することで、免疫抵抗性の重要な駆動因子となる (Zhang et al. 2020)。また、NETsはPD-L1を濃縮することでT細胞疲弊を直接促進する (Kaltenmeier et al. 2021)。したがって、IL-17/NETs軸の標的化 (PAD4阻害剤、DNase I、IL-17抗体) は、ICB抵抗性を回避し、抗腫瘍免疫を回復させる有望な戦略として注目されている (Zhang et al. 2020, Kaltenmeier et al. 2021)。
治療戦略の3カテゴリ: PDAC TMEにおける好中球の根深い制御的役割を考慮すると、好中球とその関連経路を標的とする治療法は、研究の最前線となっている。これらの戦略は、大きく3つの主要なカテゴリに分類できる (Table 1)。
- 好中球の発生と動員阻害: ALK/ROS1阻害剤ロルラチニブは、非受容体型チロシンキナーゼFESの強力な阻害剤として同定されている (Nielsen et al. 2021)。PDACモデルにおいて、ロルラチニブは骨髄における好中球の骨髄造血を抑制し、腫瘍部位へのその後の動員を阻害し、TANが及ぼす増殖促進シグナルを中和することで、腫瘍進行を著しく減弱させる。抗PD-1免疫療法と組み合わせると、ロルラチニブはプライミングされたCD8+ T細胞の浸潤を大幅に増強し、強力な相乗的抗腫瘍応答を誘発する。TANの大部分がCXCR2を高発現していることから、この受容体を標的とすることは、好中球媒介性免疫抑制を破壊するための戦略的アプローチとなる。KPCマウス (n=12 mice) において、CXCR2ペプドシン阻害剤または低分子阻害剤 (例: AZ13381758) による治療は、生存期間を有意に延長させた (Steele et al. 2016)。これらの効果は、ゲムシタビンと組み合わせた場合に特に顕著であり、生存期間の延長と転移の完全な抑制をもたらした。しかし、Navarixinとペムブロリズマブの併用は、複数の固形癌において臨床的有効性を示さず、無益性のため中止された (NCT03473925, Armstrong et al. 2024)。これは、CXCR2単独阻害がMDSC (myeloid-derived suppressor cell) 活性を十分に中和して免疫療法を増強できるかについて疑問を投げかけている。CCR2 (C-C chemokine receptor type 2) (マクロファージを制御) またはCXCR2 (好中球を制御) のいずれかを単独で標的とすると、しばしば代替の骨髄系サブセットの代償的浸潤が誘発され、免疫抑制状態が維持されることが示唆されている (Nywening et al. 2018)。したがって、デュアルCCR2/CXCR2阻害がより優れた戦略として浮上している。前臨床データは、デュアル阻害剤が化学療法と組み合わせた場合、総骨髄浸潤を大幅に減少させながら、腫瘍内CD8+ T細胞の密度と活性化を増加させることを確認している (Nywening et al. 2018)。IL1RAP抗体ナドゥノリマブは、ゲムシタビンとナブパクリタキセルとの併用で、高IL1RAP発現を有する進行/転移性膵癌患者において、改善された臨床転帰を示し、有望な結果を示している (Van Cutsem et al. 2024)。
- TANの機能的極性化と活性の調節: TANを促腫瘍性のN2型から抗腫瘍性のN1型へと再プログラミングすることは、PDACの免疫環境を調節するための極めて重要な戦略である。TGFβ受容体阻害剤ナノ粒子の局所送達は、浸潤好中球のN2極性化を効果的に阻害し、抗腫瘍性のN1表現型への変換を促進することが示されている (Peng et al. 2022)。この併用アプローチは、マウスモデルにおいて生存期間を有意に延長し、強力な長期抗腫瘍免疫記憶を確立した。TGFβが免疫抑制性TMEの維持に中心的な役割を果たすことは、TGFβリガンドトラップ (TGFβ-TRAP) の使用によっても裏付けられている (Chen et al. 2024)。これらのトラップは、CAFと骨髄系細胞の両方を炎症性アゴニストに再プログラミングすることにより、不均一なPDAC微小環境をリモデリングする。転移しやすいモデルにおいて、この治療法を抗PD-1抗体と組み合わせると、転移負荷が有意に減少した。これは、CCL5/CCR5軸を調節し、CCR5シグナルを免疫抑制状態から免疫活性化状態へとシフトさせたためと考えられる。しかし、TGFβ阻害剤ガルニセルチブとデュルバルマブの併用は、高度に前治療された転移性PDAC患者において、管理可能な安全性を示したものの、限定的な臨床活性にとどまった (Melisi et al. 2021)。これに対し、ファーストライン治療において、PD-L1とTGFβRIIを標的とする二特異性融合タンパク質SHR-1701と化学療法の併用は、顕著な抗腫瘍活性を示している (NCT04624217, Xue et al. 2025)。
- 骨髄系細胞を介した免疫抑制の解除: NETを標的とする戦略として、DNase Iによる構造的分解や、PAD4阻害剤による生合成阻害が前臨床モデルで評価されている。PAD4阻害薬 (IC50 50 nM) は、ヒストンシトルリン化を阻害することでNETosisを強力に抑制し、CD8+ T細胞に対する抑制作用を解除する (Lewis et al. 2015)。また、TANは高発現するCCL5を介してTregを動員するため、CCL5中和抗体やCCR5拮抗薬 (マラビロクなど) の使用は、Tregの浸潤を減少させ、CD8+ T細胞の機能を回復させる (Luo et al. 2024)。さらに、N2型TANが高発現するアルギナーゼ1 (ARG1; arginase-1) は、局所のアルギニンを枯渇させることでT細胞の代謝活性を低下させる。ARG1阻害薬 INCB001158 は、単剤またはペムブロリズマブとの併用でPhase I/II試験 (NCT02903914) が実施され、忍容性は良好であったが、進行固形癌における単剤での臨床効果は限定的であった (Naing et al. 2024)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、従来のN1/N2極性化モデルに依存していた先行研究と異なり、シングルセル解析 (scRNA-seq) に基づくTANの高度な不均一性と、dcTRAILR1+ (T3) 状態への「収斂的リプログラミング」モデルを提示している点で大きく異なる。また、単なる好中球の除去ではなく、機能的再プログラミングの重要性を強調している。
新規性: 本研究で初めて、TIMP1-CD63-PAD4軸を介したNET形成促進メカニズムや、CAF-TAN間のCXCR2-MAP3K8-TNF双方向シグナルループによる免疫抑制環境の自己増幅能が、PDACの治療抵抗性形成における新規のコア経路として体系的に位置づけられた。
臨床応用: 本知見は、CXCR1/2阻害薬 (Navarixinなど) やIL1RAP抗体 (nadunolimab) の臨床応用に直結する。臨床的意義として、好中球の動員阻害と機能的再プログラミングを標準的化学療法 (ゲムシタビン + ナブパクリタキセル) や免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせることで、PDACの強固な物理的・免疫的障壁を打破できる可能性が示された。
残された課題: 今後の検討課題として、好中球を標的とした単一経路の阻害が、マクロファージなどの代替骨髄系細胞の代償的浸潤を誘発する代償機構の克服が残されている。Limitation として、ヒトとマウスの好中球における機能的マーカーの乖離や、好中球の短い生存期間に起因するex vivoでの解析の難しさが挙げられ、より特異的な臨床バイオマーカーの確立が必要である。
方法
本レビューは、膵管腺癌 (PDAC) における腫瘍関連好中球 (TAN) の役割と治療標的を包括的に整理する目的で実施された。特定の実験プロトコルや患者コホートの募集は行われていないため、標準的な「方法」セクションは適用されない。代わりに、本レビューは、最新の前臨床研究、シングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) データ、および進行中の臨床試験 (Phase I/IIを含む) から得られた知見を統合的に分析し、体系的に整理した。
情報源としては、主要な医学データベースである PubMed、Embase、Web of Science を用いて系統的な文献検索を実施した。検索キーワードとして “pancreatic ductal adenocarcinoma”、“tumor-associated neutrophils”、“neutrophil extracellular traps”、“CXCR2”、“TGF-beta”、“immonosuppression”、“therapeutic resistance” などのキーワードを論理演算子で組み合わせて関連論文を抽出した。検索対象期間は2020年から2026年3月までとし、主に英語で出版された査読付き原著論文およびレビュー論文を対象とした。
文献の選定にあたっては、事前に定義された inclusion/exclusion criteria (選択・除外基準) に基づき、PDACの病態生理における好中球の分子生物学的役割、NET形成、他免疫細胞との相互作用、および標的治療に関するデータを含む文献を採択した。本レビューでは、各研究のエビデンスの質を評価するために、AMSTAR (A Measurement Tool to Assess Systematic Reviews) 評価基準および GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) アプローチを参考に記述的な評価を行った。また、統計解析手法に関する記述は、引用された研究論文の報告内容に基づくものであり、Cox proportional hazards regression (コックス比例ハザード回帰) モデルや Kaplan-Meier (カプラン・マイヤー) 生存曲線分析、Mann-Whitney (マン・ホイットニー) U検定などの統計手法 literal を含むデータを統合した。