• 著者: Katsuyuki Kiura, Fumio Imamura, Hiroshi Kagamu, Shingo Matsumoto, Toyoaki Hida, Kazuhiko Nakagawa, Miyako Satouchi, Isamu Okamoto, Mitsuhiro Takenoyama, Yasuhito Fujisaka, Takayasu Kurata, Masayuki Ito, Kota Tokushige, Ben Hatano, Makoto Nishio
  • Corresponding author: Katsuyuki Kiura (Okayama University Hospital, Okayama, Japan)
  • 雑誌: Japanese Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-02-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29474558

背景

ALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子再構成は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の約3〜7%に認められる分子サブセットである Soda et al. Nature 2007Shaw et al. JClinOncol 2009。ALK阻害剤であるクリゾチニブは、このALK陽性NSCLC患者において、第一選択および二次治療として化学療法と比較して優越した効果を示すことが、2つの第III相臨床試験で報告されている Solomon et al. NEnglJMed 2014Shaw et al. NEnglJMed 2013。しかし、クリゾチニブ治療を受けた多くの患者は、最終的に薬剤耐性を獲得し、疾患が進行する Katayama et al. SciTranslMed 2012。特に、脳はクリゾチニブ耐性後の最も一般的な進行部位の一つとして知られている。

セリチニブ (LDK378; Novartis) は、次世代の選択的ALK阻害剤であり、酵素アッセイにおいてクリゾチニブの約20倍の強力な活性を示す Friboulet et al. CancerDiscov 2014。また、ラットを用いた研究では、血液脳関門を透過し、脳/血液曝露比が約15%であることが示されている。セリチニブの臨床的有効性は、先行する第I相ASCEND-1試験 Shaw et al. NEnglJMed 2014Kim et al. LancetOncol 2016 および第II相ASCEND-2試験 Crino et al. JClinOncol 2016 で確認されており、クリゾチニブおよび化学療法既治療のALK陽性NSCLC患者において、それぞれPFS中央値6.9ヵ月および5.7ヵ月という持続的な抗腫瘍効果を示した。これらの試験では、主に消化器系の有害事象 (AEs) (下痢、悪心、嘔吐) が報告されたが、その大半はGrade 1〜2の軽度なものであった。

グローバル第III相ASCEND-5試験では、クリゾチニブおよび1〜2レジメンのプラチナベース化学療法既治療のALK陽性NSCLC患者において、セリチニブが標準化学療法と比較して統計学的に有意かつ臨床的に意義のある無増悪生存期間 (PFS) の改善を示すことが報告された Shaw et al. LancetOncol 2017。この試験の全体集団における安全性プロファイルも、これまでの研究結果と一貫しており、新たな安全性シグナルは認められなかった。しかし、このグローバル試験における日本人患者のデータは、個別に詳細な報告がされておらず、日本人におけるセリチニブの有効性および安全性プロファイルに関する具体的なデータが不足していた。日本人患者における薬物動態および最大耐用量は、先行する日本の第I相試験およびASCEND-2試験の日本人サブセットで、グローバル試験と一致することが示されているものの、大規模な第III相試験における詳細な有効性データは未解明であった。この知識ギャップを埋めることが本研究の重要な目的である。

目的

本研究の目的は、グローバル第III相ASCEND-5試験に登録された日本人患者サブセットにおけるセリチニブの有効性(無増悪生存期間 [PFS]、客観的奏効率 [ORR])および安全性プロファイルを詳細に評価することである。これにより、全体集団で得られた結果との一貫性を確認し、クリゾチニブおよび化学療法後に進行したALK再構成NSCLCの日本人患者におけるセリチニブの臨床的有用性を明確にすることを目指す。具体的には、セリチニブ群と標準化学療法群のPFS、全生存期間 (OS)、ORR、病勢コントロール率 (DCR)、頭蓋内奏効率 (OIRR)、頭蓋内病勢コントロール率 (IDCR) を比較し、日本人患者におけるセリチニブのベネフィット・リスクバランスを評価する。

結果

患者背景: ASCEND-5試験に無作為化された全231例中、日本人患者は29例であった。セリチニブ群にはn=11例、化学療法群にはn=18例(ペメトレキセド5例、ドセタキセル13例)が割り付けられた。両群の患者は、年齢中央値(セリチニブ群52.0歳 [範囲32.0-68.0] vs 化学療法群50.0歳 [範囲31.0-72.0])や性別(女性比率セリチニブ群72.7% vs 化学療法群55.6%)において、全体集団と類似した特徴を示した。全患者がアジア人であり、Stage IVの転移性疾患を有していた。WHOパフォーマンスステータスは、セリチニブ群の81.8%(9/11)および化学療法群の94.4%(17/18)が0または1であった。ベースライン時に脳転移を有する患者は、セリチニブ群で63.6%(7/11)、化学療法群で55.6%(10/18)であった。全患者がクリゾチニブおよび1〜2レジメンのプラチナベース化学療法の前治療歴を有していた(Table 1)。データカットオフ時点で、セリチニブ群の8例(72.7%)および化学療法群の18例(100%)が治療を中止しており、セリチニブ群の3例(27.3%)は治療を継続していた。中止の主な理由は疾患進行であり、セリチニブ群で7例(63.6%)、化学療法群で17例(94.4%)に認められた。化学療法群の患者のうち16例(88.9%)は、治療中止後にセリチニブへのクロスオーバーを受けた。

主要評価項目PFS: 全体集団の追跡期間中央値は、セリチニブ群で16.6ヵ月(範囲2.8-30.1)、化学療法群で16.4ヵ月(範囲2.9-30.9)であった。日本人サブセットにおけるBIRC評価によるPFS中央値は、セリチニブ群で9.8ヵ月(95% CI, 4.3-14.0)であり、化学療法群の1.6ヵ月(95% CI, 1.4-3.0)と比較して有意な改善を示した(HR 0.17, 95% CI 0.05-0.61, p<0.001)。このPFSの利益は、全体集団(セリチニブ群5.4ヵ月 vs 化学療法群1.6ヵ月、HR 0.49)の結果と一致する方向性を示し、日本人サブセットでは数値的にさらに長いセリチニブのPFSが観察された(Figure 1, Table 2)。治験医評価によるPFS中央値も、セリチニブ群で9.8ヵ月(95% CI, 2.9-18.9)、化学療法群で1.7ヵ月(95% CI, 1.3-3.2)と、BIRC評価結果と一貫していた。

副次評価項目OS、ORR、DCR: 日本人サブセットにおけるOS中央値は、セリチニブ群で23.9ヵ月(95% CI, 6.6-NE)、化学療法群で22.8ヵ月(95% CI, 8.3-NE)であり、両群間で類似していた(HR 0.88, 95% CI 0.27-2.82, p=0.82)。24ヵ月OSイベントフリー率は、セリチニブ群で38.8%(95% CI, 6.9-71.5)、化学療法群で40.0%(95% CI, 12.4-66.8)であった。ORRは、セリチニブ群で54.5%(95% CI, 23.4-83.3)と高かったのに対し、化学療法群では0%(95% CI, 0.0-18.5)であった。同様に、DCRはセリチニブ群で90.9%(95% CI, 58.7-99.8)、化学療法群で33.3%(95% CI, 13.3-59.0)であり、セリチニブ群で有意に高かった(Table 2)。個々の患者における腫瘍径の合計変化率のベースラインからの最良変化はFigure 2に示されており、セリチニブ群の患者の多くで腫瘍縮小が認められた。

頭蓋内奏効: BIRCの神経放射線医評価によると、ベースライン時に脳転移(測定可能および/または非測定可能病変)を有する患者はn=15例(セリチニブ群5例、化学療法群10例)であった。これらの患者におけるOIRRは、セリチニブ群で20.0%(95% CI, 0.5-71.6)、化学療法群で0%(95% CI, 0.0-30.8)であった。IDCRは、セリチニブ群で60.0%(95% CI, 14.7-94.7)、化学療法群で70.0%(95% CI, 34.8-93.3)であった(Table 2)。セリチニブ群の4例の測定可能脳転移患者のうち、1例が部分奏効を示した。

安全性プロファイル: 日本人患者における治療曝露期間中央値は、セリチニブ群で48.1週(範囲0.3-122.9)、化学療法群で6.2週(範囲3.0-48.0)であった。治験薬関連と疑われるGrade 3/4の有害事象 (AEs) は、セリチニブ群で36.4%(4/11)に報告されたのに対し、化学療法群では72.2%(13/18)と、セリチニブ群で著明に低頻度であった(Table 3)。Grade 3/4の下痢、悪心、嘔吐はいずれの治療群でも報告されなかった。有害事象による治験薬中止は各群で1例のみであった。セリチニブ群ではGrade 3の中枢神経系転移、化学療法群ではGrade 3の発熱性好中球減少症が中止理由であった。セリチニブ群で最も頻繁に報告されたあらゆるグレードのAEs(治験薬との関連性にかかわらず)は、下痢(81.8%)、悪心(63.6%)、嘔吐(63.6%)であった。化学療法群では、脱毛症、好中球減少症(各38.9%)、発熱性好中球減少症(33.3%)がより高頻度であった(Table 3)。セリチニブ群で最も頻繁に報告された(≥10%)Grade 3/4のAEは、γ-グルタミルトランスフェラーゼ増加(27.3%)であった。化学療法群では、好中球減少症、発熱性好中球減少症(各33.3%)、白血球減少症、好中球数減少(各16.7%)が最も頻繁に報告されたGrade 3/4のAEであった(Table 4)。セリチニブ群では間質性肺疾患(ILD)は報告されなかったが、化学療法群で1例(5.6%)にILDが報告された。セリチニブ群では3例に心電図QTc延長が報告されたが、いずれもGrade 1であり、治療中止には至らなかった。重篤な有害事象 (SAEs) はセリチニブ群で27.3% (3/11)、化学療法群で22.2% (4/18) に認められた。

考察/結論

本報告は、グローバル第III相ASCEND-5試験の日本人サブセット解析の結果であり、クリゾチニブ耐性ALK陽性NSCLCの日本人患者において、セリチニブ750mg/日が標準的な二次化学療法(ペメトレキセドまたはドセタキセル)と比較して明確な有効性の上乗せを示すことを確認した。PFS中央値はセリチニブ群で9.8ヵ月(95% CI, 4.3-14.0)、化学療法群で1.6ヵ月(95% CI, 1.4-3.0)であり、ハザード比0.17(95% CI, 0.05-0.61)はセリチニブの優位性を明確に示している。日本人サブセットの症例数が少ないため統計学的検定には限界があるものの、PFSの点推定値は全体集団の5.4ヵ月を上回り、日本人患者におけるセリチニブの臨床有用性が強く支持された。

先行研究との違い: 本研究で観察された日本人患者のPFS中央値9.8ヵ月は、ASCEND-5全体集団のPFS中央値5.4ヵ月と比較して数値的に長い傾向を示した。これは、日本人サブセットのサンプルサイズが小さいことや、前治療レジメン数の違い(ASCEND-5日本人サブグループでは2ラインの化学療法を受けた患者がいないのに対し、全体集団では11%に存在した)に起因する可能性があり、これまでの報告とは異なる傾向である。しかし、化学療法群のPFS中央値は日本人サブセット(1.6ヵ月)と全体集団(1.6ヵ月)で類似しており、セリチニブの有効性が日本人において特に顕著である可能性も示唆される。

新規性: 本研究は、クリゾチニブおよび化学療法既治療のALK陽性NSCLC日本人患者を対象とした、セリチニブの有効性と安全性を評価する初の第III相試験のサブセット解析である。これにより、日本人におけるセリチニブのベネフィット・リスクプロファイルがグローバル試験の結果と一貫していることが確認され、これまで報告されていない日本人特有の臨床データが提供された。特に、Grade 3/4の治療関連有害事象がセリチニブ群で36.4%と化学療法群の72.2%と比較して著明に低頻度であったことは、日本人におけるセリチニブの良好な忍容性を新規に裏付けるものである。

臨床応用: 本知見は、クリゾチニブ耐性ALK陽性NSCLCの日本人患者に対するセリチニブの有効な二次治療選択肢としての位置づけを強化する。特に、消化器系有害事象(下痢、悪心、嘔吐)が軽症主体であり、Grade 3/4が報告されなかったことは、日本人患者における忍容性が実用的な水準であることを示唆する。現在推奨されている食後450mg/日投与への最適化は本試験後に確立されたが、本研究結果は、消化器系有害事象に対する早期介入と用量調整により、セリチニブが日本人患者において管理可能であることを示している。

残された課題: 本サブセット解析にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、日本人サブセットの症例数(n=29)が少ないため、統計学的検出力に限界があり、確定的結論には大規模な前向き研究が必要である。第二に、同時期に開発が進んでいたアレクチニブ(J-ALEX試験など)や、ブリガチニブ、ロルラチニブといった第三世代ALK阻害剤との直接比較データが欠如している。第三に、日本人患者におけるCNS有効性(OIRR/IDCR)の詳細な解析、特に脳転移のサブタイプや治療歴に応じた効果の評価が今後の課題である。第四に、現在推奨される食後投与での低用量セリチニブの日本人における有効性および忍容性評価が残されている。最後に、ALK耐性変異のプロファイルやその他のバイオマーカーに基づく効果予測因子の同定が、今後の個別化医療の進展のために重要である。

方法

ASCEND-5試験は、オープンラベル、無作為化、第III相試験 (ClinicalTrials.gov identifier: NCT01828112) として、日本を含む20カ国で実施された。対象患者は、FDA承認のVysis ALK Break Apart FISH ProbeテストによりALK再構成陽性が確認された局所進行または転移性NSCLCの成人患者であった。主要な組み入れ基準として、プラチナベースの細胞障害性化学療法およびクリゾチニブ(21日以上)による前治療歴があり、疾患進行が確認されていることが求められた。WHOパフォーマンスステータスは0〜2、RECIST v1.1に基づく測定可能病変が1つ以上存在すること、および無症候性の中枢神経系(CNS)病変は許容された。

患者は、セリチニブ750mg/日経口投与(絶食下、連続21日サイクル)群または化学療法群(ペメトレキセド500mg/m²またはドセタキセル75mg/m²、投与医選択、21日ごと静脈内投与)に1:1の割合で無作為に割り付けられた。無作為化は、WHOパフォーマンスステータス(0 vs 1-2)およびスクリーニング時の脳転移の有無(あり vs なし)を層別化因子として実施された。セリチニブ群では、最大3回(各150mg、最低300mg/日まで)の減量が許可された。化学療法群の患者は、盲検下独立評価委員会(BIRC)により疾患進行が確認された場合、セリチニブ治療へのクロスオーバーが許可された。

主要評価項目は、BIRC評価によるPFSであり、無作為化からBIRCにより放射線学的に確認された最初の疾患進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。主要な副次評価項目は全生存期間(OS)であり、その他の副次評価項目には、治験医評価PFS、BIRCおよび治験医評価による客観的奏効率(ORR)および病勢コントロール率(DCR)、BIRCの神経放射線医評価による頭蓋内奏効率(OIRR)および頭蓋内病勢コントロール率(IDCR)、ならびに安全性プロファイルが含まれた。

有効性評価のため、ベースライン時および治療期間中は、RECIST 1.1に基づき全身および頭蓋内腫瘍評価が実施された。安全性評価は、有害事象(AEs)、重篤な有害事象(SAEs)、血液検査、生化学検査、バイタルサイン、心電図などを用いて、CTCAE v4.03に従って行われた。

統計解析は、日本人サブセットの患者を対象としたサブグループ解析として実施された。有効性エンドポイントはintention-to-treat原則に従って解析され、安全性アウトカムは少なくとも1回の治験薬投与を受けた全患者で評価された。PFSおよびOSはカプラン・マイヤー法を用いて推定され、その中央値と95%信頼区間(CI)が算出された。ハザード比(HR)と95% CIは、無作為化因子で層別化されたCox回帰モデルを用いて推定された。ORR、DCR、OIRR、IDCRは、正確二項95% CI(Clopper-Pearson法)とともに報告された。データカットオフ日は2016年1月26日であった。