• 著者: Felip E, de Braud FG, Maur M, Loong HH, Shaw AT, Vansteenkiste JF, John T, Liu G, Lolkema MP, Selvaggi G, Giannone V, Cazorla P, Baum J, Balbin OA, Wang L, Lau YY, Scott JW, Tan DSW
  • Corresponding author: Enriqueta Felip (Vall d’Hebron University Hospital and Vall d’Hebron Institute of Oncology, Barcelona, Spain)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2019-10-18
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31634667

背景

非小細胞肺がん (NSCLC) の治療は、がん遺伝子ドライバー変異を標的とする薬剤や免疫チェックポイント阻害薬の登場により大きく変化している。ALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子再構成は、NSCLC患者の3%から7%に認められる重要な発がん性ドライバーである Soda et al. Nature 2007Shaw et al. JClinOncol 2009。セリチニブは選択的経口ALK阻害薬 (ALKI) であり、転移性ALK再構成NSCLCの一次治療およびクリゾチニブ耐性または不耐容の患者に対して承認されている Soria et al. Lancet 2017Shaw et al. LancetOncol 2017Kim et al. LancetOncol 2016Crino et al. JClinOncol 2016。セリチニブの一般的な有害事象は下痢、悪心、嘔吐、ALT上昇などであり、750 mg/日絶食投与では高頻度に報告されていたが、低脂肪食とともに450 mg/日投与することで消化器毒性が軽減され、同等の有効性が示されている Cho et al. JThoracOncol 2017

一方、ニボルマブはPD-1免疫チェックポイント阻害薬であり、プラチナ製剤ベースの化学療法後に進行した転移性NSCLCに対して承認されている Brahmer et al. NEnglJMed 2015Borghaei et al. NEnglJMed 2015。第3相試験では、PD-L1発現レベルにかかわらずドセタキセルと比較して全生存期間の改善が認められているが、PD-L1高発現の非扁平上皮NSCLC患者では生存期間の延長がより顕著であった。

前臨床研究では、EML4-ALK再構成を有するNSCLCモデルにおいて、恒常的な発がん性シグナル伝達がPD-L1発現を誘導し、免疫逃避に寄与することが報告されている。この前臨床的根拠と、ALK再構成NSCLCにおけるセリチニブ単剤療法、および進行NSCLCにおけるニボルマブ単剤療法の有効性から、ALK再構成NSCLC患者におけるセリチニブとニボルマブの併用療法を評価する理論的根拠が確立された。しかし、ALK阻害薬とPD-1阻害薬の併用療法における安全性と有効性に関する臨床データは不足しており、特にALK陽性NSCLC患者におけるこの組み合わせの毒性プロファイルは未解明な点が多かった。先行研究であるクリゾチニブとペムブロリズマブの併用試験 (CheckMate 370) では重篤な肝毒性が報告され早期中止に至ったが、他のALK阻害薬との併用における毒性の種類や程度は未確立であった。本試験は、ALK陽性NSCLC患者においてALK阻害薬とPD-1阻害薬の併用療法を評価した最初の研究の一つであり、その安全性と予備的な抗腫瘍活性を明らかにすることが重要な課題であった。

目的

本第1B相試験 (NCT02293427) の主要目的は、ALK陽性進行NSCLC患者におけるセリチニブとニボルマブ併用療法の最大耐用量 (MTD) および/または推奨拡大用量 (RDE) を決定することである。副次目的として、この併用療法の安全性プロファイル、予備的な抗腫瘍活性 (奏効率 [ORR]、奏効持続期間 [DOR]、無増悪生存期間 [PFS]) を評価すること、およびベースラインのPD-L1発現と臨床的有効性との相関を探索的に解析することが含まれる。さらに、セリチニブおよびニボルマブの薬物動態 (PK) も評価された。

結果

試験集団と治療曝露: 2015年6月11日から2016年7月11日までに合計36例の患者が治療を受けた。内訳は、セリチニブ450 mgコホートが14例、セリチニブ300 mgコホートが22例であった。データカットオフ時点で、13例 (450 mgコホート5例、300 mgコホート8例) が治療を継続しており、23例が治療を中止した。治療中止の主な理由は疾患進行 (17例) および有害事象 (4例) であった。追跡期間中央値は、450 mgコホートで24.6か月 (IQR 21.8–25.1)、300 mgコホートで17.6か月 (IQR 15.5–20.4) であった。治療期間中央値は、450 mgコホートで47.0週 (範囲 1.0–116.0)、300 mgコホートで37.3週 (範囲 4.4–91.3) であった。ベースラインの患者背景および疾患特性は、両コホート間で類似していた (Table 1)。

用量制限毒性 (DLT) と推奨拡大用量 (RDE) の決定: 450 mgコホートの評価可能12例中4例でDLTが発生した。具体的には、膵炎 (Grade 2非症候性1例、Grade 3の1例)、自己免疫性肝炎 (Grade 3、1例)、およびリパーゼ上昇 (Grade 4) とトランスアミナーゼ上昇 (Grade 3) の複合が1例であった。300 mgコホートの評価可能20例中2例でDLTが発生し、いずれもALT上昇 (Grade 3) であった。両用量レベルはBLRM EWOC基準を満たしたが、450 mgコホートでのDLT発生率の高さから、セリチニブ300 mg/日とニボルマブ3 mg/kgの併用がRDEとして設定された。

有効性 (ORR) : ALK阻害薬未治療患者で高い奏効率: ALK阻害薬未治療患者 (n=16) における確認済みORRは全体で69% (95% CI: 41.3–89.0) であり、完全奏効 (CR) が1例、部分奏効 (PR) が10例であった。コホート別に見ると、450 mgコホートでは83% (95% CI: 35.9–99.6、全例PR)、300 mgコホートでは60% (95% CI: 26.2–87.8、CR 1例、PR 5例) と、高い抗腫瘍活性が認められた (Table 5)。一方、ALK阻害薬既治療患者 (n=20) のORRは全体で35% (95% CI: 15.4–59.2) であり、450 mgコホートで50% (95% CI: 15.7–84.3)、300 mgコホートで25% (95% CI: 5.5–57.2) と、前治療歴のある患者では奏効率が低下する傾向が見られた。

無増悪生存期間 (PFS) と奏効持続期間 (DOR): 全体でのPFS中央値は、ALK阻害薬未治療患者では未到達 (NE) であったが、既治療患者では4.6か月 (95% CI: 2.1–13.6) であった (Figure 1)。12か月PFS率は、ALK阻害薬未治療患者で67.5% (95% CI: 38.4–85.1)、既治療患者で35.0% (95% CI: 15.7–55.2) であった。DOR中央値は、450 mgコホートのALK阻害薬既治療患者で11.2か月 (95% CI: 3.7–NE) であったが、他のサブグループではいずれも未到達 (NE) であった。これらの結果は、サンプルサイズが小さいことから慎重な解釈が必要である。

PD-L1発現と有効性の探索的相関: ベースラインの腫瘍組織が利用可能であった30例において、PD-L1発現 (IHC 28-8 pharmDxアッセイ) とORRの相関が探索的に解析された。PD-L1陽性 (≥1%カットオフ) 患者のORRは64% (95% CI: 35.1–87.2) であったのに対し、PD-L1陰性患者では31% (95% CI: 11.0–58.7) であった。PD-L1発現が高い患者でORRが高い傾向が認められたが、信頼区間が重複しているため統計的な有意差は認められなかった。10%カットオフでも同様の傾向が見られた。ベースラインで脳転移を有していた15例のうち、ALK阻害薬未治療の6例中4例 (PR 3例、CR 1例) が奏効し、既治療の9例中2例がPRを示し、脳転移を有する患者においても一定の活性が示唆された。

安全性プロファイル: 皮疹および肝酵素上昇の増強: 全36例中31例 (86%) でGrade 3/4の有害事象が発現した (Table 4)。最も頻繁に報告された有害事象は下痢 (69%) であったが、Grade 3/4の下痢は1例のみであった。全体で30%以上の患者に認められたその他の有害事象は、ALT上昇 (58%)、AST上昇 (44%)、嘔吐 (42%)、悪心 (39%)、アミラーゼ上昇 (36%)、血中クレアチニン上昇 (31%)、皮疹 (31%)、斑状丘疹性皮疹 (31%) であった (Table 2)。

特に問題となったのは皮疹 (grouped term) であり、全Gradeの皮疹関連事象は両コホートで64%と高頻度であった (Table 3)。Grade 3/4の皮疹関連事象は全体で19%に発生し、450 mgコホートで29%、300 mgコホートで14%であった。Grade 4の皮疹は報告されなかった。この皮疹の発生率は、セリチニブ単剤療法 (最大22%) やニボルマブ単剤療法 (最大18%) と比較して明らかに増加していた。アジア人患者では皮疹の発生率が93%と、非アジア人患者 (46%) よりも高かった。その他の主なGrade 3/4有害事象として、ALT上昇 (全体25%)、GGT (γ-グルタミルトランスフェラーゼ) 上昇 (全体22%)、アミラーゼ上昇 (全体14%)、リパーゼ上昇 (全体11%) が見られた。有害事象による用量中断は全体の81% (29例) と高頻度であり、有害事象による試験薬中止は31% (11例) に上った。これらの安全性所見に基づき、代替投与レジメン (レジメンB) の検討が決定された。

考察/結論

本研究は、ALK陽性NSCLC患者におけるセリチニブとニボルマブの併用療法が有望な抗腫瘍活性を示すことを明らかにした。特にALK阻害薬未治療患者では、ORRが60%から83%と高い活性が認められた。探索的解析では、PD-L1高発現患者でORRが高い傾向が示唆されたが、信頼区間が重複しているため、小規模なサンプルサイズでは決定的な結論には至らなかった。

先行研究との違い: 本研究の最も重要な課題は、その毒性プロファイルであった。特に皮疹 (全Grade 64%、Grade 3が14%〜29%) の発生率は、セリチニブ単剤療法 (約3%) やニボルマブ単剤療法 (約7%〜8%) と比較して明らかに増強していた。これは、ALK阻害薬とPD-1阻害薬の併用が、各単剤療法とは異なる毒性メカニズムを持つ可能性を示唆する。先行研究であるクリゾチニブとペムブロリズマブの併用試験 (CheckMate 370) でも重篤な肝毒性が報告され、併用療法の早期中止に至ったことと対照的に、本研究では皮疹が主要な毒性として浮上した。この毒性増強は、ALK阻害薬とPD-1阻害薬の免疫調節作用の相互作用が関与すると考えられる。

新規性: 本研究は、ALK陽性NSCLC患者においてセリチニブとニボルマブの併用療法を評価した最初の第1B相試験であり、その安全性と予備的な有効性プロファイルを新規に確立した。特に、ALK阻害薬未治療患者における高いORRは、この併用療法の潜在的な有用性を示すものであった。

臨床応用: 本知見は、ALK陽性NSCLCにおけるALK阻害薬とPD-1阻害薬の併用療法の臨床応用可能性を示唆する一方で、毒性管理の重要性を強調する。特にPD-L1高発現のALK陽性NSCLC患者では、個別化された組み合わせ療法の探索余地があると考えられる。しかし、現時点では毒性プロファイルが実用化の主要な障壁となっており、慎重な患者選択と用量設定が不可欠である。

残された課題: 今後の検討課題として、毒性軽減のための最適な投与スケジュール (例: セリチニブ先行投与後にニボルマブを追加するレジメンBの検討) が残されている。また、アレクチニブや第三世代ALK阻害薬など、他のALK阻害薬とPD-1阻害薬の組み合わせの評価、PD-L1を超えるバイオマーカーの探索、およびより大規模な患者集団での有効性と安全性の検証が今後の研究方向性として求められる。本研究のlimitationは、探索的解析におけるサンプルサイズの小ささであり、PD-L1発現と有効性の相関についてはさらなる検証が必要である。

方法

本研究は、9施設8カ国で実施された非盲検、多施設共同、第1B相用量漸増および拡大試験 (NCT02293427) である。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認されたステージIIIBまたはIVのALK再構成NSCLC患者で、ALK阻害薬治療歴の有無は問われなかった。ALK再構成は、FDA承認のVysis ALK Break-Apart蛍光in situハイブリダイゼーションプローブキットを用いて確認された。PD-L1発現は適格性基準には含まれなかった。患者はWHOパフォーマンスステータスが0または1であり、RECIST v1.1で定義される少なくとも1つの測定可能病変を有することが求められた。

患者は、ニボルマブ3 mg/kgを2週間ごとに静脈内投与し、セリチニブを450 mg/日または300 mg/日を低脂肪食とともに連日経口投与された。用量漸増は、Bayesian logistic regression model (BLRM) とoverdose control (EWOC) の原則を用いてガイドされた。用量制限毒性 (DLT) は治療開始後最初の6週間で評価された。

主要評価項目は、各用量コホートにおけるDLTと、治験責任医師評価によるRECIST v1.1に基づくORRであった。副次評価項目は、安全性プロファイル、DOR、病勢コントロール率 (DCR)、およびPFSであった。探索的評価項目には、セリチニブおよびニボルマブの薬物動態、ならびにベースラインのPD-L1発現と臨床的有効性評価項目との相関が含まれた。PD-L1発現は免疫組織化学 (IHC 28-8 pharmDxアッセイ) を用いて評価され、1%および10%のカットオフ値で解析された。

統計解析では、用量漸増のためにBLRM EWOCが使用された。ORRおよびDCRは、正確二項95%信頼区間 (CI) とともに推定された。PFSおよびDORは、カプラン・マイヤー法を用いて解析され、中央値と95% CIが報告された。データカットオフは2017年8月30日であった。SASソフトウェア (バージョン9.4) が解析に使用された。