• 著者: Lucio Crinò, Myung-Ju Ahn, Filippo De Marinis, Harry J.M. Groen, Heather Wakelee, Toyoaki Hida, Tony Mok, David Spigel, Enriqueta Felip, Makoto Nishio, Giorgio Scagliotti, Fabrice Branle, Chetachi Emeremni, Massimiliano Quadrigli, Jie Zhang, Alice T. Shaw
  • Corresponding author: Lucio Crinò (University Medical School of Perugia, Azienda Ospedale Perugia, Perugia, Italy)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-07-18
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27432917

背景

未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) 遺伝子転座は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の約2%から7%に同定される重要なドライバー変異である。初期の臨床試験において、第一世代ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) であるクリゾチニブは極めて高い抗腫瘍効果を示し、標準治療としての地位を確立した (Kwak et al. NEnglJMed 2010, Shaw et al. NEnglJMed 2013)。しかし、ほぼすべての患者において、二次的なALK遺伝子変異やバイパス経路の活性化を原因とする獲得耐性が生じ、病勢が進行することが知られている (Katayama et al. SciTranslMed 2012)。さらに、クリゾチニブ治療中の患者の約20%において中枢神経系 (CNS: central nervous system) 転移、すなわち脳転移が初発進行部位として現れる。これはクリゾチニブの血液脳関門 (BBB: blood-brain barrier) 移行性が低く、頭蓋内における薬物濃度が不足していることが一因と考えられている。このようなクリゾチニブ耐性化後の治療戦略は未確立であり、全身および脳転移病変の双方に対して高い効果を示す新規治療薬の開発が強く望まれていた。第二世代ALK-TKIであるセリチニブ (LDK378) は、酵素アッセイにおいてクリゾチニブの約20倍の阻害活性を有し、前臨床モデルにおいて良好なBBB移行性を示すことが確認されている。第I相試験であるASCEND-1試験 (Shaw et al. NEnglJMed 2014) では、クリゾチニブ既治療および未治療の双方において優れた全身および頭蓋内活性が示されたが、化学療法およびクリゾチニブの双方で治療された重度の前治療歴を持つ患者集団における有効性と安全性プロファイルは十分に解明されておらず、臨床データが不足していた。本ASCEND-2試験は、これらの課題を解決するために計画された多施設共同第II相臨床試験である。

目的

本研究の目的は、少なくとも1レジメンのプラチナ製剤併用化学療法およびクリゾチニブによる前治療を受け、直近のクリゾチニブ治療中に病勢進行が確認されたALK陽性の進行・再発非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象に、第二世代ALK阻害薬セリチニブ (750 mg/日、空腹時経口投与) の有効性および安全性を検証することである。主要評価項目は、治験責任医師判定による全身の客観的奏効率 (ORR: overall response rate) とした。副次評価項目として、病勢コントロール率 (DCR: disease control rate)、奏効期間 (DOR: duration of response)、奏効までの時間 (TTR: time to response)、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、全生存期間 (OS: overall survival)、さらに脳転移を有する患者における頭蓋内客観的奏効率 (OIRR: overall intracranial response rate) および頭蓋内病勢コントロール率 (IDCR: intracranial disease control rate) を設定した。また、患者報告アウトカム (PRO: patient-reported outcome) に基づく生活の質 (QOL: quality of life) や肺癌随伴症状の推移、および安全性を多角的に評価することを目的とした。

結果

患者背景と治療曝露状況の解析: 本試験には、2012年12月から2013年9月までに140例のALK陽性進行NSCLC患者が登録され、全員がセリチニブ 750 mg/日の投与を受けた (Table 1)。患者の年齢中央値は51歳、男性50.0% (n=70)、女性50.0% (n=70) であり、組織型は腺癌が92.1% (n=129) を占めた。登録時点で100例 (71.4%) に脳転移が認められ、そのうち72.0% (n=72) が脳への放射線治療歴を有していた。前治療歴は極めて重度であり、全例が2レジメン以上の前治療(化学療法およびクリゾチニブ)を受けており、56.4% (n=79) が3レジメン以上の治療歴を有していた。セリチニブの投与期間中央値は8.8ヶ月、観察期間中央値は11.3ヶ月であった。有害事象 (AE: adverse event) による休薬は75.7%、減量は54.3%の患者に必要とされ、相対用量強度中央値は84.9%であった (Table 1, Table 2)。

全身における抗腫瘍効果と生存期間の解析: 主要評価項目である治験責任医師判定による全身ORRは 38.6% (95% CI 30.5-47.2%, p<0.025) であり、事前に設定された閾値である 25.0% に対し統計学的に有意な改善を示した (38.6% vs 25.0%, Table 2)。完全奏効 (CR: complete response) は 2.9% (n=4)、部分奏効 (PR: partial response) は 35.7% (n=50) であり、病勢コントロール率 (DCR) は 77.1% (95% CI 69.3-83.8%) に達した。測定可能病変を有する患者の 75.2% において腫瘍縮小効果が確認された (Fig 1A)。奏効までの時間 (TTR) 中央値は 1.8ヶ月、奏効期間 (DOR) 中央値は 9.7ヶ月 (95% CI 7.1-11.1) であった。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は 5.7ヶ月 (95% CI 5.4-7.6) であり (Fig 1C)、全生存期間 (OS) 中央値は 14.9ヶ月 (95% CI 13.5-NE) であった。BIRCによる独立判定でも、ORRは 35.7% (95% CI 27.8-44.2%) vs 治験責任医師判定によるORR 38.6% (95% CI 30.5-47.2%) と一貫した結果が得られた (Appendix Table A4)。

脳転移合併例における全身および頭蓋内効果の解析: 登録時に脳転移を有していた100例のサブグループ解析において、全身ORRは 33.0% (95% CI 23.9-43.1%, p<0.025) vs 脳転移非合併例(推定40例)の全身ORR 52.5% (95% CI 36.1-68.5%) であった (Table 2)。脳転移合併例のDCRは 74.0% (95% CI 64.3-82.3%)、DOR中央値は 9.2ヶ月 (95% CI 5.5-11.1)、PFS中央値は 5.4ヶ月 (95% CI 4.7-7.2) であった。さらに、ベースライン時に測定可能な脳標的病変を有していた20例における頭蓋内客観的奏効率 (OIRR) は 45.0% (95% CI 23.1-68.5%) であり、頭蓋内病勢コントロール率 (IDCR) は 80.0% (95% CI 56.3-94.3%) に達した (Table 3)。このうち2例 (10.0%) が頭蓋内CR、7例 (35.0%) が頭蓋内PR、7例 (35.0%) が頭蓋内SDであった。BIRC判定による頭蓋内効果も、OIRRは 39.4% (95% CI 22.9-57.9%) vs 治験責任医師判定によるOIRR 45.0% (95% CI 23.1-68.5%) と極めて良好なCNS活性を示した (Appendix Table A5)。

安全性および毒性プロファイルの解析: 全患者 (n=140) において何らかのAEが報告され、96.4%が薬物関連と判定された (Table 4)。最も頻度の高かったAEは消化器毒性であり、悪心 81.4% (n=114)、下痢 80.0% (n=112)、嘔吐 62.9% (n=88) であったが、その大部分はグレード1または2の軽症であった。グレード3または4のAEは 71.4% (n=100) に認められ、薬物関連のグレード3または4のAEは 45.7% (n=64) であった。主なグレード3または4の薬物関連AEは、アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) 上昇 15.7% (n=22)、γ-グルタミルトランスフェラーゼ (γ-GT) 上昇 9.3% (n=13)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) 上昇 5.0% (n=7) などの肝酵素上昇であった。重篤な有害事象 (SAE) は 40.7% (n=57) に報告され、薬物関連SAEは 17.1% (n=24) であった。間質性肺疾患/肺臓炎は 1.4% (n=2) に認められ、うち1例がグレード4であった。補正QT間隔 (QTc) 延長は 7.9% (n=11) に認められ、うち1例がグレード3であった。AEによる治療中止は 7.9% (n=11) と低率であった (Table 4)。

患者報告アウトカムとQOL評価の解析: PROの評価において、質問票の回収率はサイクル13まで90%以上と極めて高かった。LCSSおよびQLQ-LC13を用いた評価では、肺癌随伴症状である咳嗽、疼痛、呼吸困難において、ベースラインからの改善傾向が示された (Fig 2A)。LCSSにおける症状苦痛スコアのベースラインからの平均変化量は -1.4 から -6.2 の範囲であり、臨床的に意味のある症状改善が維持された。一方で、QLQ-C30による評価では、治療開始後に下痢や悪心・嘔吐などの消化器症状の一時的な悪化が認められ、スコアの平均変化量は +3.6 から +31.8 の範囲であったが、治療サイクルの経過とともにこれらの症状は管理され、改善傾向を示した (Fig 2B)。QLQ-C30におけるグローバルQOLスコアの平均変化量は -1.5 から +4.6 の範囲で推移し、治療期間を通じて健康関連QOLが良好に維持されていることが確認された (Fig 2C)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究の結果は、クリゾチニブ未治療例を含む広範な患者群を対象とした第I相試験であるASCEND-1試験の知見 (Shaw et al. NEnglJMed 2014) と一貫した有効性を支持している。化学療法とクリゾチニブの双方に抵抗性となった重度前治療歴を有する患者集団を対象としている点で、クリゾチニブ単剤の耐性克服を目指した他の初期臨床試験と異なり、より実臨床に近い困難な症例群におけるセリチニブの有用性を証明した。本試験における全身ORR (38.6%) は、ASCEND-1試験のクリゾチニブ既治療コホートにおけるORR (56.4%) と比較してやや低値であったが、これは本試験においてベースライン時の標的病変数が1個のみである症例の割合が 42.9% と高かったこと(ASCEND-1では 24.8%)に起因すると考えられる。一方で、PFS中央値 (5.7ヶ月) やDOR中央値 (9.7ヶ月) はASCEND-1試験の結果と極めて類似しており、前治療歴の多さにかかわらずセリチニブが持続的な病勢コントロールをもたらすことが示された。

新規性: 本研究は、クリゾチニブ耐性化後の極めて予後不良な患者集団において、セリチニブが強力な頭蓋内活性を有することを本研究で初めて明確に示した。特に、活動性の脳標的病変を有する患者において 45.0% という高い頭蓋内奏効率 (OIRR) を達成し、頭蓋内病勢コントロール率 (IDCR) も 80.0% に達したことは、これまで報告されていない極めて重要な知見である。クリゾチニブ治療中の脳転移に対する奏効率が約18%にとどまることと比較して、セリチニブが優れた脳関門移行性と頭蓋内腫瘍抑制効果を持つことが臨床的に証明された。

臨床応用: 本知見の臨床的有用性は極めて大きい。クリゾチニブ治療後に増悪したALK陽性NSCLC患者に対する標準的な二次治療として、セリチニブの臨床応用を強力に後押しするものである。特に、ALK陽性NSCLC患者において頻度の高いCNS転移合併例に対しても、放射線治療を遅らせて薬物療法を先行させる、あるいは放射線治療後の再増悪に対してセリチニブを使用するという、臨床現場における新たな治療アルゴリズムの確立に寄与した。また、下痢や悪心などの消化器毒性は高頻度であるものの、適切な休薬や減量によって十分に管理可能であり、QOLを維持しながら長期投与が可能であることが示された。

残された課題: 今後の課題として、クリゾチニブに対する個々の獲得耐性変異プロファイル(L1196MやG1269Aなど)とセリチニブの臨床効果との詳細な相関解析が挙げられる。また、本試験は単アーム試験であるため、他の第二世代ALK-TKI(アレクチニブやブリガチニブなど)との直接的な有効性および安全性の比較は行われておらず、最適な治療順序(sequential therapy)の確立にはさらなる臨床試験が必要である。さらに、セリチニブ 750 mg/日の空腹時投与における消化器毒性の頻度の高さは依然として課題であり、投与量の最適化(例えば、後のASCEND-8試験で検証された 450 mg食事随伴投与など)による忍容性の向上が望まれる。

方法

本試験は、世界51施設で実施された単アーム、オープンラベル、多施設共同第II相臨床試験である (試験識別子: NCT01685060)。対象患者は、局所進行または転移性のALK陽性NSCLCであり、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH: fluorescent in situ hybridization) 法によりALK遺伝子転座が確認された症例とした。適格基準として、WHOパフォーマンスステータス (WHO PS: World Health Organization performance status) が2以下、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors: 固形がんの治療効果判定基準) バージョン1.1に基づく測定可能病変を有すること、プラチナ製剤を含む化学療法を1レジメン以上、およびクリゾチニブによる治療歴を有することが必須とされた。クリゾチニブは直近の前治療でなければならず、その投与中または最終投与から30日以内に病勢進行が確認されている必要があった。無症状または神経学的に安定している脳転移を有する患者の登録は許容され、登録の2週間以上前に脳への放射線治療が完了していることが条件とされた。

登録された患者は、セリチニブ 750 mg/日を空腹時に連日経口投与された。腫瘍評価は、ベースライン時および投与開始後8週間ごとに胸部、上腹部、および脳の造影CTまたはMRIを用いて実施された。主要評価項目である治験責任医師判定による全身ORRのほか、独立中央判定委員会 (BIRC: blinded independent review committee) によるサポート解析も実施された。頭蓋内効果の評価対象は、ベースライン時に治験責任医師によって測定可能な脳標的病変(新規病変、または局所治療後に増悪した既存病変)を有すると判定された患者とした。

統計解析計画では、正確二項分布に基づき、閾値ORRを25.0%以下、期待ORRを38.0%以上と設定し、片側有意水準0.025、検出力90%において、必要症例数を137例と算出した。137例中45例以上の奏効が観察された場合に帰無仮説が棄却される。生存時間解析(PFS、OS、DOR)にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用い、生存期間中央値および95%信頼区間 (CI: confidence interval) を算出した。PROの評価には、EORTC (European Organisation for Research and Treatment of Cancer: 欧州がん研究治療機構) QLQ-C30 (core-30 quality-of-life questionnaire: 30項目コアQOL質問票)、QLQ-LC13 (13-item lung cancer-specific questionnaire: 13項目肺がん特異的質問票)、およびLCSS (Lung Cancer Symptom Scale: 肺がん症状尺度) を用い、ベースラインからのスコア変化を記述統計学的に解析した。