• 著者: Lin JJ, Schoenfeld AJ, Zhu VW, Yeap BY, Chin E, Rooney M, Plodkowski AJ, Digumarthy SR, Dagogo-Jack I, Gainor JF, Ou SHI, Riely GJ, Shaw AT
  • Corresponding author: Alice T. Shaw (Department of Thoracic Oncology, Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, MA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2019-10-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31669591

背景

未治療の未分化リンパ腫キナーゼ (ALK: anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子転位陽性 (以下、ALK陽性) の進行非小細胞肺癌 (NSCLC: non-small-cell lung cancer) において、アレクチニブやセリチニブ、ブリガチニブといった第二世代ALKチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI: tyrosine kinase inhibitor) は、極めて高い治療効果を示す一次治療の標準療法として確立されている。大規模な第III相臨床試験において、アレクチニブは従来の標準治療であったクリゾチニブと比較して無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival) を劇的に延長させることが示され (Peters et al. NEnglJMed 2017)、セリチニブも化学療法に対して優れた有効性を証明した (Soria et al. Lancet 2017)。さらに、ブリガチニブも一次治療においてクリゾチニブに対する優越性を示している (Camidge et al. NEnglJMed 2018)。しかしながら、これらの第二世代ALK-TKIによる治療開始後、ほぼすべての患者で最終的には後天性耐性が生じ、疾患進行に至る。

第二世代ALK-TKI耐性後の治療選択肢として、第三世代ALK-TKIであるロルラチニブが承認されているが、ALK耐性変異を有さない患者における有効性は限定的である。そのため、多くの患者において、白金製剤とペメトレキセド (PT/pem) をベースとした併用化学療法が重要な治療選択肢となる。一次治療におけるPT/pem併用化学療法の有効性は、過去の臨床試験 (Solomon et al. NEnglJMed 2014) などで示されているが、第二世代ALK-TKIに耐性となった後の設定におけるPT/pem併用化学療法の実際の有効性や最適な投与方法については、これまで十分なデータがなく、その詳細な治療成績やALK-TKIの継続併用の是非については未確立であり、最適な治療シークエンスは未解明のままであった。特に、第二世代ALK-TKI耐性後の化学療法の治療成績に関する多施設後方視的データは極めて不足している。このような背景から、実臨床における第二世代ALK-TKI耐性後のPT/pem併用化学療法の有効性を明らかにするための詳細な解析が求められていた。

目的

本研究の目的は、複数の医療機関における後方視的コホート解析を通じて、1つ以上の第二世代ALK-TKI (アレクチニブ、セリチニブ、ブリガチニブ) による治療後に疾患進行を示したALK陽性進行NSCLC患者を対象とし、PT/pem併用化学療法の臨床的有効性を評価することである。具体的には、客観的奏効率 (ORR: objective response rate)、無増悪生存期間 (PFS)、および奏効期間 (DOR: duration of response) を主要な評価項目として算出する。さらに、化学療法開始時におけるALK-TKIの継続併用がPFSに与える影響や、中枢神経系 (CNS: central nervous system) 病変に対する治療効果、および治療前の腫瘍生検によって同定されたALK耐性変異の有無が化学療法の治療成績に及ぼす影響について詳細に解析し、第二世代ALK-TKI耐性後の最適な治療戦略を確立するための知見を得ることを目的とする。

結果

対象患者の背景および治療レジメンの分布: 本研究には、3施設から合計で58例 (n=58) のALK陽性進行NSCLC患者が登録された (Table 1)。患者の診断時年齢中央値は50歳 (範囲22-75歳) であり、女性が36例 (62%)、非喫煙者が43例 (74%) を占め、全例が組織学的に肺腺癌であった。前治療としてのALK-TKIの投与回数は、1剤が7例 (12%)、2剤が39例 (67%)、3剤が12例 (21%) であり、全体の88%にあたる51例が2剤以上のALK-TKI治療歴を有していた。前治療として投与された第二世代ALK-TKIの具体的な内訳は、アレクチニブが最も多く、次いでセリチニブ、ブリガチニブであった。直近のALK-TKI治療における治療期間の中央値は6.2か月 (範囲1.5-36.9か月) であり、直近のTKI進行から化学療法開始までの期間中央値は24日 (範囲3-559日) であった。PT/pem併用化学療法の開始時点で、31例 (53%) にCNS転移の合併が認められた。投与された化学療法の内訳は、PT/pem単独が32例 (55%)、PT/pem+ベバシズマブが7例 (12%)、PT/pem+PD-1阻害薬が4例 (7%)、PT/pem+ALK-TKI併用が8例 (14%)、PT/pem+ベバシズマブ+ALK-TKI併用が6例 (10%)、PT/pem+PD-1阻害薬+ALK-TKI併用が1例 (2%) であった (Table 1)。

PT/pem併用化学療法の全体的な治療効果: 全コホート58例のうち、画像評価が可能でベースラインに測定可能病変を有していた37例における客観的奏効率 (ORR) は29.7% (11/37例、95% CI 15.9-47.0%) であった (Fig. 1)。奏効が確認された11例における奏効期間 (DOR) の中央値は6.4か月 (95% CI 1.6か月-未到達) であった (Fig. 2)。全コホート58例における無増悪生存期間 (PFS) の中央値は4.3か月 (95% CI 2.9-5.8か月) であった (Fig. 3 A)。また、ベースラインでCNS病変を有し画像評価が可能であった19例におけるCNS ORRは15.8% (3/19例、95% CI 3.4-39.6%) であり、1年時点における頭蓋内進行の累積リスクは30% (95% CI 18-44%) であった。ベバシズマブ併用群 (n=7) はPT/pem単独群 (n=32) と比較して、PFS中央値が4.6 vs 3.2か月と延長する傾向がみられたが、統計的有意差には至らなかった (HR 0.40, 95% CI 0.15-1.06, p=0.062)。また、PD-1阻害薬併用群 (n=5) におけるPFS中央値は4.7か月 (95% CI 1.0か月-未到達) であった。

化学療法開始時におけるALK-TKI継続併用の影響: 化学療法にALK-TKIを併用した群 (n=15) は、化学療法単独群 (n=43) と比較して、PFSが有意に延長した。PFS中央値は7.7 vs 3.6か月であり、ハザード比は0.31 (95% CI 0.15-0.65, p=0.002) と極めて良好な結果を示した。さらに、他の併用薬 (ベバシズマブやPD-1阻害薬) を除外した純粋な比較として、PT/pem+ALK-TKI併用群 (n=8) とPT/pem単独群 (n=32) を比較した解析においても、PT/pem+ALK-TKI併用群でPFS中央値が6.8 vs 3.2か月と有意な延長が確認された (HR 0.33, 95% CI 0.13-0.85, p=0.025) (Fig. 3 B)。ALK-TKI併用群15例のうち、9例 (60%) は化学療法開始直前に使用していた第二世代ALK-TKI (アレクチニブ7例、ブリガチニブ2例) をそのまま継続し、残りの症例では過去に使用したALK-TKI (アレクチニブ2例、クリゾチニブ4例) への再挑戦または新規導入が行われた。測定可能病変を有する患者におけるORRについても、PT/pem+ALK-TKI併用群で60% (3/5例) であり、PT/pem単独群の19% (4/21例) と比較して数値的に高い傾向が示された (p=0.101)。1年時点での頭蓋内進行累積率は、ALK-TKI併用群で28%、非併用群で38%であり、有意差は認められなかった (p=0.598)。

ALK耐性変異の有無と化学療法有効性の相関: 第二世代ALK-TKIによる疾患進行後に再生検を施行した23例 (40%) のうち、12例 (52%) で二次的なALK耐性変異が検出され、残り11例 (48%) はALK変異陰性であった。再生検の実施内訳は、腫瘍組織生検が19例、血漿を用いたリキッドバイオプシーが4例であった。これら2群間において、PT/pem併用化学療法のPFS中央値は、ALK変異陽性群で4.1か月、ALK変異陰性群で3.6か月であり、両群間に統計的有意差は認められなかった (HR 1.02, 95% CI 0.41-2.54, p=0.966)。また、測定可能病変を有する症例におけるORRについても、ALK変異陽性群で14.3% (1/7例)、ALK変異陰性群で37.5% (3/8例) であり、統計的な有意差は確認されなかった (p=0.569)。検出されたALK耐性変異の有無にかかわらず、化学療法の治療効果には明確な差がみられないことが示された。

考察/結論

本研究は、第二世代ALK-TKI耐性後のALK陽性進行NSCLC患者におけるPT/pem併用化学療法の有効性を、複数の主要な学術医療機関のデータを用いて本研究で初めて詳細に評価した多施設共同研究である。解析の結果、客観的奏効率 (ORR) は29.7%、PFS中央値は4.3か月であり、第二世代ALK-TKI耐性後の化学療法の効果は限定的であることが示された。一次治療設定におけるPT/pem併用化学療法のPFS中央値が7.0-8.1か月であること (Solomon et al. NEnglJMed 2014Soria et al. Lancet 2017) と比較すると、本研究におけるPFSは有意に短縮している。この結果は、ALK-TKIによる前治療や逐次投与を経て耐性を獲得した腫瘍において、細胞毒性化学療法に対する感受性自体が低下している可能性を示唆している。同様の現象は、EGFR変異陽性NSCLCにおいて第一世代または第二世代EGFR-TKI耐性後にPT/pem併用化学療法を投与した臨床試験 (Mok et al. NEnglJMed 2017) でもPFS中央値4.4か月と報告されており、逐次的なTKI治療後の腫瘍生物学的な変化や化学療法感受性の低下が、ドライバー遺伝子陽性肺癌における共通の課題であることを反映していると考えられる。

先行研究との違い: 本研究における最も重要な発見は、化学療法にALK-TKIを継続併用した群において、化学療法単独群と比較してPFSが有意に延長した点である。この知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者を対象にゲフィチニブ進行後の化学療法単独とゲフィチニブ継続併用を比較した先行研究であるIMPRESS (Iressa Mutation Positive Multicentre Treatment Beyond Progression Study) 試験において、TKIの継続併用によるPFSの上乗せ効果が認められなかった結果と異なり、非常に対照的な結果を示している。この違いが生じた理由として、アレクチニブなどの第二世代ALK-TKIが優れた中枢神経系 (CNS) 移行性を有しており、化学療法中も頭蓋内病変の進行を強力に抑制し続けたこと、また、ALK陽性肺癌においてはTKI中止による腫瘍の急速な増悪 (フレア現象) のリスクが高いことなどが関与している可能性がある。

新規性: 本研究は、第二世代ALK-TKI耐性後のALK陽性進行NSCLCにおいて、白金製剤+ペメトレキセド併用化学療法へのALK阻害薬の継続併用がPFSを延長することを本研究で初めて、かつ新規に示した。これまで、第二世代ALK-TKI耐性後の化学療法単独とALK-TKI併用療法の有効性を直接比較したデータは報告されておらず、本研究の知見は極めて独創的である。

臨床的意義: 本研究の臨床的意義および臨床応用への含意として、第二世代ALK-TKI耐性後の治療選択において、腫瘍のALK耐性変異の有無に応じた個別化医療の重要性が挙げられる。ALK耐性変異 (G1202Rなど) を有する症例 (Katayama et al. SciTranslMed 2012Gainor et al. CancerDiscov 2016) では、第三世代ALK-TKIであるロルラチニブが極めて高い有効性を示すため優先されるべきであるが、ALK耐性変異陰性の症例においては、ロルラチニブの有効性も限定的であるため、PT/pem併用化学療法 (特にALK-TKIの継続併用) が有力な治療選択肢となる。

残された課題: 一方で、本研究にはいくつかのlimitationおよび残された課題が存在する。第一に、本研究は後方視的かつ比較的小規模なコホート解析であり、治療レジメンの選択やALK-TKI併用の有無が担当医の裁量に委ねられていたため、選択バイアスを排除できない。第二に、画像評価が中央判定ではなく各施設の治験医師判定に基づいている点、また、多くの患者が一次治療としてクリゾチニブを投与された後に第二世代ALK-TKIを投与されており、現在の標準治療である「一次治療からの第二世代ALK-TKI投与」の耐性後データとは必ずしも完全に一致しない可能性がある。今後の検討として、前向きランダム化比較試験による化学療法単独と化学療法+ALK-TKI併用療法の直接比較、およびロルラチニブ耐性後における化学療法の有効性評価が必要である。

方法

本研究は、アメリカ合衆国の3つの主要な学術医療機関 (Massachusetts General Hospital、Memorial Sloan Kettering Cancer Center、University of California Irvine) において実施された多施設共同後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。対象患者の適格基準は、局所分子プロファイリングである蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH: fluorescence in situ hybridization)、免疫組織化学 (IHC: immunohistochemistry)、DNAベースの次世代シーケンシング (NGS: next-generation sequencing)、または標的RNAシーケンシングによってALK転位陽性と診断された進行NSCLC患者であり、少なくとも1つの第二世代ALK-TKI (アレクチニブ、セリチニブ、ブリガチニブ) による治療中に疾患進行が確認され、その後にPT/pem併用化学療法を受けた症例とした。ただし、PT/pem併用化学療法の開始前に第三世代ALK-TKIであるロルラチニブによる治療歴がある患者は除外された。PT/pem併用化学療法には、ベバシズマブ、PD-1 (programmed cell death 1) 阻害薬、またはALK-TKIの併用が許容された。

本研究は新規のランダム化比較試験ではなく後方視的解析であるため、固有のNCT番号は持たないが、第二世代ALK-TKIの一次治療としての有効性を検証した代表的な臨床試験であるALEX試験 (NCT02075840) やASCEND-4試験 (NCT01828099) などの耐性後症例の位置づけを明確にすることを念頭に設計された。主要評価項目は、PT/pem併用化学療法開始からの無増悪生存期間 (PFS) と定義され、副次評価項目として客観的奏効率 (ORR) および奏効期間 (DOR) が設定された。

腫瘍の治療反応性および疾患進行の評価は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) に基づき、各施設の治験医師によって後方視的に判定された。測定可能病変は、ベースライン時点で長径10 mm以上 (リンパ節の場合は短径15 mm以上) のものと定義された。

ALK耐性変異のプロファイリングは、第二世代ALK-TKIによる疾患進行時に実施された再生検組織または血漿検体を用いて行われた。変異検出には、MGH (Massachusetts General Hospital) SNaPshot NGSプラットフォーム、FoundationOne NGS、MSK-IMPACT (Memorial Sloan Kettering-Integrated Mutation Profiling of Actionable Cancer Targets) (Cheng et al. JMolDiagn 2015)、MI Profile、外部機関での腫瘍NGS、アンカードマルチプレックスPCR法 (Zheng et al. NatMed 2014) に基づく標的NGS、またはALKキナーゼドメインのSangerシーケンシングが用いられた。

統計解析において、患者の背景因子の比較にはフィッシャーの直接確率検定 (Fisher’s exact test) およびウィルコキソン順位和検定 (Wilcoxon rank-sum test) が用いられた。PFSおよびDORの推定にはカプラン・マイヤー法 (Kaplan-Meier method) が使用され、治療群間または遺伝子型群間のPFSの比較にはコックス比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を用いてハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) が算出された。また、中枢神経系 (CNS) 進行の累積罹患率は、非CNS進行を競合リスクとして考慮した累積発生率関数を用いて推定され、群間比較にはGray検定 (Gray’s test) が用いられた。すべての統計解析はSAS 9.4を用いて行われ、p値は両側検定で0.05未満を統計的有意とみなした。データカットオフ日は2019年2月15日であった。