• 著者: Zhe Yang, Nong Yang, Qiuxiang Ou, Yi Xiang, Tao Jiang, Xue Wu, Hua Bao, Xiaoling Tong, Xiaonan Wang, Yang W. Shao, Yunpeng Liu, Yan Wang, Caicun Zhou
  • Corresponding author: Caicun Zhou (Shanghai Pulmonary Hospital, Tongji University Medical School, Shanghai, China); Yan Wang (National Cancer Center/Cancer Hospital, Chinese Academy of Medical Sciences, Beijing, China)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-02-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29506987

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) は、2015年の世界的な癌関連死因の第2位を占める疾患である Global Burden of Disease Cancer Collaboration et al. JAMA Oncol 2017。その中でも、上皮成長因子受容体 (EGFR) 遺伝子に変異を有するNSCLCは、特定のサブタイプとして認識されている。EGFR活性化変異、特にエクソン19のフレーム内欠失 (Ex19del) やエクソン21のミスセンス変異 (L858R) は、NSCLC患者の約10%から50%に認められ、人種、性別、喫煙歴によってその頻度は大きく異なることが報告されている Shigematsu et al. JNatlCancerInst 2005。これらのEGFR変異陽性肺癌は、ゲフィチニブやエルロチニブといったEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) に対して感受性を示すことが知られている Maemondo et al. NEnglJMed 2010

しかし、第1世代および第2世代TKIによる治療後には、獲得耐性が不可避的に生じる。最も頻繁な耐性メカニズムは、EGFR二次変異であるT790Mの獲得であり、疾患進行後の患者の50%以上で検出される Kobayashi et al. NEnglJMed 2005Pao et al. PLoSMed 2005。オシメルチニブ (AZD9291) は、T790M耐性変異を有する活性化EGFR変異を選択的に阻害する第3世代EGFR TKIである Finlay et al. J Med Chem 2014。このピリミジン系化合物は、ATP結合ポケット内のC797残基を標的とし、共有結合を形成することでEGFRキナーゼドメインに不可逆的に結合する Ward et al. J Med Chem 2013。オシメルチニブは、T790M変異を獲得したNSCLC患者において有効性が証明されており Janne et al. NEnglJMed 2015、第1・2世代TKI治療後にT790M変異を獲得したNSCLC患者への使用が承認されている。

しかし、オシメルチニブの臨床使用が拡大するにつれて、獲得耐性が不可避的に生じることが明らかになっている Mok et al. NEnglJMed 2017。既報では、EGFR C797S変異が15例中6例のオシメルチニブ耐性メカニズムとして同定されたが Thress et al. Nat Med 2015、残りの大多数の症例における耐性メカニズムは未解明なままであった。著者らの先行研究では、3例のオシメルチニブ耐性肺腺癌患者において、EGFR L792変異 (ヒンジポケットに位置し、T790MおよびC797Sに近接) を同定し、構造予測によりオシメルチニブ結合への干渉が示唆された Chen et al. J Thorac Oncol 2017。しかし、このL792変異の頻度や機能的影響については、大規模コホートでの検証が不足しており、包括的な解析が未確立な状態であった。

目的

本研究の目的は、オシメルチニブ耐性を示す中国人肺癌患者93例の大規模コホートにおいて、ターゲット次世代シーケンシング (NGS) を用いた416の癌関連遺伝子の包括的な変異プロファイリング(主にcfDNAを使用)を実施し、EGFR二次変異の全容およびその他の耐性メカニズムを同定することである。さらに、同定されたEGFR変異(特にL792およびL718)の機能的影響をin vitro(Ba/F3細胞株)で検証し、オシメルチニブ耐性におけるこれらの新規変異の役割を明らかにすることを目的とした。これにより、オシメルチニブ耐性後の治療戦略の選択肢を広げ、新たな薬剤開発の標的を特定するためのエビデンスを提供することを目指す。特に、T790M非共存下での新規変異の機能的影響も評価し、ファーストラインでのオシメルチニブ耐性メカニズムの理解を深めることも重要な目的の一つである。

結果

患者コホートの概要とEGFR変異全般: 93例の患者コホートにおいて、EGFR活性化変異(Ex19del、L858R、Ex20ins)は全体の91%で検出された。また、19%の患者では変異型EGFRのコピー数増加が併存していた。T790M変異は38例(41%)で検出されたが、5例では血漿cfDNA中にEGFR変異が検出されなかった。全体として、各サンプルで1〜27個(中央値5個)の体細胞変異が同定された。EGFRおよびTP53遺伝子に加え、RB1、PIK3CA、MET、SMAD4が上位の変異遺伝子であった (Figure 1)。

C797/G796変異の同定と機能的影響: EGFR C797変異は22例(24%)で同定され、そのうち2例ではC797S変異とC797G変異が併存していた(MAF約1%)。C797S/G変異とT790M変異は常にin cisで存在し、これはオシメルチニブの共有結合を阻害するという既報のメカニズムと一致する。G796変異は2例で検出された。in silico解析では、G796R変異がEGFR/オシメルチニブ複合体に強い空間的干渉を引き起こし、G796S変異は軽度の影響を与える可能性が予測された (Supplementary Fig. S1)。in vitro機能検証では、Ex19del/T790M細胞のオシメルチニブに対するIC50は3.48 nmol/Lであったのに対し、C797S変異を追加するとIC50は1 μmol/Lを超え、強力な耐性を示した (Figure 4B)。

新規L792変異の同定とその耐性誘導: 11例(12%)でL792変異(L792F/H/R/Y/P)が検出された。L792変異の大部分(11例中10例)は他のEGFR二次変異と併存しており、常にT790Mとin cisで、G796/C797変異とはin transで存在した。これは、L792変異が単独でオシメルチニブ耐性を引き起こす可能性を示唆する。L792H亜型が最も頻繁に検出された。in silicoタンパク質構造モデリングでは、L792Hが空間的衝突を引き起こし、局所的な疎水性を低下させることでオシメルチニブのEGFRへの結合を阻害する可能性が示された (Figure 2B)。in vitro機能検証では、L792亜型変異を追加すると、IC50は10〜100 nmol/Lの中程度の耐性を示し、L792Hが最も強力な耐性を付与した (Figure 4A, B)。

新規L718/G719変異の同定と強力な耐性誘導: 7例(8%)でL718変異(主にL718Q)が同定された。L718変異陽性患者の大部分(7例中6例)はC797変異を伴わず、L718Qが独立したオシメルチニブ耐性メカニズムである可能性が示唆された。2例でG719A変異が同定された(他のEGFR二次変異なし)。これらの患者では、オシメルチニブ治療前にL858RまたはT790M変異が検出されていた。in silicoタンパク質構造モデリングでは、L718Q変異が局所的な疎水性を減少させ、ゲフィチニブおよびオシメルチニブとの相互作用を阻害することが示された (Figure 2A)。in vitro機能検証では、L718Q変異を追加すると、L858R/T790M/L718Q細胞はIC50が1 μmol/Lを超え、C797Sと同等の強力な耐性を示した。Ex19del/T790M/L718Q細胞ではIC50が約500 nmol/Lと、やや弱いが依然として強力な耐性を示した (Figure 4B)。

治療前後のペア検体解析による変異獲得の確認: 12例の治療前後のペア検体解析により、3例(25%)でC797、L792、L718各残基の二次変異が治療後に新たに獲得されたことが確認された (Figure 3)。これは、これらの変異がオシメルチニブ耐性中に選択的に出現することを示している。二次EGFR変異を有する患者の30%で複数の変異が併存しており、疾患進行中の高いクローン多様性が示唆された。

T790M非共存下での機能検証(ファーストラインオシメルチニブ耐性想定): T790M非依存的な条件下でも、C797S変異はオシメルチニブに強力な耐性を付与した。Ex19delとin cisのL718Q/L792H、およびL858Rとin cisのL792Yは、IL3除去後の増殖能を示さず、形質転換能に欠けていた。L858R/L718Q細胞はオシメルチニブに対してIC50が1 μmol/Lを超える強力な耐性を示した (Figure 4D)。ゲフィチニブ感受性試験では、L858R/L718Q変異は、C797SやL792変異とは異なり、ゲフィチニブに対しても強力な耐性を示した (Figure 5B)。構造モデルでは、L718Qが局所的な疎水性を減少させ、ゲフィチニブ/オシメルチニブの相互作用を阻害することが示された (Figure 2A)。

EGFR二次変異を伴わない患者におけるその他の耐性機序: EGFR二次変異(G796/C797、L792、L718/G719部位)が検出されなかった62例(67%)の患者コホートでは、他の遺伝子変異がオシメルチニブ耐性に関与している可能性が示唆された。MET変異は7例で観察され、そのうち5例はMET増幅であった。2例では、治療前後のペア検体でMET増幅が新たに獲得されたことが確認され、METシグナルを介したバイパス耐性が示唆された (Figure 3)。TP53変異はコホート全体で有意に多く検出され、12例のペア検体中5例(42%)でTP53変異が治療後に獲得されていた。RB1、PIK3CA、SMAD4も上位の変異遺伝子であった。KRAS、TET2変異もやや多く検出されたが、小規模な集団であった。

考察/結論

本研究は、オシメルチニブ耐性を示す中国人肺癌患者93例の大規模コホート(主にcfDNAを使用)において、耐性メカニズムの包括的なプロファイルを初めて提示した重要な報告である。

新規性: 既報のEGFR C797S変異(24.7%)に加え、新規のEGFR二次変異としてL792(10.8%)およびL718/G719(9.7%)が同定され、これらが全体の約3分の1の耐性機序を占めることが明らかになった。Ba/F3細胞を用いた機能検証により、L792H変異がC797Sよりも弱い中程度のオシメルチニブ耐性(IC50 10-100 nmol/L)を付与し、L718Q変異がC797Sと同等の強力な耐性(IC50 >1 μmol/L)を付与することがin vitroで実証された。特に、L858R/L718Q変異は、T790M非共存下でゲフィチニブに対しても強力な耐性を示すことが本研究で初めて報告された。

先行研究との違い: これまでの研究ではC797S変異が主要なオシメルチニブ耐性メカニズムとして注目されてきたが、本研究はL792およびL718/G719といった新規のEGFR二次変異が、C797Sと同様に、あるいは異なる特性でオシメルチニブ耐性に寄与することを明らかにした点で、これまでの報告と異なる。特にL718Q変異がT790M非共存下でゲフィチニブにも耐性を示すという所見は、第1・2世代TKIへのサルベージ治療の有効性に関する従来の理解と対照的である。

臨床応用: これらの新規変異の同定は、オシメルチニブ耐性後の治療戦略選択に重要な臨床的意義を持つ。例えば、C797S変異陽性患者にはブリガチニブやEAI045などの第4世代TKIが検討される可能性がある一方、L718Q変異獲得患者は第1・2世代TKIへのサルベージ治療も無効となる可能性があり、新たな第4世代EGFR-TKI開発の重要な標的となる。また、MET増幅(5.4%)がEGFR二次変異を伴わない患者における重要なオフターゲット耐性メカニズムとして同定されたことから、MET阻害剤との併用療法が有効な選択肢となる可能性も示唆される。本研究は、主に血漿cfDNAを用いたリキッドバイオプシーによる耐性機序解析の実現可能性と臨床的有用性を実証し、個別化医療への貢献を示した。FLAURA試験後にファーストラインオシメルチニブが標準治療となる中で Soria et al. NEnglJMed 2018、T790M非依存的なL718Q変異がファーストラインオシメルチニブ耐性の主要機序となる可能性も示唆され、オシメルチニブの使用文脈に応じた耐性機序プロファイリングの必要性を強調する。

残された課題: 今後の検討課題として、より大規模なコホート(西洋人を含む多民族)での検証、G796、L792、L718各亜型の頻度、予後、および予測妥当性の評価が残されている。また、これらの新規耐性メカニズムを克服するための新規EGFR阻害剤や併用療法の臨床開発が今後の研究の方向性となる。本研究で同定されたEGFR二次変異を伴わない患者の約3分の2における耐性メカニズムのさらなる解明も重要な課題である。

方法

患者コホートとサンプル収集: 本研究は、中国国内の4施設(上海市肺科医院、山東省立病院、湖南省腫瘍病院、中国医学科学院腫瘍病院)から、オシメルチニブ治療後に病勢進行した肺癌患者93例を登録したレトロスペクティブコホート研究である。患者の臨床情報は、年齢中央値60歳(25-75パーセンタイル: 52-67歳)、女性54例、男性39例であった。83%(77例)がステージIVの疾患であり、95%がNSCLC(うち98%が腺癌)であった。75%以上の患者が非喫煙者であった。93例中90例が第1世代および/または第2世代TKIの既治療歴を有し、1例のみがオシメルチニブをファーストライン治療として受けていた。12例の患者からは、オシメルチニブ治療前後のペア検体が得られた。倫理規定に従い、各参加病院の倫理委員会の承認を得て、書面による同意が取得された。

検体種類: オシメルチニブ治療後の93例の検体のうち、89%(83例)はcfDNA(血漿81例、胸水2例)であり、残りの10例はFFPE組織または新鮮腫瘍組織であった。治療前検体12例のうち、7例がcfDNA、5例が腫瘍組織であり、対応するオシメルチニブ治療後検体は全てcfDNAであった。cfDNAは、EDTAコートチューブに採取された末梢血から2時間以内に血漿を分離し、48時間以内に中央検査施設に輸送された。FFPE組織および新鮮腫瘍組織は、病理医による診断と腫瘍純度の確認後に病院から入手された。

DNA抽出とNGS: ゲノムDNAは、新鮮腫瘍組織および全血からはDNeasy Blood & Tissue Kit(Qiagen)を用いて、FFPEサンプルからはQIAamp DNA FFPE Tissue Kit(Qiagen)を用いて抽出された。血漿および胸水からのcfDNAは、QIAamp Circulating Nucleic Acid Kit(Qiagen)を用いて抽出された。シーケンシングライブラリは、KAPA Hyper Prep Kit(KAPA Biosystems)を用いて調製された。ハイブリダイゼーションベースのターゲット濃縮は、GeneseeqOne pan-cancer gene panel(416の癌関連遺伝子)を用いて実施された。ライブラリはIllumina HiSeq4000 NGSプラットフォームでペアエンドシーケンスされた。平均カバレッジ深度は、全血コントロールサンプルで100倍以上、腫瘍組織で300倍以上であった。cfDNAサンプルでは、オリジナルのターゲットシーケンス深度は3,000倍以上であった。

データ解析: FASTQファイルの品質管理にはBolger et al. Bioinformatics 2014が使用された。リードはBurrows-Wheeler Aligner (BWA-mem, v0.7.12) を用いてヒトゲノム(hg19)にマッピングされた。インデル周辺の局所的な再アライメントと塩基品質スコアの再キャリブレーションは、Genome Analysis Toolkit (GATK 3.4.0) を用いて適用された。体細胞変異の検出にはVarScan2が使用され、変異アレル頻度 (MAF) が0.2%以上で、両方向から3リード以上の支持がある体細胞変異コールが保持された。一般的なSNPはdbSNP (v137) および1,000 Genomesデータベースを用いてフィルタリングされ、Wang et al. NucleicAcidsRes 2010を用いてアノテーションされた。遺伝子融合はFACTERAを用いて同定され、コピー数変異 (CNV) はADTExを用いて検出された。統計解析にはFisher’s exact testが用いられた。

機能検証: Ba/F3細胞株に、レトロウイルス形質導入によりEGFR活性化変異(Ex19delまたはL858R)±T790M±二次変異(C797S, L792F/H/Y, L718Q, G719A)を発現させた。IL3非依存的増殖能と、オシメルチニブおよびゲフィチニブに対する用量反応性(AlamarBlueアッセイ、72時間)を評価し、IC50値を算出した。

In silico解析: PDB 4ZAUおよび4WKQのデータに基づいて、立体構造モデリングを実施し、変異がTKI結合に与える影響を予測した。