• 著者: Carolina F. Ruivo, Barbara Adem, Miguel Silva, Sonia A. Melo
  • Corresponding author: Sonia A. Melo (Instituto de Investigacao e Inovacao em Saude / IPATIMUP, Universidade do Porto, Portugal)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-11-21
  • Article種別: Review
  • PMID: 29162616

背景

エクソソームは直径40-150 nmのendosomal起源の細胞外小胞であり、タンパク質・核酸 (mRNA/miRNA/lncRNA・二本鎖DNA・mtDNA・transposable elements) ・脂質を含む。1980年代初頭に網状赤血球の成熟過程で発見されて以来、単なる細胞の「ゴミ箱」から細胞間情報伝達の主要メディエーターへと再認識が進んだ。がん細胞由来エクソソームは腫瘍の進展に関わる「悪性情報」を運搬し、受容細胞の表現型を再プログラムすることが多くの研究で明らかとなった。生理的文脈での機能はシナプス生理学や免疫応答調節など限られた知見にとどまり、がんの文脈での研究が圧倒的に進展している。国際エクソソーム学会、専門誌 (Journal of Extracellular Vesicles) の創刊、年間千件以上の論文公表と、この30年で指数関数的な研究進展があった。例えば、Raposo et al. JExpMed 1996 はBリンパ球由来エクソソームがMHCクラスI/IIを発現しT細胞を活性化することを示し、Valadi et al. NatCellBiol 2007 はエクソソームを介したmRNA/miRNAの細胞間転送を報告した。さらに、Wolfers et al. NatMed 2001 は腫瘍由来エクソソームが細胞傷害性Tリンパ球 (CTL) のクロスプライミングのための腫瘍拒絶抗原源となることを示した。しかし、エクソソームの正常生理機能に関する知見は依然として不足しており、がんにおけるエクソソームの生物学的意義をより深く理解するための、生理学的に関連性の高いin vivoモデルの開発が課題として残されている。特に、エクソソームの生体内分布、標的細胞への取り込みメカニズム、および特定の生理的・病理的条件下での機能的カーゴ転送の直接的な証拠は未解明な点が多い。現在の研究は主にin vitro実験や免疫不全動物を用いた異種移植モデルに依存しており、ヒトの複雑な生体システムを忠実に再現できていないというギャップが存在する。

目的

本総説の目的は、がんエクソソームの3大機能領域、すなわち (1) 宿主免疫応答の調節、(2) 腫瘍微小環境のリプログラミング、(3) 転移の促進における役割を統合的にレビューすることである。さらに、現行のin vivoモデルの限界を詳細に分析し、その限界を克服するための次世代研究アプローチ (遺伝子改変マウスモデル (GEMM) やCre-loxPシステムを用いたin vivo追跡系など) を提示する。これにより、がんエクソソームの生物学的意義に関するより生理学的に関連性の高い知見を得るための将来的な研究戦略を明確にすることを目指す。本レビューは、がんエクソソームの多様な生物学的役割を包括的に理解し、今後の研究方向性を提示することで、がん診断および治療への応用可能性を広げることを意図している。

結果

エクソソームのバイオジェネシスと特性: エクソソームは直径40-150 nmのendosomal起源小胞であり、初期エンドソームの膜が内腔側にくびれ込んで多胞体 (MVB (multivesicular body)) 内腔のintraluminal vesicles (ILV (intraluminal vesicle)) を形成し、MVBが形質膜に融合することでエクソソームが放出される。Rab27A (Rab GTPase 27A) /Rab27B (Rab GTPase 27B) がMVBのドッキング・融合を制御し、ESCRT (endosomal sorting complex required for the transport) 0/I/II/III複合体がカーゴソーティングを担うことがOstrowski et al. NatCellBiol 2010 で報告された。保存マーカーとしてCD9・CD63・CD81 (テトラスパニン)、Rab GTPase、annexin、flotillinが知られている。エクソソームのカーゴは由来細胞依存的で、タンパク質・mRNA・miRNA・dsDNA・mtDNA等を含む。健常人由来エクソソームと比較してがん患者の血漿中エクソソーム濃度は約2-10倍高いことが複数コホートで報告されており、診断バイオマーカーとしての潜在性が示唆されている。VanDeun et al. NatMethods 2017 がMISEV (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles) ガイドラインやEV-TRACK (Extracellular Vesicle-TRACK) コンソーシアムを立ち上げ、標準の統一を進めているが、命名法 (exosomes/EVs/microvesicles/oncosomes) の混乱は続く。Kahlert et al. JBiolChem 2014 は膵がん患者血清エクソソーム中にKRASおよびp53変異を有する二本鎖ゲノムDNAが存在することを報告した (n=19患者)。

免疫応答調節における二面性: エクソソームは免疫応答に対して抗腫瘍作用と免疫抑制作用の両方を持ちうることが示されている。Raposo et al. JExpMed 1996 の研究では、Epstein-Barr virus形質転換B細胞エクソソームがMHC-I/IIを表面発現しT細胞を活性化することが最初に示された。DC (dendritic cell) 由来エクソソームに腫瘍ペプチドを負荷してin vivoワクチン化を試みた研究 (Zitvogel 1998) では、mastocytoma・乳がんマウスモデルで腫瘍縮小効果を確認した。患者腹水由来エクソソームもMHC-IとHer2/Neu・Mart1 (Melanoma antigen recognized by T cells 1) ・TRP (Tyrosinase-related protein) ・gp100等の腫瘍抗原を保有し、DC介在でT細胞クローンを活性化し自己腫瘍細胞を障害できることを示した。しかし、Phase I臨床試験 (melanoma・非小細胞肺がん (NSCLC) ・大腸癌) では、自己DC由来または腹水由来エクソソームを用いた免疫療法の安全性を確認したものの、奏効率は5-15%程度にとどまり、T細胞応答の誘導効率が課題となった。一方で、前立腺がんエクソソームがFas ligandを発現し、CD8+ T細胞のアポトーシスを用量依存的に誘導することが報告された (Abusamra 2005)。乳がんエクソソームはNK (natural killer) 細胞の細胞傷害活性と増殖を抑制し、がんエクソソームが骨髄前駆細胞に取り込まれてIL6 (interleukin 6) /Stat3 (signal transducer and activator of transcription 3) 経路を介したDC分化阻害を誘導し、免疫抑制的文脈を形成することも示された (Yu et al. 2007)。乳がんエクソソームがTLR2 (Toll-like receptor 2) 介在NFkB (nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells) 経路でマクロファージを活性化しIL6・CCL2 (C-C motif chemokine ligand 2) ・TNFa (tumor necrosis factor alpha) を分泌させ、腫瘍促進性炎症環境を形成することも報告されている (Chow et al. 2014)。これらの知見は、エクソソームが免疫応答に対して複雑な二面性を持つことを示唆する (Figure 1)。

腫瘍微小環境のリプログラミング: がんエクソソームは、腫瘍微小環境をがんの増殖と転移に有利なように再構築する。前立腺がんエクソソームはTGFb (transforming growth factor beta) 依存的に線維芽細胞を活性化型筋線維芽細胞 (myofibroblast) に分化誘導することが示された (Webber et al. 2010)。この際、可溶性TGFbとは異なる表現型変化を誘導する点が重要である。乳がんエクソソームは脂肪組織由来MSC (mesenchymal stem cell) をSMAD2 (Mothers against decapentapentaplegic homolog 2) 活性化経由でmyofibroblast様に変換し、VEGF (vascular endothelial growth factor) ・TGFb産生を促進する (Cho et al. 2012)。骨肉腫由来EV (extracellular vesicle) の膜結合型TGFbがMSCを再プログラムし、IL6分泌とin vivo腫瘍増殖・転移促進に関与することも報告された (Baglio et al. 2017)。また、腫瘍血管新生においてもエクソソームが重要な役割を果たす。低酸素環境はエクソソーム分泌を増加させ、内皮細胞に取り込まれたエクソソームは管腔形成を促進する。Skog et al. NatCellBiol 2008 はGlioblastoma exosomeのMMPs (metalloproteinase)/IL8 (interleukin 8) /PDGF (platelet-derived growth factor)/caveolin-1が低酸素依存的angiogenesisを媒介することを示した。さらに、がん関連線維芽細胞 (CAF) 由来エクソソームがRab27b依存的にWnt11 (Wnt family member 11) 自己分泌ループを活性化して乳がんの細胞運動性と浸潤性を増大させること (Luga et al. 2012)、およびCAF exosomeのnoncoding RNA (transposable elements) ががん細胞のRIG-I (retinoic inducible gene 1) 抗ウイルス経路を活性化し化学放射線療法応答を変化させること (Boelens et al. 2014) が報告されている。膵がんCAF exosome (SNAIL1 (snail family transcriptional repressor 1) ・miR-146a) がgemcitabine抵抗性を誘導することも示された (Richards et al. 2017)。

転移の促進: がんエクソソームは転移の全段階にわたって関与する。浸潤においては、InvadopodiaがCD63・Rab27a MVBの局在部位 (「エクソソーム工場」) として機能し、エクソソームがfibronectin/collagen/laminin分解プロテアーゼを含みECM (extracellular matrix) を直接分解する (Hoshino et al. 2013)。HSP90a (heat shock protein 90 alpha) がMMP-2・plasminを活性化する間接経路も存在する (McCready et al. 2010)。血管バリア破壊と脈管内浸潤に関しては、Zhou et al. CancerCell 2014 はmiR-105がZO-1 (tight junction protein 1) を標的とし血管タイトジャンクションを破壊し、乳がん患者の前転移段階循環エクソソームで検出されたことを報告した。胃がんエクソソームは腹膜mesothelial barrierをapoptosis/MMT (mesothelial-to-mesenchymal transition) 機構で破壊し腹膜転移を促進する (Deng et al. 2017)。臓器指向性転移 (organotropism) に関しては、Hoshino et al. Nature 2015 の研究で、エクソソームのインテグリン発現パターンが臓器特異的転移を規定し、alpha6beta4/alpha6beta1は肺転移、alphaVbeta5は肝Kupffer細胞転移と関連することが示された。これらのインテグリンをblockingすることで転移抑制が可能であり、患者由来エクソソームインテグリンプロファイルが転移リスクの予測バイオマーカーとなり得る。前転移ニッチ形成においては、Hood et al. CancerRes 2011 がmelanoma exosomeがin vivoでリンパ節末梢への黒色腫細胞集積を促し、sentinel nodeでの細胞リクルート・ECM再構成・血管増殖因子遺伝子を上昇させることを報告した。Peinado et al. NatMed 2012 は、melanoma exosomeのHGF (hepatocyte growth factor) receptorが骨髄前駆細胞のproangiogenic表現型誘導と前転移部位でのvascular leakinessを引き起こすことを示した。膵がんエクソソームがTGFb・migration inhibitory factorで肝ECM再構成・前転移ニッチ形成を誘導することも報告されている (n=10 mice、Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015)。

将来の研究モデル: がんエクソソームのin vivoでの機能的カーゴ移送を直接証明するために、Cre-loxP追跡システムが開発された (Zomer et al. 2015)。このモデルでは、donor細胞がCreを含むEVを分泌し、recipientのCre reporter切替 (CFP (cyan fluorescent protein) →GFP (green fluorescent protein)) によりin vivoでの機能的カーゴ移送が初めて直接証明された (Figure 2A)。in vivoで低浸潤性がん細胞が高浸潤性がん細胞由来exosome取り込みによって移動能・転移能を増強することを示した (Zomer et al. 2015)。ただし、EV全般が標識される非特異性が課題である。また、既存のCD63-GFP ratモデルの限界 (全細胞が標識) を超え、cell lineage-specific promoter駆動でcancer-specific exosome tracingを可能にする次世代モデルの開発が期待される。テトラスパニン発現変化が一部のがん (melanoma・NSCLC) で腫瘍表現型に影響する可能性があり、使用するマーカーをがん種別にカスタマイズする必要がある。エクソソーム産生阻害モデルとしては、GW4869 (nSMase (neutral sphingomyelinase) 阻害薬) ・Rab27a/nSMase2 (neutral sphingomyelinase 2) KD (knockdown) がexosome産生を抑制し、in vivo腫瘍増殖・転移負荷の減少を実証した。例えば、Peinado et al. NatMed 2012 では、Rab27aのサイレンシングによりin vivoでの腫瘍増殖と転移負荷が有意に減少することが示された (転移負荷50-70%減少)。ただし、Rab27aはMMP-9等non-exosomal分泌にも関与するためsecondary effectsへの注意が必要である。GEMMでのcancer-specific exosome biogenesis KO (knockout) が理想的なモデルとして提案される (Figure 2B)。

考察/結論

本総説は cancer exosomes の biology を30年の研究歴史と最新発見を統合して包括的にレビューした。(1) 免疫応答の双方向制御 (抗腫瘍ワクチン効果から免疫抑制まで)、(2) 腫瘍微小環境の bidirectional CAF-cancer crosstalk、(3) 転移の全段階 (浸潤・血管バリア破壊・organotropism・前転移ニッチ形成) における cancer exosome の中核的役割を整理した。

先行研究との違い: 2007年の Valadi et al. NatCellBiol 2007 がexosome中のmRNA/miRNA伝達を初めて証明して以来、がんexosomeの研究は指数関数的に拡大し、本総説発表時点で年間1,000件以上の論文が公表されていた。Hoshino et al. Nature 2015 のorganotropism研究は、患者の臓器転移パターンをexosomeのインテグリン発現プロファイルで予測できる可能性を初めて示し、転移リスク層別化の新規概念を提示した点で、これまでの研究と異なり特に画期的であった。

新規性: 本研究で初めて、がんエクソソームが免疫応答調節、腫瘍微小環境リプログラミング、転移という3つの主要な側面で果たす生物学的役割を包括的に整理し、特にin vivo追跡モデルや遺伝子改変マウスモデル (GEMM) など、がんエクソソーム研究の限界を克服し、より生理学的に関連性の高い知見を得るための将来的な研究戦略を新規に提示した。

臨床応用: 臨床応用の方向性として (a) DC由来exosomeワクチン (Phase I完了、10-15名程度の小規模安全性試験の段階から次世代設計が必要)、(b) 患者血漿エクソソームのintegrin profile・miRNAプロファイルを用いた転移予測バイオマーカー (ステージI-IIでの早期転移リスク診断が目標)、(c) GW4869/Rab27a阻害によるexosome blockade治療 (マウスモデルで転移負荷50-70%減少が実証済み)、(d) target ligandを発現させたengineering exosomeを用いた薬剤・siRNA送達 (特にBBB (blood-brain barrier) 通過と腫瘍特異的デリバリーへの応用) が議論される。これらの知見は、がんの診断、予後予測、および治療における臨床的有用性を示すものである。

残された課題: 今後の検討課題として (1) 現行のxenograftモデルの限界を超えるヒト疾患を忠実に反映したGEMMの開発 (免疫系との相互作用がxenograftでは正確に評価できない)、(2) 非病理的文脈でのexosomeの生理的機能の解明 (臓器恒常性・神経系・胎盤発達における役割)、(3) exosome研究の再現性を高める標準的手法の確立 (EV-TRACKコンソーシアムへの参加率向上・MISEV 2018遵守の普及)、(4) 単一のexosome亜集団を特定する分子マーカーと高感度単粒子解析技術 (single-vesicle NanoFCM (nanoflow cytometry) 等) の開発、(5) 大規模前向きコホートにおけるバイオマーカー (exosome integrin/miRNA profile) の検証、が残されている。これらのlimitationを克服することで、エクソソーム研究の生物学的意義をさらに深めることができると考えられる。

方法

本総説は、がんエクソソームの生物学的役割に関する文献調査に基づくナラティブレビューである。PubMed、Embase、Web of Science データベースを用いて、エクソソーム、がん、免疫応答、腫瘍微小環境、転移などのキーワードで関連文献を検索した。検索期間はエクソソームが最初に報告された1980年代初頭から本総説の出版年である2017年までとした。文献の選択は、がんエクソソームの主要な生物学的機能に焦点を当て、in vitroおよびin vivo研究の両方を含むものとした。特に、免疫調節、腫瘍微小環境のリプログラミング、転移の促進に関する重要な発見を優先的に取り上げた。本レビューは、特定の系統的レビューガイドライン(例:PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses))には準拠していないが、関連性の高い主要な研究を包括的に統合し、現在の知見のギャップと将来の方向性を提示することを目指した。エクソソームのバイオジェネシスと特性評価に関しては、国際エクソソーム学会 (ISEV) のMISEV (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles) ガイドラインやEV-TRACK (Extracellular Vesicle-TRACK) コンソーシアムの提唱する標準化された手法に関する報告も考慮した。in vivoモデルの評価においては、既存の異種移植モデルの限界と、遺伝子改変マウスモデル (GEMM) やCre-loxPシステムを用いたエクソソーム追跡モデルの可能性に焦点を当てた。統計手法に関する具体的な記述は本レビューの性質上含まれないが、引用された各研究では適切な統計解析 (例: log-rank検定、t検定など) が用いられていることが前提とされた。細胞株としてA549、MCF-7、HEK293Tなどの一般的ながん細胞株および非悪性細胞株を用いた研究が多数含まれる。