• 著者: Nasser Hanna, David Johnson, Sarah Temin, Sherman Baker Jr, Julie Brahmer, Peter M. Ellis, Giuseppe Giaccone, Paul J. Hesketh, Ishmael Jaiyesimi, Natasha B. Leighl, Gregory J. Riely, Joan H. Schiller, Bryan J. Schneider, Thomas J. Smith, Joan Tashbar, William A. Biermann, Gregory Masters
  • Corresponding author: American Society of Clinical Oncology (guidelines@asco.org)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-08-14
  • Article種別: Guideline
  • PMID: 28806116

背景

Stage IV非小細胞肺癌(NSCLC)に対する全身療法は、免疫チェックポイント阻害薬の導入により近年急速な進展を遂げていた。2015年のASCO臨床実践ガイドライン改訂以降、PD-1/PD-L1阻害薬の有効性を評価する大規模なランダム化比較試験(RCT)が多数報告された。これらの試験には、非扁平上皮癌におけるニボルマブとドセタキセルの比較(CheckMate 057、Borghaei et al. NEnglJMed 2015)、扁平上皮癌における同様の比較(CheckMate 017、Brahmer et al. NEnglJMed 2015)、アテゾリズマブの有効性を示したOAK試験(Rittmeyer et al. Lancet 2017)、PD-L1陽性既治療例に対するペムブロリズマブのKEYNOTE-010試験(Herbst et al. Lancet 2016)、およびPD-L1高発現未治療例に対するペムブロリズマブのKEYNOTE-024試験(Reck et al. NEnglJMed 2016)などが含まれる。これらの新たなエビデンスは、従来の治療アルゴリズムを大きく変革する可能性を秘めていた。

また、EGFR、ALK、ROS1遺伝子変異陽性例では、分子標的薬が標準治療として確立されているが、EGFR T790M耐性変異に対するオシメルチニブの承認(Janne et al. NEnglJMed 2015Mok et al. NEnglJMed 2017)により、治療選択肢がさらに複雑化した。これらの進展により、Stage IV NSCLCの治療戦略は多様化し、最適な治療選択のための明確なガイドラインが不足している状況であった。特に、免疫チェックポイント阻害薬の最適なシーケンスや、特定の患者群における禁忌の定義、および免疫関連有害事象(irAEs)の管理に関するエビデンスは未解明な点が多かった(Michot et al. EurJCancer 2016)。本ガイドラインはStage IV NSCLC全般を対象としており、大細胞神経内分泌癌(LCNEC)は直接の対象ではないが、NSCLC様の分子プロファイルを持つLCNECの治療検討において参考となる。このような背景から、最新のエビデンスを統合し、臨床現場での意思決定を支援する包括的なガイドラインの更新が喫緊の課題として認識されていた。

目的

本ガイドラインの目的は、2015年版ASCOガイドラインを更新し、Stage IV NSCLC患者に対する全身療法に関するエビデンスに基づいた推奨事項を提供することである。特に、2014年2月から2016年12月までの期間に報告されたランダム化比較試験(RCT)のデータに基づき、免疫療法、EGFR T790M変異、ROS1遺伝子再構成、およびBRAF V600E変異に対する新たな治療選択肢を評価し、推奨を更新することで、複雑化するStage IV NSCLCの治療アルゴリズムを整理し、臨床医の意思決定を支援することを目指した。これにより、患者の予後改善と治療の最適化に貢献することを意図している。

結果

一次治療におけるPD-L1高発現例へのペムブロリズマブ単剤の導入: PD-L1腫瘍細胞表面積率(TPS)が50%以上の未治療Stage IV NSCLC患者(EGFR、ALK、ROS1遺伝子変異陰性)に対し、ペムブロリズマブ単剤療法が推奨された(エビデンスの質:高;推奨強度:強)。これは、KEYNOTE-024試験(NCT02142738)の結果に基づくものであり、ペムブロリズマブ群(n=154)はプラチナ製剤ベースの化学療法群(n=151)と比較して、無増悪生存期間(PFS)中央値で10.3ヶ月 vs 6.0ヶ月(HR 0.50, 95% CI 0.37-0.68, p<0.001)と有意な改善を示した。全生存期間(OS)もペムブロリズマブ群で有意に改善し(HR 0.60, 95% CI 0.41-0.89, p=0.005)、奏効割合(ORR)は44.8% vs 27.8%であった(Table 2)。PD-L1低発現(TPS <50%)の患者には、引き続きプラチナ製剤ベースの2剤併用化学療法が推奨された。

二次治療におけるPD-L1発現に応じた免疫療法の使い分け: 一次化学療法後に病勢進行した患者で、PD-L1 TPSが1%以上の場合は、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、またはアテゾリズマブのいずれかの単剤療法が推奨された(エビデンスの質:高;推奨強度:強)。CheckMate 057試験(NCT01673867)では、非扁平上皮癌患者においてニボルマブ(n=292)がドセタキセル(n=290)と比較してOS中央値を12.2ヶ月 vs 9.4ヶ月(HR 0.72, 95% CI 0.60-0.88, p<0.001)に延長し、特にPD-L1 TPSが5%以上の患者ではOS改善が顕著であった(HR 0.43, 95% CI 0.30-0.63)。CheckMate 017試験(NCT01642004)では、扁平上皮癌患者においてニボルマブ(n=135)がドセタキセル(n=137)に対しOS中央値を9.2ヶ月 vs 6.0ヶ月(HR 0.59, 95% CI 0.44-0.79, p<0.001)に改善した。OAK試験(NCT02073717)では、アテゾリズマブ(n=425)がドセタキセル(n=425)と比較してOS中央値を12.6ヶ月 vs 9.7ヶ月(HR 0.71, 95% CI 0.58-0.88, p<0.001)に延長した(Table 2)。PD-L1発現が陰性または不明な患者には、ニボルマブまたはアテゾリズマブが推奨された。

EGFR T790MおよびBRAF変異例に対する精密医療の体系的整理: EGFR感受性変異陽性で一次EGFR-TKI治療後にT790M耐性変異が確認された患者には、オシメルチニブが推奨された(エビデンスの質:高;推奨強度:強)。これはAURA3試験(NCT02157592)の結果に基づくもので、オシメルチニブ群(n=279)のPFS中央値は10.1ヶ月(95% CI 8.3-12.3ヶ月)であり、プラチナ製剤ベース化学療法群(n=140)の4.4ヶ月(95% CI 4.2-5.6ヶ月)と比較して有意な延長を示した(HR 0.30, 95% CI 0.23-0.41, p<0.001)。T790M変異が陰性の場合は、プラチナ製剤ベースの化学療法が推奨された。BRAF V600E変異陽性でPD-L1 TPSが1%超かつ免疫療法未施行の患者には、アテゾリズマブ、ニボルマブ、またはペムブロリズマブが選択肢として挙げられた(エビデンスの質:不十分;推奨強度:弱)。免疫療法後の三次治療としては、ダブラフェニブ単剤またはトラメチニブとの併用が推奨された。ROS1遺伝子再構成陽性でクリゾチニブ未治療の患者にはクリゾチニブが推奨された(インフォーマルコンセンサス;エビデンスの質:低;推奨強度:弱)。

三次治療以降と推奨の限界: EGFR/ALK/ROS1陰性の非扁平上皮癌で、化学療法と免疫療法の両方を既に受けている患者には、ペメトレキセドまたはドセタキセルが選択肢とされた(インフォーマルコンセンサス;エビデンスの質:低)。しかし、EGFR変異陽性でEGFR-TKIと化学療法の両方を受けた患者において、免疫療法を化学療法より優先するエビデンスは不十分であるとされた。免疫療法の禁忌定義や、免疫関連有害事象(irAEs)の管理に関するエビデンスは発展途上であり、今後の研究課題として指摘された(Table 3)。例えば、KEYNOTE-021試験(NCT02039674)では、ペムブロリズマブと化学療法の併用療法が有望な結果を示したが、長期的な安全性データや最適な患者選択基準についてはさらなる検討が必要である。

考察/結論

2017年改訂版ASCOガイドラインにおける最も重要な変更点は、PD-L1高発現(TPS ≥50%)の未治療Stage IV NSCLC患者に対するペムブロリズマブ単剤一次治療の推奨導入である。これは、従来のプラチナ製剤ベース化学療法が標準であったパラダイムを転換する歴史的変化であり、KEYNOTE-024試験(Reck et al. NEnglJMed 2016)に基づくエビデンスの質は「高」、推奨強度も「強」と評価された。この知見は、特定のバイオマーカーに基づく精密医療が一次治療の段階で確立されたことを意味する。

先行研究との違い: これまでのガイドラインでは、免疫チェックポイント阻害薬は主に二次治療以降で推奨されていたが、本ガイドラインではPD-L1高発現例において一次治療としてのペムブロリズマブ単剤療法が推奨された点で、これまでの治療戦略と大きく異なる。また、EGFR T790M変異陽性例に対するオシメルチニブの二次治療推奨も、AURA3試験(Mok et al. NEnglJMed 2017)に基づく強固なエビデンスを持ち、EGFR変異陽性NSCLCの二次治療標準を確立した点で新規性が高い。

新規性: 本研究で初めて、PD-L1発現レベルがStage IV NSCLCの一次治療選択に直接影響を与える主要な因子として明確に位置づけられた。これにより、PD-L1検査の重要性が改めて強調され、個別化医療の進展が示された。ROS1陽性例への推奨はインフォーマルコンセンサスであり、証拠の質は低水準にとどまるが、クリゾチニブの有効性(Shaw et al. NEnglJMed 2013)は確立されている。

臨床応用: 本ガイドラインの推奨は、Stage IV NSCLC患者の治療選択において、分子検査結果に基づいた個別化医療を臨床現場で実践するための具体的な指針を提供する。特に、PD-L1発現検査の普及と、それに基づく治療選択の最適化は、患者の予後改善に直結する臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、免疫チェックポイント阻害薬の最適なシーケンス、特に一次治療で免疫療法を受けた後の二次治療戦略、および免疫療法の禁忌のより詳細な定義が残されている。また、免疫関連有害事象の長期的な管理に関するエビデンスも発展途上であり、さらなる研究が必要である。本ガイドラインはLCNECを直接の対象としないが、NSCLC様の分子プロファイルを持つLCNECの治療検討において、NSCLC型化学療法レジメンや免疫療法の適用判断の参考となる可能性があり、Clinical-NECカテゴリへの分類は、LCNECを含む高悪性度神経内分泌腫瘍の臨床管理においてこの推奨を参照する必要性から生じている。

方法

ASCO NSCLC Expert Panelは、Stage IV NSCLC患者に対する全身療法に関する推奨を策定するため、系統的文献レビューを実施した。文献検索はMEDLINEデータベースを用いて2014年2月から2016年12月までの期間を対象とし、ランダム化比較試験(RCT)に限定して行われた。また、Cancer Care Ontario (CCO) の以前のASCO検索の更新も採用された。本ガイドラインの推奨は、複数の臨床試験(例: KEYNOTE-024, NCT02142738; CheckMate 057, NCT01673867; AURA3, NCT02157592)のデータに基づき、主要評価項目である全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)に対する治療効果を評価した。

選択基準は以下の通りである。

  • Stage IV NSCLC患者を対象とする研究(一部の試験ではStage IIIB NSCLC患者も含まれる)。
  • 免疫療法または分子標的療法に関する研究では最低20例、化学療法に関する研究では最低50例以上の患者を組み入れていること。
  • 査読済みの英語論文として完全に発表されたPhase IIまたはPhase III RCT、あるいは完全に発表された会議抄録であること。
  • 登録目標を達成した研究であること。
  • 独立した評価による奏効判定が行われていること。
  • 主要および副次評価項目に対してintention-to-treat解析が用いられていること。
  • 推奨を支持するために用いられた非RCT研究の場合、結果の一貫性が確認されていること。

これらの基準に基づき、ASCOが独自に選定した9件のRCTと、CCOによる5件のRCT(合計14件)が主要なエビデンス基盤として採用された。さらに、6件の非ランダム化研究も推奨策定の参考とされた。推奨の強度は、GLIDES/BRIDGE-Wiz手法を用いて評価され、エビデンスに基づく推奨(evidence-based)と、エビデンスが不足している場合のインフォーマルコンセンサスを明確に区別して記載された。研究の質評価は、ASCOのレビュー担当者1名により、盲検化、割り付けの隠蔽化、プラセボ対照、intention-to-treat解析、資金源などの要因を考慮して行われ、ほとんどの研究でバイアスのリスクは低から中程度と評価された。統計解析には、生存期間の比較にKaplan-Meier法とlog-rank testが用いられ、ハザード比(HR)はCox比例ハザードモデルによって算出された。