- 著者: Jessica J. Lin, Gregory J. Riely, Alice T. Shaw
- Corresponding author: Alice T. Shaw (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston, MA)
- 雑誌: Cancer Discovery
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 28122866
背景
ALK (anaplastic lymphoma kinase) は、1994年に未分化大細胞型リンパ腫 (ALCL) においてNPM1-ALK融合遺伝子として初めて発見された受容体チロシンキナーゼである。その後、2007年にSodaらによって非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるEML4-ALK融合遺伝子が同定され、強力な癌遺伝子同調 (oncogene addiction) のモデルとして世界的な注目を集めることとなった (Soda et al. Nature 2007)。ALK陽性NSCLCは全NSCLCの約3-7%を占め、若年、非喫煙者、腺癌に多いという極めて明確な臨床的特徴を持つ。ALK阻害薬 (TKI) の開発は極めて迅速に進み、第一世代のcrizotinib (Kwak et al. NEnglJMed 2010)、第二世代のceritinib、alectinib、brigatinib、そして第三世代のlorlatinibが次々と臨床導入された。これにより、ALK陽性肺癌患者の予後は劇的に改善したことが複数の第III相試験によって証明されている (Shaw et al. NEnglJMed 2013)。
しかし、これらの標的治療薬の劇的な初期効果にもかかわらず、治療開始後1-2年以内にほぼすべての症例で獲得耐性が生じ、臨床的な再発を来すことが深刻な課題となっている。耐性機序は、ALK遺伝子自体の二次変異や増幅を伴うALK依存性 (on-target) 機序と、他の受容体チロシンキナーゼや下流シグナルの活性化、さらには組織型変化を伴うALK非依存性 (off-target) 機序に大別される。これらの多様な耐性経路が個々の患者においてどのように進化し、多クローン性に共存しているかについては未だ十分に解明されておらず、治療シークエンスの最適化に関する知見は圧倒的に不足している。特に、逐次的なALK TKI治療下における耐性クローンの動的な選択プロセスや、個々の耐性変異に対する最適な治療選択の順序については、臨床的なエビデンスが未確立であり、治療介入の指針となる包括的なフレームワークが強く求められていた。臨床現場において、耐性機序に基づいた個別化医療 (precision medicine) を実践するためには、これらの複雑な耐性メカニズムを体系的に整理し、治療介入の指針となる包括的なフレームワークを提示することが不可欠であるが、従来の知見は断片的であり、統合的な理解が不足していた。
目的
本総説の目的は、ALK陽性腫瘍におけるALKの生理学的・病理学的役割を整理し、各種ALK阻害薬 (crizotinib、ceritinib、alectinib、brigatinib、lorlatinib) の臨床データを包括的に統合することである。さらに、ALK TKIに対する獲得耐性機序について、(i) ALKキナーゼ領域の二次変異や遺伝子増幅を含むALK依存性 (on-target) 機序、および(ii) バイパス経路の活性化、上皮間葉移行 (EMT)、小細胞肺癌 (SCLC) への組織型転化、薬剤排出ポンプの過剰発現を含むALK非依存性 (off-target) 機序を分子生物学的な観点から体系的に分類・整理する。最終的に、連続的な腫瘍生検 (serial biopsy) や液体生検 (ctDNA解析) に基づく耐性プロファイリングを臨床現場に導入し、耐性変異に応じた最適な順次治療 (sequencing) や併用療法を選択するための合理的かつ具体的な治療戦略を提唱することを目的とする。
結果
ALK遺伝子再構成の生物学的特徴と多様な融合パートナー: ALKはインスリン受容体スーパーファミリーに属する受容体チロシンキナーゼ (RTK) であり、正常組織では主に発生期の神経系に局在している。ALK遺伝子再構成は、NSCLCの約3-7%において検出され、腺癌、若年者、非喫煙者との強い相関を示す (Table 1)。最も代表的な融合パートナーはEML4 (echinoderm microtubule-associated protein-like 4) であり、染色体2pの反転によってEML4-ALK融合遺伝子が形成される。EML4-ALKには、切断点の違いにより10種類以上のバリアントが存在し、バリアント1 (v1) が約33%、バリアント3a/b (v3a/b) が約29%、バリアント2 (v2) が約10%を占める。すべてのALK融合タンパク質において、ALKの細胞内キナーゼ領域全長が保存されており、パートナー遺伝子のオリゴメライゼーションドメインを介して恒常的な二量体化と自己リン酸化が誘導される。これにより、下流のJAK/STAT、PI3K/AKT/mTOR、およびRAS/RAF/MEK/ERK経路が強力に活性化され、腫瘍細胞の異常な増殖と生存が維持される (Fig 1)。
第一世代および第二世代ALK阻害薬の臨床的有効性と限界:
第一世代ALK TKIであるcrizotinibは、未治療のALK陽性進行NSCLCを対象とした第III相試験 (PROFILE 1014) において、化学療法群と比較して無増悪生存期間 (PFS) を劇的に延長した。主要endpointであるPFSのハザード比は HR 0.45 (95% CI 0.35-0.60, p<0.001) であり、中央値は 10.9 vs 7.0 months であった。また、事前に規定されたサブグループ解析において、ベースラインで脳転移を有する患者群におけるPFSのハザード比は HR 0.40 (95% CI 0.20-0.80, p=0.009) であり、脳転移陽性例においても高い有効性が示された。しかし、crizotinib治療開始後1-2年以内に、中枢神経系 (CNS) を含む全身での病勢進行がほぼ全例で認められる。第二世代ALK TKI (ceritinib、alectinib、brigatinib) は、crizotinibよりも強力なALK阻害活性を持ち、crizotinib耐性例に対しても優れた効果を示す (Table 2)。例えば、alectinibはcrizotinib抵抗性の患者を対象とした臨床試験において、奏効率 (ORR) 約50%、PFS中央値8-9か月を示した。さらに、未治療例を対象としたJ-ALEX試験では、alectinib群のPFS中央値は未到達 (95% CI 20.3 months-not estimated) であり、crizotinib群の 10.2 months (95% CI 8.2-12.0 months) に対し有意な延長を示した。
ALK依存性耐性機序としての多様なキナーゼ領域二次変異: ALK阻害薬に対する獲得耐性機序のうち、ALKキナーゼ領域の二次変異は極めて重要なon-target機序である (Fig 3)。EGFR遺伝子変異陽性肺癌におけるT790Mのような単一の支配的変異とは異なり、ALK陽性肺癌ではキナーゼドメイン全体にわたって多様な二次変異が出現する。crizotinib耐性例の20-30%において二次変異が検出され、代表的な変異としてゲートキーパー変異であるL1196Mや、ATP結合ポケットに位置するG1269Aが挙げられる。これに対し、第二世代ALK TKI (ceritinib、alectinib、brigatinib) に対する耐性例では、二次変異の検出頻度が56% (ceritinib耐性例の54%、alectinib耐性例の53%、brigatinib耐性例の71%) へと有意に上昇する。特に、溶媒フロント (solvent-front) 変異であるG1202Rは、crizotinib耐性例ではわずか2%の頻度であったのに対し、第二世代阻害薬耐性例では21-43%と極めて高い頻度で検出される。G1202R変異は、キナーゼ領域の立体障害を引き起こすことで、すべての第一世代および第二世代阻害薬に対して高度な耐性を示す。第三世代のlorlatinibは、このG1202R変異を含むすべての既知の単一ALK耐性変異に対して強力な抑制活性 (in vitroでのIC50 < 10 nM) を有している。また、逐次治療によって生じる二重変異 (compound mutations、例:C1156Y/I1171NやE1210K/D1203N) は高度な耐性を示すが、lorlatinib耐性後に生じたC1156Y/L1198F二重変異においては、L1198F変異の追加によってlorlatinibには耐性化するものの、第一世代のcrizotinibに対する結合親和性がパラドックス的に回復し、crizotinibへの再感受性化 (paradoxical resensitization) を示すことが確認された。
ALK非依存性耐性機序としてのバイパスシグナル経路の活性化:
第二世代ALK TKI耐性例の40-50%は、ALKキナーゼ領域に変異を伴わないALK非依存性 (off-target) の耐性機序を示す (Fig 3)。その代表例がバイパスシグナル経路の活性化である。EGFRの活性化は、crizotinib耐性サンプルの44.4% (9例中4例) においてリン酸化EGFRの上昇として検出され、リガンドの自己分泌ループが関与していると考えられている。また、ゲノムワイドなORFスクリーニングにより、ERBB3/HER3のリガンドである NRG1 (neuregulin-1) の過剰発現が、ALK阻害薬に対する強力な耐性誘導因子として同定された。MET遺伝子増幅は、MET阻害活性を持たない第二世代阻害薬 (alectinibなど) の耐性機序として重要であり、alectinib耐性後にMET増幅を来した症例において、ALK/METデュアル阻害薬であるcrizotinibの再投与により劇的な腫瘍縮小効果が得られたことが報告されている。さらに、下流シグナルの直接的な再活性化として、MAP2K1 (MEK1) の活性化変異 (K57N変異) によるMEKの再活性化や、PIK3CA変異 (alectinib耐性例の3.7%)、KIT遺伝子増幅 (crizotinib耐性例の16.7%)、IGF1Rの活性化 (crizotinib耐性例の80%)、およびSRCの活性化が同定されている。これらのバイパス経路の活性化に対しては、ALK阻害薬と各経路の特異的阻害薬 (MEK阻害薬selumetinibなど) との併用療法が有効である (Fig 1)。
組織型変化および薬剤排出ポンプによるALK非依存性耐性:
腫瘍細胞の表現型や組織型の変化も、ALK阻害薬に対する重要な耐性機序である。上皮間葉移行 (EMT) は、ceritinib耐性生検サンプルの41.7% (12例中5例) において、上皮系マーカーであるE-cadherinの消失と間葉系マーカーであるvimentinの発現上昇を伴って確認された。EMTを来した耐性細胞では、AXLやIGF1R、あるいはSRC/FAKシグナル経路の活性化が生存維持に関与していることが示唆されている。また、肺腺癌から小細胞肺癌 (SCLC) への組織型転化は、crizotinibやalectinib治療後の耐性例において散発的に報告されている。この組織型転化は、EGFR TKI耐性肺癌における転化 (3-10%) と同様に、RB1遺伝子の不活化 (RB loss) やTP53変異、およびエピジェネティックな再プログラミングを伴っており、転化後はALK阻害薬に対する感受性を完全に消失し、通常のSCLCに準じた細胞障害性抗がん剤治療が必要となる。さらに、薬剤排出ポンプであるP-gp (P-glycoprotein) をコードする MDR1 (multidrug resistance 1) / ABCB1 (ATP-binding cassette sub-family B member 1) の過剰発現が、crizotinibまたはceritinib耐性サンプルの27.3% (11例中3例) において検出された。P-gpはcrizotinibおよびceritinibを基質として細胞外へ排出するため、脳血液関門 (BBB) の通過を制限し、CNSにおける治療失敗 (pharmacologic failure) の原因となる。これに対し、alectinibやlorlatinibはP-gpの基質とならないため、優れたCNS移行性を示し、脳転移の制御に寄与する。
腫瘍内不均一性と多クローン性耐性および液体生検の臨床応用: ALK陽性肺癌における獲得耐性は、単一の機序のみならず、同一患者内あるいは同一病変内において複数の異なる耐性クローンが共存する「多クローン性耐性 (polyclonal resistance)」として出現することが多い。例えば、あるceritinib耐性患者の剖検において採取された11箇所の転移病変を解析したところ、ある病変ではMAP2K1活性化変異が同定され、別の病変ではPIK3CA活性化変異が検出されるなど、病変ごとに異なるバイパス経路が活性化していることが明らかとなった。このような腫瘍内不均一性は、単一の局所腫瘍生検 (tissue biopsy) のみでは完全に捉えることが困難である。この課題を克服するため、無細胞DNA (cfDNA) を用いた液体生検 (liquid biopsy) の臨床応用が進められている (Fig 2)。液体生検は、全身の腫瘍病変から放出されたDNAを包括的に検出できるため、多クローン性耐性の全体像を非侵襲的に把握する上で極めて有用である。実際に、alectinib治療中の患者において、血漿中のctDNAを連続的にモニタリングすることにより、G1202Rなどの二次変異の出現とクローン進化を動的に追跡可能であることが示されている。現在、液体生検に基づく治療介入の有用性を検証するため、NCI主導のALK Master Protocolなどの前向き臨床試験が進行中である。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、単一の耐性変異のみに焦点を当てた従来の報告と異なり、ALK阻害薬に対する耐性機序をキナーゼ領域の二次変異 (on-target) とバイパス経路の活性化や組織型変化 (off-target) の双方向から体系的に分類・整理した点で大きく異なる。また、crizotinib耐性における二次変異の頻度 (20-30%) と、第二世代阻害薬耐性における頻度 (56%) の明確な差異を浮き彫りにし、治療薬の選択圧が耐性クローンの進化に与える影響を明らかにした。さらに、EGFR TKI耐性における耐性進化モデル(Sequist et al. SciTranslMed 2011)や、MET遺伝子増幅によるEGFR TKI耐性機序(Engelman et al. Science 2007)といった他のがん遺伝子同調モデルの知見と比較検討することで、ALK陽性肺癌に特有の多クローン性耐性の複雑さを浮き彫りにした。
新規性: 本研究で初めて、第二世代阻害薬耐性においてG1202R変異が極めて高い頻度 (21-43%) で出現し、これがすべての第一・第二世代阻害薬に対する共通の高度耐性機序であることを新規に同定した。さらに、lorlatinib耐性後に生じたC1156Y/L1198F二重変異が、立体障害の解消により第一世代のcrizotinibに対してパラドックス的な再感受性化 (paradoxical resensitization) を示すという、これまでに報告されていない極めてユニークな耐性進化モデルを提示した。
臨床応用: 本知見は、ALK陽性肺癌における個別化医療および順次治療 (sequencing) 戦略の臨床応用に直結する。臨床的意義として、患者がALK阻害薬に不応となった際、速やかに腫瘍生検または液体生検 (ctDNA解析) を行い、耐性プロファイルを同定することの重要性が示された。例えば、G1202R変異が検出された場合は第三世代のlorlatinibを選択し、MET増幅などのバイパス経路が同定された場合はALK阻害薬とMET阻害薬 (crizotinibなど) の併用療法を臨床現場で実践するための明確な指針となる。このbench-to-bedsideのアプローチは、無駄な治療を回避し、患者の生存期間を最大化するために不可欠である。
残された課題: 今後の検討課題として、多クローン性耐性 (polyclonal resistance) や腫瘍内不均一性に対して、単一の薬剤でどのように対処すべきかという問題が残されている。また、EMTや小細胞肺がんへの組織型転化といったリネージ変化 (lineage plasticity) を駆動する分子メカニズムは依然として未解明であり、これらの治療標的化は今後の重要な研究方向である。さらに、lorlatinibに対する耐性機序の全貌解明や、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法における毒性管理 (間質性肺疾患など) も、克服すべきlimitationとして残されている。特に、PD-L1陽性NSCLCに対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性(Reck et al. NEnglJMed 2016、Borghaei et al. NEnglJMed 2015、Brahmer et al. NEnglJMed 2015、Herbst et al. Lancet 2016)や、遺伝子変異量と免疫療法感受性との相関(Rizvi et al. Science 2015)に関する既報と比較して、ALK陽性肺癌における免疫微小環境の不活性さ(CD8陽性T細胞の浸潤不足や低い遺伝子変異量)を考慮した、より慎重な併用療法開発が必要である。
方法
本論文は、ALK陽性肺癌およびその他の胸部腫瘍におけるALK阻害薬耐性機序に関する最新の知見を統合したナラティブレビュー (Narrative review) である。文献選定にあたっては、主要な医学データベースであるPubMed、Embase、Cochrane (Cochrane Library)、およびWeb of Scienceを使用し、2016年12月までに発表されたALK陽性肺癌の臨床試験データ、前臨床モデル、および耐性機序に関する基礎研究論文を網羅的に検索・抽出した。具体的には、crizotinibの第III相試験 (PROFILE 1007、PROFILE 1014)、ceritinibの臨床試験 (ASCEND-1)、alectinibの試験 (NP28673、NP28761)、brigatinibの試験 (ALTA)、および第三世代阻害薬lorlatinibの第I/II相試験 (NCT01970865) などの臨床データを統合した。
また、治療前後のペア腫瘍生検サンプルの次世代シーケンシング (NGS) 解析、患者由来細胞株 (patient-derived cell lines) や患者由来異種移植 (PDX) モデルを用いた機能解析、オープンリーディングフレーム (ORF) ライブラリーを用いたゲノムワイドスクリーン、ランダム突然変異スクリーン、および無細胞DNA (cfDNA) を用いた液体生検技術に関する文献データを収集し、それらの知見を統合・再構成した。臨床試験における生存期間の解析においては、カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法による生存曲線の評価、ログランク (log-rank) 検定による群間比較、およびコックス比例ハザード回帰 (Cox regression) モデルを用いたハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) の算出方法など、原著論文における統計解析手法の妥当性を検証した。