- 著者: Yoneshima Y, Ijichi K, Anai S, Ota K, Otsubo K, Iwama E, Tanaka K, Oda Y, Nakanishi Y, Okamoto I
- Corresponding author: Isamu Okamoto (Kyushu University, Fukuoka, Japan)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29572000
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療は、その遺伝子ドライバーに関する理解の急速な進展により近年著しく改善されている Hanahan et al. Cell 2011。EGFR変異、ALK転座、またはROS1転座の存在は、それぞれに対応する経口チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) の治療効果を予測するバイオマーカーであり、これらのTKIは従来の化学療法と比較して、より持続的な効果、低い毒性、および良好な生活の質と関連している Kwak et al. NEnglJMed 2010。しかしながら、これらのドライバー変異陽性NSCLCでは、ほぼ全例で耐性機序を介した病勢進行が生じることが知られている。
一方、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) はNSCLC治療の新たなパラダイムを確立し、PD-1またはそのリガンドであるPD-L1を標的とする阻害薬は、進行期疾患患者において従来の化学療法と比較して生存利益をもたらすことが示されている Brahmer et al. NEnglJMed 2015、Borghaei et al. NEnglJMed 2015、Herbst et al. Lancet 2016、Reck et al. NEnglJMed 2016、Rittmeyer et al. Lancet 2017。腫瘍細胞におけるPD-L1発現は、NSCLC患者におけるPD-1経路阻害の臨床的アウトカム改善と関連することが報告されている Herbst et al. Nature 2014、Garon et al. NEnglJMed 2015。PD-L1発現検出には多くの抗体が利用可能であるが、PD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイは、PD-1標的モノクローナル抗体であるpembrolizumabによるNSCLC治療において唯一承認されたコンパニオン診断薬である。
KEYNOTE-024第III相試験の結果に基づき、pembrolizumabはPD-L1腫瘍細胞比率スコア (TPS) が50%以上の進行NSCLCの一次治療として標準化学療法を上回る選択肢となっている Reck et al. NEnglJMed 2016。しかし、この試験ではEGFR変異またはALK転座を有する患者は除外されており、これらのドライバーオンコジーンを有するNSCLCにおける高レベルのPD-L1発現頻度は未解明であった。前臨床研究では、EGFR活性化シグナルがPD-L1発現を誘導する可能性が示唆されており (Akbay et al., Cancer Discov 2013; Chen et al., J Thorac Oncol 2015)、またEML4-ALKオンコプロテインとその下流シグナルがPD-L1発現を誘導することも報告されている (Ota et al., Clin Cancer Res 2015)。一方で、EGFR/ALK変異陽性NSCLCにおけるICIの有効性は限定的であることも報告されており (Gainor et al., Clin Cancer Res 2016; Lee et al. J Thorac Oncol 2017)、腫瘍微小環境の特性 (例えば腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の低密度) が関与すると考えられていた。このような背景から、EGFR変異/ALK転座陽性NSCLCにおける22C3アッセイを用いたPD-L1 TPSの定量評価と、TKI治療成績との関連を検討することは、臨床的に重要な課題であり、この領域における知識の不足が指摘されていた。
目的
本研究の目的は、EGFR変異またはALK転座を有する肺腺癌患者において、pembrolizumabの承認済みコンパニオン診断薬である22C3 pharmDxアッセイを用いてPD-L1 TPSを定量的に評価することである。具体的には、以下の3点を検討した。(1) ドライバー変異陽性NSCLCにおけるPD-L1 TPS分布の特性を明らかにすること。(2) 臨床病理学的因子とPD-L1 TPSとの関連性を評価すること。(3) PD-L1発現が初回TKI治療の無増悪生存期間 (PFS) とどのように相関するかを検討すること。これにより、EGFR/ALK変異陽性NSCLCにおけるPD-L1発現の臨床的意義を解明し、将来的な治療戦略の最適化に貢献することを目指した。
結果
患者背景: 2013年1月から2017年11月までに80例の患者が本研究に組み入れられた。患者の中央年齢は65歳 (範囲24-91歳) であり、女性が47例 (58.8%)、非喫煙者が48例 (60.0%) であった。病期はステージIVが63例 (78.8%)、ステージIIIが4例 (5.0%)、再発例が13例 (16.3%) であった (Table 1)。EGFR変異の内訳は、エクソン19欠失が40例 (50.0%)、L858Rが30例 (37.5%)、G719XおよびL861Qが1例 (1.3%) であった。EML4-ALK転座は9例 (11.3%) に認められた。生検材料の起源は肺が60例 (75.0%)、リンパ節が12例 (15.0%)、その他 (胸膜、胸水、肝臓、脳、骨など) が8例 (10.0%) であった。生検の種類は、TBLB (経気管支肺生検) が31例 (38.8%)、EBUS-TBNA (超音波気管支鏡ガイド下経気管支針生検) が12例 (15.0%)、小型生検が18例 (22.5%)、外科的切除が12例 (15.0%) であった。
PD-L1 TPS分布と臨床的特性との関連: 解析された80例の肺腺癌検体のうち、PD-L1 TPSが1%以上の患者は35例 (43.8%) であった (Figure 1A)。PD-L1 TPSの分布は、TPS<1%が45例 (56.3%)、TPS 1-49%が26例 (32.5%)、TPS≥50%が9例 (11.3%) であった。EGFR変異を有する71例のみの解析では、TPS 1-49%が23例 (32.4%)、TPS≥50%が7例 (9.9%) であり、TPS≥1%は30例 (42.3%) に認められた (Figure 1B)。ALK転座を有する9例では、TPS 1-49%が3例 (33.3%)、TPS≥50%が2例 (22.2%) と、やや高い傾向を示した (Figure 1C)。PD-L1 TPS (<1%、1-49%、または≥50%の3群) と患者年齢 (p=0.40)、性別 (p=0.23)、喫煙歴 (p=0.27)、腫瘍病期 (p=0.77)、生検部位 (p=0.42)、生検種類 (p=0.52)、EGFRまたはALKの状態 (p=0.39) のいずれとの間にも有意な関連は認められなかった (Table 2)。
PD-L1発現とTKI治療PFSとの相関: 全80例の初回TKI治療におけるPFSを評価した結果、PD-L1 TPSが1%以上の患者群 (n=35) のPFS中央値は9ヶ月 (95% CI 6-13ヶ月) であった。一方、PD-L1 TPSが1%未満の患者群 (n=45) のPFS中央値は14ヶ月 (95% CI 12-18ヶ月) であり、TPS≥1%群のPFSが有意に短かった (p=0.016) (Figure 2A)。PD-L1 TPSを<1%、1-49%、≥50%の3群に層別化してPFSを比較すると、PD-L1 TPSが増加するにつれてPFSが段階的に短縮する傾向が認められた (Figure 2B)。初回TKIの種類 (EGFR-TKI vs ALK-TKI) は、PD-L1 TPSによる層別化において有意差はなかった (Supplemental Table 2)。年齢、性別、喫煙歴を調整変数として含むCox比例ハザード回帰モデルを用いた多変量解析においても、PD-L1発現 (TPS≥1%) はPFSの独立した有意な不良予後因子として残存した (HR 1.78、95% CI 1.08-2.91、p=0.03) (Table 3)。年齢 (HR 1.28、p=0.34)、性別 (HR 1.84、p=0.06)、喫煙歴 (HR 1.08、p=0.81) は多変量解析で有意な因子ではなかった。
免疫療法への応答: PD-L1 TPSが50%以上の患者のうち1例がnivolumabによる治療を受けたが、1コース後に疾患進行を認めた (Supplemental Table 3)。PD-L1 TPSが1-49%の患者でnivolumabまたはpembrolizumabによる治療を受けた3例も、全員が1コース後に進行した。これらの限られた観察からは、PD-L1高発現のEGFR/ALK陽性NSCLCにおいても、PD-1/PD-L1阻害薬単剤の有効性は低い可能性が示唆された。これは、EGFR/ALK陽性腫瘍では腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 密度が低いことが知られており、これがPD-1/PD-L1阻害薬の効果を制限する要因であるという仮説と一致する。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、22C3 pharmDxアッセイを用いてEGFR変異またはALK転座を有する肺腺癌患者のPD-L1 TPS分布とTKI治療成績との関連を評価した。既報のドライバー変異陽性NSCLCにおけるPD-L1 TPS≥50%の頻度 (Rangachari et al., J Thorac Oncol 2017で5.3%) と比較して、本研究では11.3%とやや高い頻度が観察された。しかし、いずれの報告も一般的なNSCLC集団 (約30%) と比較して有意に低く、ドライバー変異陽性NSCLCではPD-L1高発現が希少であるというこれまでの知見と整合する。本研究の知見は、PD-L1発現がEGFR/ALK陽性NSCLCにおいてTKI感受性と逆相関することを示唆しており、免疫回避機構の活性化がよりアグレッシブな腫瘍表現型と関連するという仮説を支持する。これは、EGFR活性化がPD-L1発現を誘導し、それがTILの抑制につながるという機序仮説と一致する。
新規性: 本研究は、EGFR変異またはALK転座を有する肺腺癌において、PD-L1 TPSが1%以上である場合に初回TKI治療のPFSが有意に短いことを多変量解析で独立した不良予後因子として初めて示した。この知見は、ドライバー変異陽性NSCLCにおけるPD-L1発現の予後予測因子としての役割を明確にするものであり、これまで報告されていない点である。
臨床応用: EGFR/ALK陽性NSCLCはKEYNOTE-024などの主要なICI試験から除外されており、PD-L1 TPS≥50%の患者に対する免疫療法の効果は不明であった。本研究における限られたICI治療例 (n=4) は、いずれも1コース後に進行を認め、PD-L1 TPS≥50%であっても免疫療法単剤の有効性は低い可能性が示唆された。これは、EGFR/ALK陽性NSCLCではICIの奏効率が低いことを示したGainor et al. (2016) のデータと一致する。しかし、IMpower150試験のサブグループ解析で、TKI前治療後のEGFR/ALK陽性患者にatezolizumab+bevacizumab+化学療法の併用療法がPFSの利益を示したことは、免疫療法を化学療法と組み合わせる戦略が有望である可能性を臨床現場に示唆する。
残された課題: 本研究は単施設・後方視的・少規模研究 (n=80) であり、PD-L1測定や治療選択におけるバイアスが存在する可能性がlimitationとして挙げられる。特にPD-L1 TPS≥50%の群はわずか9例であり、サブグループ解析の検出力が不十分である。また、組織採取時期とTKI治療時期が異なる可能性があり、腫瘍微小環境の動的な変化を完全に反映できていない可能性も残された課題である。今後は、EGFR/ALK陽性NSCLCにおけるICI療法の有効性を前向きに検証する大規模試験、特にosimertinibと免疫療法の組み合わせや、ICI耐性機序としての免疫回避を標的とした戦略に関する研究が今後の検討課題として必要である。
方法
本研究は、九州大学病院で2013年1月から2017年11月までにTKI治療を受けたEGFR変異 (n=71) またはALK転座 (n=9) を有する肺腺癌患者80例を対象とした単施設後方視的コホート研究である。患者の臨床的特性、病理学的データ、および腫瘍遺伝子型は、後方視的なカルテレビューによって抽出された。初回TKI治療における患者の無増悪生存期間 (PFS) もレビューされた。本研究は九州大学倫理委員会の承認を得て実施された。
EGFR変異の検出には、改良型PNA (peptide nucleic acid)-LNA (locked nucleic acid) クランプ法が用いられ、エクソン18-21のシーケンシングが商業臨床検査機関 (LSI Medience, 東京, 日本) で実施された。ALK転座は、SRL (東京, 日本) において免疫組織化学 (IHC) および蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) によって解析された。
PD-L1発現は、SRLにおいてPD-L1 IHC 22C3 pharmDxアッセイ (Agilent Technologies, Santa Clara, CA, USA) を用いて評価された。PD-L1 TPSは、完全または部分的な膜染色が認められる少なくとも100個の生存可能腫瘍細胞の割合として算出された。TPSの解釈は、商業ベンダーの病理医によって提供された。
統計解析にはJMPソフトウェアバージョン13 (SAS Institute, Cary, NC, USA) が使用された。腫瘍検体におけるPD-L1 TPSと他の患者特性との関連は、Fisherの正確確率検定を用いて検討された。PFSは、初回TKI治療開始から病勢進行の検出までの期間として測定され、Kaplan-Meier法を用いて評価された。患者群間の累積生存期間の比較には、ログランク検定が適用された。多変量解析は、年齢、性別、喫煙歴、およびPD-L1発現を共変量として組み込んだCox比例ハザード回帰モデルを用いて実施された。すべてのp値は両側検定であり、p<0.05が統計的に有意であるとみなされた。