• 著者: Yansen Xiao, Min Cong, Jiatao Li, Dasa He, Qiuyao Wu, Pu Tian, Yuan Wang, Shuaixi Yang, Chenxi Liang, Yajun Liang, Jili Wen, Yingjie Liu, Wenqian Luo, Xianzhe Lv, Yunfei He, Dong-dong Cheng, Tianhao Zhou, Wenjing Zhao, Peiyuan Zhang, Xue Zhang, Yichuan Xiao, Youcun Qian, Hongxia Wang, Qiang Gao, Qing-cheng Yang, Qifeng Yang, Guohong Hu
  • Corresponding author: Guohong Hu (CAS Key Laboratory of Tissue Microenvironment and Tumor, Shanghai Institute of Nutrition and Health, Chinese Academy of Sciences)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33450198

背景

乳癌関連死の大多数は肺転移によるものであり、転移前ニッチにおける好中球関連炎症微小環境が腫瘍細胞の転移コロニー形成を促進することが知られている。腫瘍微小環境は、様々な細胞性および非細胞性因子で構成され、癌転移において重要な役割を果たすことが報告されている Quail et al. NatMed 2013。播種された癌細胞は、遠隔部位に到達すると休眠状態に陥ることが多く、増殖を再開し臓器に定着するためには、トロンボスポンジン-1 (TSP-1) や骨形成タンパク質など、微小環境からの多数の抑制シグナルを克服する必要がある。腫瘍分泌タンパク質は、癌細胞が異質な微小環境に適応し、それを改変するための主要なメディエーターである。したがって、転移決定因子における分泌型調節因子の同定は、癌介入のための潜在的な予後マーカーおよび治療標的を提供する。

好中球は、感染や損傷に対する初期応答因子として機能する、ヒト末梢血中に豊富に存在する不均一な白血球である。癌微小環境において、好中球は一酸化窒素、H2O2、TSP-1などの抗腫瘍因子を産生することで腫瘍の進行を抑制する可能性があるが、より頻繁には、腫瘍の生存と移動、免疫応答、血管新生の調節により癌の進行と転移を促進する腫瘍の共犯者として報告されている Wculek et al. Nature 2015Coffelt et al. Nature 2015Qian et al. Nature 2011。好中球細胞外トラップ (NETs) は、顆粒タンパク質と脱凝縮クロマチンから構成される網状構造であり、感染時に病原体を捕捉・殺傷するために形成される防御機構である Brinkmann et al. Science 2004Papayannopoulos et al. NatRevImmunol 2018。近年、外科的ストレスや炎症によって誘導されるNETsが、腫瘍細胞の転移性定着と、定着した腫瘍細胞の宿主臓器へのコロニー形成を助けることが示されている Albrengues et al. Science 2018Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013。最近の報告では、癌細胞もNETosis(好中球のNET形成プロセス)を誘導して、腫瘍の進行と転移をサポートすることが示唆されている Yang et al. Nature 2020。しかし、転移ニッチにおいて癌細胞がどのように好中球を活性化してNET形成を誘導するのか、そのメカニズムはほとんど未解明であった。

Cathepsin C (CTSC) は、ジペプチジルペプチダーゼIとしても知られるリソソームのシステインプロテアーゼであり、プロテイナーゼ3 (PR3)、好中球エラスターゼ (NE)、カテプシンG (CTSG)、グランザイムA/B/C、肥満細胞キマーゼなど、多くのセリンプロテアーゼの触媒活性化に必須の役割を担う。CTSCの機能に関する研究は、主に炎症部位における免疫細胞のリソソーム内での機能に焦点を当ててきた。いくつかの研究では、膵島細胞、皮膚、乳腺の癌発生においてCTSCの発現と酵素活性が上昇することが報告されているが、分泌型CTSCが癌において果たす機能的役割はほとんど不明であった。特に、腫瘍分泌型CTSCが好中球を介してNETsを誘導し転移を促進するメカニズムは解明されておらず、この領域には知識のギャップが残されている。

目的

本研究の目的は、腫瘍分泌型Cathepsin C (CTSC) が好中球浸潤と好中球細胞外トラップ (NETs) 形成を調節することで乳癌の肺転移を促進する分子機序を解明することである。具体的には、CTSCが好中球の膜結合型プロテイナーゼ3 (PR3) を活性化し、その下流のIL-1β-NFκB経路を介して好中球の動員を促進するメカニズムを明らかにすることを目指した。さらに、CTSC-PR3-IL-1β軸が好中球の活性酸素種 (ROS) 産生とNETs形成を誘導し、NETsがトロンボスポンジン-1 (TSP-1) を分解して癌細胞の転移性増殖を支持する役割を検証する。最終的に、CTSC阻害剤AZD7986の乳癌肺転移に対する治療効果をマウスモデルで評価し、CTSCを標的とした治療戦略の可能性を探ることを目的とした。

結果

CTSC発現の臨床的意義:肺転移能および患者予後との相関: MS secretomics解析により、肺転移能の高い乳癌細胞株 (MDA-MB-231/LM2、MCF10CA1a、4T1) においてCathepsin C (CTSC) の分泌が一貫して増加することが同定された (Fig 1A, 1B)。臨床コホート解析では、原発腫瘍におけるCTSC高発現が、患者の転移無再発生存期間の短縮 (p<0.001) および全生存期間の短縮 (p<0.001) と有意に相関することが示された (Fig 1C)。また、肺転移巣では原発腫瘍よりもCTSC発現が顕著に高く、7組のマッチドペア解析でも同様の傾向が確認された (Fig 1D, 1E)。さらに、血清CTSCレベルは肺転移を有する乳癌患者で有意に高く (p<0.05)、CTSCが乳癌肺転移のバイオマーカーとなる可能性が示唆された (Fig 1F, 1G)。

CTSCの過発現・ノックダウン移植実験:原発腫瘍増殖に影響なく肺転移のみ特異的に調節: CTSCを過発現させたSCP28細胞を静脈内注射すると、BLI信号が早期 (1〜5日) から顕著に増加し (p=0.046)、肺転移結節数が有意に増加し (p<0.001)、動物の生存期間が短縮した (n=9-10 mice, Fig 2A-2C)。一方、CTSCをノックダウンしたLM2細胞では、肺転移が有意に減少し (p<0.001)、転移無再発生存期間が延長した (n=10 mice, Fig 2E-2G)。免疫正常マウスを用いた4T1同所性移植モデルでも、CTSCノックダウンは原発腫瘍の増殖には影響を与えず (Fig S2F)、肺転移のみを有意に抑制した (p<0.001, n=10 mice, Fig 2J)。これらの結果は、CTSCが選択的に転移ニッチ形成を調節することを示唆する。好中球特異的枯渇 (抗Ly6G抗体投与) により、CTSC誘発性の早期腫瘍細胞定着と増殖が消失し (p<0.05, n=3 mice, Fig 4E, 4F)、好中球がCTSCの肺転移促進効果に必須のメディエーターであることが確認された。

CTSC-PR3-IL-1β-NFκB軸:腫瘍CTSCが好中球膜PR3を活性化して動員を促進する新規経路: 腫瘍由来CTSCは、好中球細胞膜に発現するプロテイナーゼ3 (PR3) を酵素学的に活性化することが示された (Fig S4L)。この活性化されたPR3は、IL-1βの成熟型へのプロセシングとNFκB活性化 (p65リン酸化) を促進し、その結果、IL-6とCCL3の産生を増加させることが確認された (Fig 5B, 5H, S5C-S5F)。この経路は好中球エラスターゼ (NE) やカテプシンG (CTSG) には依存しなかった。PR3阻害剤SivelestatまたはIL-1β中和抗体による処理は、CTSC誘発性の好中球動員を有意に抑制し (p<0.001, n=4 replicates, Fig 5E)、in vivoでもCTSC誘発性好中球浸潤および肺転移を抑制した (n=7-8 mice, Fig 5F, 5G, 5I, 5J)。これらのデータは、CTSCが好中球のPR3-IL-1β-NFκB軸を活性化することで、IL-6とCCL3を介した好中球の転移ニッチへの動員を促進する新規メカニズムを明らかにした。

CTSCによるNETosis誘導:PR3-IL-1β-p38-ROS経路とTSP-1分解による腫瘍増殖促進: CTSC過発現腫瘍細胞のコンディショニング培地 (CM) は、好中球のシトルリン化ヒストンH3 (Ci-H3)、ミエロペルオキシダーゼ (MPO)、NEマーカー陽性のNETs形成をin vitroおよびin vivoで促進した (n=4 replicates, Fig 6A, 6B)。CTSC-PR3-IL-1β軸は、p38 MAPK活性化と活性酸素種 (ROS) 産生を誘導し、これがNETosisを引き起こすことが確認された (n=3 replicates, Fig 6C, 6D, 6E)。NETs培養培地はトロンボスポンジン-1 (TSP-1) を分解し、腫瘍スフェロイドの増殖を促進した (n=4 replicates, Fig 6H)。DNase I、GSK484、SivelestatによるNETs阻害は、肺転移を有意に抑制した (p<0.001, n=7-8 mice, Fig 6G, S6I, S6J)。ヒト乳癌コホートでは、CTSC発現とNET形成の間に強い正の相関 (r=0.6612, p<0.001) が認められ、血清NETs (MPO-DNA複合体) レベルも肺転移患者で有意に高かった (p<0.001, n=46 patients, Fig 7C, 7F)。これらの結果は、CTSCがNETs形成を誘導し、NETsがTSP-1を分解することで癌細胞の転移性増殖を支持することを示している。

AZD7986前臨床試験:3転移モデルで原発腫瘍無影響・肺転移特異的抑制と生存延長: CTSC阻害剤AZD7986 (NCT03218917で安全性確認済み) の前臨床試験では、4T1、AT3、LM2の3つの転移モデルすべてにおいて、原発腫瘍増殖への影響なく (n=9 mice, Fig 8A)、肺転移およびNETs形成が有意に抑制され (p<0.001, n=16 RMFs from 3 mice, Fig 8B, 8C, 8F-8I)、動物の生存期間が延長した (n=8-12 mice, Fig 8E, 8J)。AZD7986投与マウスでは軽微な副作用 (耳縁の落屑のみ) が観察されたが、全体的に忍容性は良好であった (Fig 8D, S8C)。AZD7986は循環IL-1βレベルも抑制し (n=12 mice, Fig 8K)、その転移およびNETosis抑制効果は組換えPR3によって阻害された (Fig S8D, S8E)。これらの結果は、CTSCが腫瘍関連好中球の調節に重要な役割を果たすこと、およびCTSCを標的とすることが乳癌肺転移の治療戦略として有望であることを示唆している。

考察/結論

本研究は、腫瘍分泌型Cathepsin C (CTSC) が乳癌の肺転移を促進する新規メカニズムを明らかにした。具体的には、CTSCが好中球のプロテイナーゼ3 (PR3)-IL-1β-NFκB軸を活性化することで好中球を転移ニッチに動員し、さらにPR3-IL-1β-p38-活性酸素種 (ROS) 経路を介したNETosis誘導によってトロンボスポンジン-1 (TSP-1) 分解と腫瘍細胞増殖促進という二段階の転移支持機序を担うことを初めて明示した。

先行研究との違い: これまでの研究では、NETsが外科的ストレスや炎症によって誘導されることが示されていたが Albrengues et al. Science 2018、腫瘍分泌型CTSCが好中球膜PR3を直接活性化するという機序は、ケモカイン誘発性NETosisとは根本的に異なる新規経路である。この発見は、癌細胞が分泌タンパク質を用いて非感染条件下で抗菌性免疫システムをハイジャックする新たなメカニズムを示唆しており、これまでの報告とは対照的な概念的貢献である。

新規性: 本研究で初めて、CTSCが好中球の膜結合型PR3を酵素的に活性化し、IL-1βのプロセシングとNFκB活性化を促進することで、IL-6とCCL3の発現を増加させ、好中球の転移ニッチへの動員を促すことを示した。また、CTSC-PR3-IL-1β軸が好中球のROS産生とNETs形成を誘導し、NETsがTSP-1を分解して癌細胞の転移性増殖を支持するという、一連の新規メカニズムを解明した。

臨床応用: 本研究の知見は、CTSCが乳癌の予後バイオマーカーであるとともに、治療標的としての可能性を持つことを示唆する。CTSC阻害剤AZD7986は、慢性閉塞性肺疾患などの好中球駆動型炎症性疾患を対象とした複数の臨床試験 (例: NCT03218917) で安全性が確認されており、乳癌の転移治療への臨床応用が期待される。AZD7986はマウスモデルにおいて、原発腫瘍の増殖に影響を与えることなく、肺転移とNETs形成を効果的に抑制し、生存期間を延長した。これは、CTSCを標的とすることが、乳癌転移の治療において忍容性の高い有効な戦略となりうることを示している。

残された課題: 今後の検討課題として、AZD7986の特異性に関する詳細な評価が挙げられる。本研究では、AZD7986が腫瘍由来CTSCを阻害することでNETsと転移を抑制することを示したが、好中球内因性CTSCへの直接的な影響も治療効果に寄与する可能性は排除できない。また、ヒトへの転換の検証、特に転移後治療 (アジュバント療法) 設定での有効性評価が必要である。さらに、NETsによるTSP-1分解の詳細なメカニズム、およびCTSCが好中球膜上のPR3にどのように接近して触媒活性化を行うのかについても、さらなる探索が求められる。

方法

本研究では、腫瘍分泌型CTSCが乳癌肺転移に与える影響を多角的に解析するため、in vitroおよびin vivoの実験系を組み合わせた。

CTSC発現プロファイリングと臨床検体解析: 肺転移能の異なる複数の乳癌細胞株シリーズ (MDA-MB-231/LM2系統、MCF10CA1系統、4T1系統) のMS secretomics解析を実施し、CTSCの発現と分泌をプロファイリングした。ヒト乳癌組織コホート (上海コホート n=74、Qiluコホート n=88) から得られた原発腫瘍および肺転移組織におけるCTSCの免疫蛍光 (IF) 染色を行い、CTSC発現と患者の転移無再発生存期間 (MFS) および全生存期間 (OS) との相関を解析した。また、肺転移を有する患者と有さない患者の血清CTSCレベルをELISAで比較し、バイオマーカーとしての可能性を評価した。

in vivo転移モデル: CTSCの過発現またはノックダウンを施した乳癌細胞 (SCP28、MDA-MB-231、LM2、4TO7、4T1) を用いて、免疫不全マウス (ヌードマウス) および免疫正常マウス (BALB/cマウス) への静脈内注射または同所性移植実験を実施した。生体発光イメージング (BLI) により肺転移の進行をモニターし、肺転移結節数を定量した。好中球の役割を検証するため、抗Ly6G抗体を用いた好中球特異的枯渇実験を行った。

好中球のin vitro機能解析: 骨髄由来または末梢血由来の好中球を分離し、CTSC過発現またはノックダウン癌細胞のコンディショニング培地 (CM) で処理した。好中球の遊走能は二層チャンバー遊走アッセイで評価した。NETs形成は、シトルリン化ヒストンH3 (Ci-H3)、ミエロペルオキシダーゼ (MPO)、好中球エラスターゼ (NE) のIF染色により評価し、SYTO RedとSYTOX Greenを用いた細胞透過性・非透過性色素による解析も行った。活性酸素種 (ROS) 産生はCM-H2DCFDAを用いたフローサイトメトリーで測定した。サイトカイン産生はサイトカイン抗体アレイおよびELISA (IL-6、CCL3、IL-1β) で定量した。

分子経路解析: 好中球細胞膜タンパク質を分離し、プロテイナーゼ3 (PR3)、好中球エラスターゼ (NE)、カテプシンG (CTSG) の発現をウェスタンブロットで確認した。膜結合型PR3の酵素活性は蛍光共鳴エネルギー転移 (FRET) 基質を用いて測定した。PR3阻害剤 (Sivelestat)、NE阻害剤 (Alvelestat)、CTSG阻害剤 (CTSGi)、IL-1β中和抗体、NFκB阻害剤 (BAY 11-7082)、p38阻害剤 (SB203580)、DNase I、ヒストンシトルリン化阻害剤 (Cl-amidine、GSK484) を用いて、CTSCが好中球の機能に与える影響の分子メカニズムを解析した。IL-1βの成熟と分泌はウェスタンブロットとELISAで評価した。NFκB活性化はp65リン酸化のウェスタンブロットで確認した。

NETsの機能解析: 3次元スフェロイド培養系を用いて、CTSC誘導NETs培地が腫瘍細胞の増殖に与える影響を評価した。NETsによるトロンボスポンジン-1 (TSP-1) 分解はウェスタンブロットで確認した。

CTSC阻害剤AZD7986の前臨床試験: CTSC阻害剤AZD7986 (5 mg/kg、経口投与、1日2回) を、4T1、AT3、LM2の3つの異なる乳癌転移モデルマウスに投与し、原発腫瘍増殖、肺転移、NETs形成、および生存期間への影響を評価した。副作用は体重変化と耳縁の落屑でモニターした。

統計解析: データはGraphPad Prism 7.0を用いて解析された。統計的有意差は、反復測定二元配置分散分析 (repeated measures two-way ANOVA)、ログランク検定 (log rank test)、または両側不対t検定 (two-tailed unpaired t test) により評価された。p値が0.05未満を有意とした。