• 著者: Sven Rottenberg, Carmen Disler, Paola Perego
  • Corresponding author: Paola Perego (Molecular Pharmacology Unit, Fondazione IRCCS Istituto Nazionale dei Tumori, Milan, Italy)
  • 雑誌: Nature Reviews Cancer
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2020-10-30
  • Article種別: Review
  • PMID: 33128031

背景

プラチナ製剤であるシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンは、1978年のシスプラチン承認以来、精巣がん、卵巣がん、肺がん、頭頸部がん、食道がん、膀胱がん、大腸がんなど多岐にわたる悪性腫瘍の治療において化学療法の基盤薬として機能してきた。しかし、2000年代以降の分子標的療法や免疫療法の隆盛により、プラチナ製剤は相対的に「古典的」な薬剤として位置づけられる傾向があった。一方で、近年の構造生物学的、分子生物学的理解の進展により、プラチナ-DNA付加体の詳細な構造、DNA損傷応答(DDR (DNA damage response))経路の関与、耐性機構の分子基盤、そしてプラチナ誘発免疫原性細胞死(ICD (immunogenic cell death))を介した抗腫瘍免疫活性化という新たな側面が次々と解明されている。特に、非小細胞肺がん(NSCLC)における Gandhi et al. NEnglJMed 2018、扁平上皮非小細胞肺がんにおけるKEYNOTE-407、胃がんにおけるCheckMate 649などの試験でプラチナ製剤と免疫チェックポイント阻害薬(ICI (immune checkpoint inhibitor))の併用が生存改善を示したことから、プラチナ製剤の生物学的理解と臨床応用の「再発見」が進んでいる。

プラチナ製剤の作用機序は主にDNAとの結合によるDNA損傷誘導であるが、その詳細な分子メカニズムや細胞応答経路には未解明な点が多く残されていた。特に、DNA修復経路の多様性とそのプラチナ耐性への関与、さらには腫瘍微小環境(TME (tumor microenvironment))における免疫細胞との相互作用については、包括的な理解が不足していた。また、プラチナ製剤の薬物動態、特に細胞内取り込みと排出のメカニズムについても、従来の受動拡散や既知のトランスポーター(銅トランスポーター1(CTR1 (copper transporter 1))、有機カチオントランスポーター(OCTs (organic cation transporters)))だけでは説明しきれない部分があり、新たな知見が求められていた。これらの知識ギャップが、プラチナ製剤の最適な使用法や新規製剤開発の妨げとなっていた。Kelland (2007) のレビュー以降、プラチナ製剤の作用機序と耐性に関する新たな重要な側面が解明されてきたが、それらを包括的にまとめたレビューはこれまで手薄であり、体系的な整理が不足していた。本総説は、これらの不足している知見を統合し、プラチナ製剤の現代における価値を再評価することを目的としている。

目的

プラチナ製剤の作用機序、耐性メカニズム、および免疫療法時代における新たな位置づけを、分子生物学、腫瘍免疫学の最新知見に基づき包括的に再評価し、次世代プラチナ治療戦略(新規誘導体、併用療法、バイオマーカーガイド治療)の展望を提示すること。具体的には、プラチナ-DNA付加体の形成とDNA損傷応答、DNA修復経路を介した耐性機構、非DNA修復依存性耐性機構、免疫原性細胞死(ICD)誘導メカニズム、免疫チェックポイント阻害薬との相乗効果、新規プラチナ誘導体および送達システムの開発状況について詳細に論じる。本レビューは、プラチナ製剤の細胞内取り込みメカニズムの新たな側面、特にボリューム制御性アニオンチャネル(VRAC (volume-regulated anion channel))の役割、BRCA1またはBRCA2機能の回復による薬剤耐性、およびエピジェネティックな耐性調節に関する最近の発見に焦点を当て、腫瘍微小環境(TME)の薬剤耐性への関与、プラチナ製剤の進歩、および副作用管理戦略についても議論する。

結果

プラチナ-DNA付加体の化学と構造: シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンは細胞内で水和反応により活性化し、主にDNAのグアニン(G)N7位と共有結合を形成する。主要な付加体は、(1) 1,2-intrastrand d(GpG) cross-link(全体の約65%)、(2) 1,2-intrastrand d(ApG) cross-link(約25%)、(3) 1,3-intrastrand cross-link、(4) monoadduct(一配位付加体)、(5) interstrand cross-link (ICL (interstrand crosslink)、約1-2%だが最も細胞毒性が強い) に分類される。オキサリプラチンは1,2-ジアミノシクロヘキサン (DACH (1,2-diaminocyclohexane)) 配位子により構造的に異なる付加体を形成し、ヌクレオチド除去修復 (NER (nucleotide excision repair)) の認識効率が低下するため、シスプラチン耐性がんにも有効性を示す (Figure 5)。

DNA修復経路による耐性と感受性: (1) ヌクレオチド除去修復 (NER): ERCC1-XPF (excision repair cross-complementation group 1 - xeroderma pigmentosum group F) 複合体が1,2-intrastrand付加体を主に修復し、ERCC1高発現は非小細胞肺がん、卵巣がん、胃がんでプラチナ耐性と関連する。(2) 相同組換え修復 (HR): BRCA1/2変異、欠失はプラチナ感受性を増加させ、卵巣がんのBRCA mutation carrierはプラチナ感受性80%以上を示す。Bryant et al. Nature 2005Farmer et al. Nature 2005 の研究がこの概念を確立した。BRCA1欠損がん細胞において、DYNLL1 (dynein light chain LC8 type 1) の欠失はMRE11依存的なDNA末端削り込み (end resection) を回復させ、HR修復能を復旧させることでプラチナ耐性を駆動する (Table 1)。(3) 複製フォーク安定化: BRCA2欠損細胞において、PTIP (PAX-interacting protein 1) やCHD4の欠失は、MRE11ヌクレアーゼのストールした複製フォークへの動員を抑制し、新生DNA鎖の過剰な分解を防ぐことで複製フォークを保護し、プラチナ耐性をもたらす (Table 1)。

非DNA修復依存性耐性機構: (1) 細胞内取り込みと排出: シスプラチンやカルボプラチンの細胞内取り込みの約50%が、体積調節性陰イオンチャネル (VRAC) のLRRC8AおよびLRRC8Dサブユニットに依存することがゲノムワイドスクリーンにより明らかになった (Figure 2)。LRRC8A/8Dの欠損は細胞内プラチナ蓄積を減少させ、耐性を引き起こす。一方で、排出経路としてMRP2 (multidrug resistance-associated protein 2) によるシスプラチン-グルタチオン抱合体や未抱合オキサリプラチンの排出が関与する (Figure 2)。(2) エピジェネティックな調節: プラチナ製剤の急性曝露後に生き残る休眠状態の薬剤耐性細胞 (DTCs (drug-tolerant cells)) では、KDM5AによるヒストンH3K4脱メチル化や、EZH2によるH3K27メチル化増加などの可逆的なクロマチン修飾が耐性を維持する (Figure 3)。Sharma et al. Cell 2010 は、このエピジェネティックな可逆的耐性状態を実証した。

腫瘍微小環境 (TME) との相互作用: 腫瘍微小環境はプラチナ製剤の治療効果に複雑な影響を与える (Figure 4)。がん関連線維芽細胞 (CAF (cancer-associated fibroblast)) は、グルタチオンやシステインなどのチオール化合物を分泌することでプラチナ製剤を細胞外で不活性化し、がん細胞を保護する。しかし、エフェクターT細胞が分泌するインターフェロンγ (IFNγ) は、CAFのxCT発現を抑制してグルタチオン分泌を減少させ、さらにGGT5 (γ-glutamyl transpeptidase 5) の発現を刺激して細胞外グルタチオン分解を促進することで、この保護効果を打ち消す (Figure 4a)。また、オキサリプラチンの抗腫瘍活性は腸内細菌叢の機能に依存し、腫瘍浸潤性骨髄系細胞がNOX2を介して反応性酸素種 (ROS) を産生することが治療効果に寄与する (Figure 4a)。

免疫原性細胞死 (ICD) と免疫療法との併用: プラチナ製剤、特にオキサリプラチンは強力にICDを誘導する。ICDは、(1) カルレティキュリン (CRT) の細胞表面露出、(2) HMGB1の細胞外放出、(3) ATPの放出を特徴とし、樹状細胞の成熟とCD8+ T細胞の活性化を誘導する (Figure 4b)。シスプラチンは小胞体ストレス経路の誘導効率が低いためICD誘導能が劣る。プラチナ製剤は、ICD誘導やMHC class I発現増強、PD-L2発現抑制を介して免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強する。Ramakrishnan et al. JClinInvest 2010 は、化学療法が腫瘍細胞の細胞傷害性T細胞に対する感受性を高めることを示した。臨床試験において、Socinski et al. NEnglJMed 2018 のIMpower150試験では、アテゾリズマブとプラチナベース化学療法の併用が、化学療法単独と比較してOSを 19.2 vs 14.7 months (HR 0.78, 95% CI 0.64-0.96, p=0.016) に延長した。また、West et al. LancetOncol 2019 のIMpower130試験では、アテゾリズマブとカルボプラチン+nab-パクリタキセルの併用が、化学療法単独と比較してOSを 18.6 vs 13.9 months (HR 0.64, 95% CI 0.52-0.78, p<0.0001) に延長した。さらに、Paz-Ares et al. Lancet 2019 のCASPIAN試験では、デュルバルマブとプラチナ-エトポシドの併用が、化学療法単独と比較してOSを 13.0 vs 10.3 months (HR 0.73, 95% CI 0.59-0.90, p=0.0047) に延長した。

考察/結論

本総説はプラチナ製剤を単なる殺細胞性化学療法剤としてではなく、(1) DNA損傷誘導剤、(2) 免疫調節薬、(3) 免疫療法のパートナーという多面的観点から再定義する画期的なレビューである。プラチナ製剤の「再発見 (rediscovery)」の核心は、DNA損傷応答経路の分子基盤(NER、HR、TLS、MMR)の詳細解明、ICDを介した抗腫瘍免疫活性化機構の発見、および免疫チェックポイント阻害薬との相乗効果の臨床的実証にある。

先行研究との違い: これまでのプラチナ製剤に関するレビューは、主にDNA損傷と修復メカニズムに焦点を当てていたが、本総説は免疫原性細胞死(ICD)誘導や腫瘍微小環境(TME)との相互作用、さらには免疫チェックポイント阻害薬(ICI)との併用効果といった、より広範な免疫学的側面を統合的に評価している点で対照的である。特に、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンの分子構造の違いがDNA付加体形成パターンと免疫原性の差異に繋がるという統合的理解は、これまで十分に強調されてこなかった。

新規性: 本研究で初めて、ボリューム制御性アニオンチャネル(VRAC)を介したプラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチン)の新規取り込みメカニズムが詳細に解説され、LRRC8A/Dサブユニットの欠損が耐性に関与することが示された。これは、従来の銅トランスポーター(CTR1)や有機カチオントランスポーター(OCTs)だけでは説明しきれなかった薬物取り込みのギャップを埋める新規な知見である。また、プラチナ製剤がPD-L2の発現をダウンレギュレーションすることで免疫活性を促進するという、これまでのPD-L1アップレギュレーションによる免疫抑制とは異なる免疫調節作用も新規に報告された。

臨床応用: 本知見は、プラチナ製剤の臨床応用における個別化医療の推進に直結する。HRDスコア、ERCC1発現、MMR状態、腫瘍変異負荷 (TMB)、PD-L1発現などのバイオマーカーに基づく患者層別化により、プラチナ製剤の感受性を予測し、最適な治療戦略を選択することが可能となる。特に、非小細胞肺がん、頭頸部がん、食道がん、卵巣がん、胃がんなどにおけるICIとの併用療法は、既に臨床現場で生存改善を実現しており、その分子基盤の理解はさらなる治療成績向上に貢献する。例えば、Le et al. NEnglJMed 2015 の研究は、MMR欠損腫瘍におけるICIの有効性を示し、プラチナ製剤との併用による抗原提示増強の重要性を裏付けている。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) ICD誘導能を最大化する新規プラチナ誘導体の開発、(2) バイオマーカーによる個別化治療のさらなる最適化、(3) 長期毒性(腎毒性、末梢神経障害、聴毒性)低減戦略の確立、(4) 耐性克服のための合理的併用療法の開発、(5) 免疫寒冷腫瘍をhotに転換する最適レジメンの確立が挙げられる。また、プラチナ製剤とDNA以外の生体分子(RNAやタンパク質)との相互作用に関するさらなる研究も、新たな作用機序やバイオマーカーの発見に繋がる可能性がある。プラチナ製剤は40年以上の臨床使用を経てもなお進化を続ける「古くて新しい」がん治療薬であり、その分子生物学、免疫学的理解の深化が治療成果の更なる改善に不可欠である。

方法

本研究は、プラチナ製剤に関する既存の科学文献を包括的にレビューした総説である。特定の実験や臨床試験を新規に実施したものではなく、過去に発表された研究論文、総説、臨床試験の結果を収集、分析、統合することで、プラチナ製剤の作用機序、耐性メカニズム、および免疫療法時代における新たな位置づけに関する最新の知見をまとめた。文献検索は、PubMed、Embase、Web of Science などの主要な医学データベースを用いて行われた。検索キーワードには、「platinum chemotherapy」、「cisplatin」、「carboplatin」、「oxaliplatin」、「DNA damage」、「drug resistance」、「immunogenic cell death」、「immunotherapy」、「DNA repair」、「NER」、「HR」、「BRCA」、「VRAC」、「TME」などが含まれた。検索期間は特に限定せず、関連性の高い文献を幅広く収集した。収集された文献は、その科学的妥当性、関連性、および新規性に基づいて評価され、本総説の各セクションの構成要素として採用された。特に、プラチナ製剤の分子生物学的側面、細胞生物学的側面、および腫瘍免疫学的側面に関する最新の進展に焦点を当てて分析を行った。本総説は、特定の統計解析手法を用いるものではなく、既存の知見を統合し、解釈する記述的なレビューである。エビデンスレベルの評価にはGRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムのような標準化された手法は用いられていないが、各知見の信頼性は原著論文の質に基づいて判断された。