• 著者: Martin Reck, Rolf Kaiser, Anders Mellemgaard, Jean-Yves Douillard, Sergey Orlov, Maciej Krzakowski, Joachim von Pawel, Maya Gottfried, Igor Bondarenko, Meilin Liao, Claudia-Nanette Gann, Jose Barrueco, Birgit Gaschler-Markefski, Silvia Novello, on behalf of the LUME-Lung 1 Study Group
  • Corresponding author: Martin Reck (LungenClinic Grosshansdorf, Airway Research Center North (ARCN), German Center for Lung Research, Grosshansdorf, Germany)
  • 雑誌: The Lancet Oncology
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2013-12-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24411639

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の一次治療後に再発・進行した患者への二次治療では、ドセタキセル、ペメトレキセド、エルロチニブが標準治療として用いられるが、これらの単剤療法は奏効率 (ORR) が5-10%、無増悪生存期間 (PFS) が2.5-3ヶ月、全生存期間 (OS) が7-10ヶ月と、その効果は限定的であった。例えば、Shepherd et al. JClinOncol 2000はドセタキセルのOS改善を示したが、その後の多くの試験ではOSの有意な改善は認められていない。また、Shepherd et al. NEnglJMed 2005によるエルロチニブの研究もPFSの改善は示したものの、OSの絶対的な延長は限定的であった。NSCLCの増殖および転移には、血管内皮増殖因子受容体 (VEGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体 (FGFR)、血小板由来成長因子受容体 (PDGFR) の3つの経路が関与しており、これらの受容体型チロシンキナーゼ (RTK) を同時に阻害する「トリプルアンジオキナーゼ阻害薬」の概念が注目されていた。ニンテダニブ (BIBF 1120) は、VEGFR1/2/3、FGFR1/2/3、PDGFRα/βをnMから低μMレベルで阻害する経口マルチキナーゼ阻害薬であり、特発性肺線維症 (IPF) および進行NSCLCの両方で開発が進められていた。しかし、二次治療における化学療法との併用で血管新生標的薬の上乗せ効果を検証する大規模な第III相試験は不足しており、特に特定の組織型や一次治療からの病勢進行期間といった予後因子を持つ患者群における有効性については未解明な点が多かった。この領域には依然として満たされていない医療ニーズがあり、新たな治療戦略の開発が課題として残されている。

目的

進行NSCLCで一次白金含有化学療法後に進行した患者を対象に、ドセタキセルとニンテダニブ (BIBF 1120) の併用療法が、ドセタキセルとプラセボの併用療法と比較して、有効性 (主要評価項目PFS、副次評価項目OS) および安全性をどのように改善するかを検証すること。特に、特定の患者サブグループにおける有効性を明らかにすることも目的とした。

結果

主要エンドポイント:PFSの有意な延長: 全体集団 (n=1314) において、ドセタキセル+ニンテダニブ群のPFS中央値は3.4ヶ月 (95% CI 2.9-3.9) であったのに対し、ドセタキセル+プラセボ群では2.7ヶ月 (95% CI 2.6-2.8) であった。ハザード比 (HR) は0.79 (95% CI 0.68-0.92)、p=0.0019であり、ニンテダニブ併用群でPFSの有意な延長が認められた (Figure 2A)。この効果は腺癌および扁平上皮癌の両サブグループで同様に観察された (Figure 2B, 2C)。最終解析時点では、全患者のPFS中央値はドセタキセル+ニンテダニブ群で3.5ヶ月 (95% CI 3.0-4.0)、ドセタキセル+プラセボ群で2.7ヶ月 (95% CI 2.6-2.8) であり、HR 0.85 (95% CI 0.75-0.96)、p=0.0070であった。

全集団OSの非有意な改善: 全体集団のOS中央値は、ドセタキセル+ニンテダニブ群で10.1ヶ月 (95% CI 8.8-11.2)、ドセタキセル+プラセボ群で9.1ヶ月 (95% CI 8.4-10.4) であった。HRは0.94 (95% CI 0.83-1.05)、p=0.2720であり、全集団におけるOSの統計学的有意な改善は認められなかった (Figure 3C)。これは階層的解析の第一段階で有意差が示されなかったためである。しかし、ベースラインの標的病変の最長径の合計 (腫瘍量) で調整した場合、OSの差が認められた (HR 0.88, 95% CI 0.78-0.99, p=0.0365)。

腺癌サブグループでのOSの有意な改善: 事前計画された腺癌サブグループ (n=658) では、ドセタキセル+ニンテダニブ群のOS中央値は12.6ヶ月 (95% CI 10.6-15.1) であったのに対し、ドセタキセル+プラセボ群では10.3ヶ月 (95% CI 8.6-12.2) であった。HRは0.83 (95% CI 0.70-0.99)、p=0.0359であり、腺癌患者において統計学的に有意なOS延長が達成された (Figure 3B)。1年OS率はニンテダニブ群で52.7% (95% CI 46.8-57.9)、プラセボ群で44.7% (95% CI 38.9-49.8) であった。2年OS率はそれぞれ25.7% (95% CI 20.5-30.2) と19.1% (95% CI 14.4-23.2) であった。

予後不良腺癌患者における顕著なOS改善: 特に、一次治療開始後9ヶ月以内に病勢進行を認めた予後不良の腺癌患者 (ニンテダニブ群n=206、プラセボ群n=199) では、ドセタキセル+ニンテダニブ群のOS中央値は10.9ヶ月 (95% CI 8.5-12.6) であったのに対し、ドセタキセル+プラセボ群では7.9ヶ月 (95% CI 6.7-9.1) であった。HRは0.75 (95% CI 0.60-0.92)、p=0.0073と、最も顕著な生存改善が示された (Figure 3A)。この集団ではPFSも有意に改善し、HR 0.63 (95% CI 0.48-0.83)、p=0.0008であった。一次治療で病勢進行のみを認めた腺癌患者の探索的解析でも、OS中央値は9.8ヶ月 vs 6.3ヶ月 (HR 0.62, 95% CI 0.41-0.94, p=0.0246) と有意な改善が認められた。

客観的奏効率 (ORR) と病勢コントロール率 (DCR): 全集団のORRは、ドセタキセル+ニンテダニブ群で4.4% (29/655)、ドセタキセル+プラセボ群で3.3% (22/659) であり、有意差は認められなかった (p=0.3067)。しかし、病勢コントロール率 (DCR) は、ドセタキセル+ニンテダニブ群で54.0% (354/655) と、プラセボ群の41.3% (272/659) と比較して有意に高かった (OR 1.68、p<0.0001)。特に、一次治療開始後9ヶ月以内に進行した腺癌患者では、ORRが4.9% vs 1.5% (OR 3.54、p=0.0393)、DCRが59.2% vs 33.2% (OR 2.90、p<0.0001) と、ニンテダニブ併用群で顕著な改善が認められた (Table 2)。扁平上皮癌患者でもDCRはニンテダニブ群で49.3% vs プラセボ群で35.5% (OR 1.78, p<0.0001) と有意に高かった。

安全性プロファイル: グレード3以上の有害事象でニンテダニブ併用群で頻度が高かったのは、下痢 (6.6% vs 2.6%)、アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) 上昇 (7.8% vs 0.9%)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) 上昇 (3.4% vs 0.5%)、好中球減少症 (23.0% vs 21.2%)、発熱性好中球減少症 (7.4% vs 4.9%) であった (Table 3)。高血圧、出血、血栓症などの血管内皮増殖因子 (VEGF) 阻害薬に典型的な毒性は、ベバシズマブなどのVEGF中和抗体と比較して軽度であった。グレード5の有害事象は両群で5%未満であり、同程度であった。ニンテダニブ関連の有害事象による投与中止は22.7%であった。

考察/結論

LUME-Lung 1試験は、進行NSCLCの二次治療において、ドセタキセルにトリプルアンジオキナーゼ阻害薬であるニンテダニブ (BIBF 1120) を追加することで、主要評価項目であるPFS (HR 0.79、95% CI 0.68-0.92、p=0.0019) を有意に改善し、特に腺癌サブグループのOS (HR 0.83、95% CI 0.70-0.99、p=0.0359) を有意に延長した初めての第III相試験である。この効果は、一次治療開始後9ヶ月以内に病勢進行を認めた予後不良の腺癌患者 (HR 0.75、95% CI 0.60-0.92、p=0.0073) で最も顕著であり、臨床的に重要な意義を持つ。

先行研究との違い: これまでの二次治療における血管新生阻害薬の併用試験では、PFSの改善は認められてもOSの改善には至らないものが多かった。例えば、スニチニブやアフィリベルセプトなどの他の抗血管新生薬は、PFSの改善を示したものの、OSの有意な改善は示していない。本研究は、Sandler et al. NEnglJMed 2006が一次治療でベバシズマブのOS改善を示したのと同様に、二次治療において血管新生阻害薬がOSを改善しうることを示した点で、これまでの研究とは異なる。特に、ニンテダニブがVEGFRだけでなくFGFRやPDGFRも同時に阻害する多標的性を持つ点が、単一経路阻害薬とは異なる結果に寄与した可能性がある。

新規性: 本研究で初めて、一次治療後に進行した進行腺癌NSCLC患者、特に予後不良の集団において、ドセタキセルとニンテダニブの併用がOSを改善することを新規に示した。これは、血管新生阻害薬が特定の患者サブグループで生存利益をもたらすことを明確に示した点で画期的な知見である。また、一次治療からの期間が9ヶ月未満の患者群がニンテダニブの恩恵を最大化する予測サブグループである可能性を示唆した点も新規性がある。

臨床応用: 本知見は、進行腺癌NSCLCの二次治療における新たな治療選択肢として、ニンテダニブとドセタキセルの併用療法が有効であることを示し、その後の欧州での承認に直結した。特に、一次治療で早期に進行した予後不良の腺癌患者にとって、本治療法は重要な臨床的意義を持つ。この結果は、患者の組織型や一次治療からの期間に基づいて治療戦略を個別化する「精密医療」の概念をさらに推進するものである。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) 免疫チェックポイント阻害薬が二次治療の主流となった現在、ニンテダニブ併用療法の最適な位置付け (例: 免疫治療後のライン) を確立すること、(2) ニンテダニブの有効性を予測するバイオマーカー (例: VEGFR、FGFR発現、血管新生関連遺伝子プロファイル、Kohno et al. NatMed 2012Lipson et al. NatMed 2012で報告されたRET融合遺伝子など) の特定、(3) 免疫チェックポイント阻害薬との併用可能性の検討、(4) 下痢や肝酵素上昇などの有害事象に対する最適な管理戦略の確立が残されている。本研究は、血管新生標的治療の腺癌特異的有効性を示した歴史的にも重要な第III相試験であり、今後の肺がん治療戦略の発展に大きく貢献した。

方法

試験デザイン: 本研究は、国際多施設共同、二重盲検、プラセボ対照の第III相無作為化比較試験 (LUME-Lung 1、NCT00805194) として実施された。 対象患者: Stage IIIB/IVまたは再発NSCLC患者1314名が登録された。対象患者は一次治療後に病勢進行を認め、ECOGパフォーマンスステータスが0または1であり、18歳以上であった。全組織型 (腺癌658例、扁平上皮癌555例、その他101例) が含まれた。脳転移の有無、ECOG PS、およびベバシズマブ既往の有無により層別化された。 介入: 患者は1:1の比率で2つの治療群に無作為に割り付けられた。

  1. 併用群 (n=655): ドセタキセル 75mg/m² (21日サイクルのday 1に静脈内投与) とニンテダニブ 200mg (1日2回経口投与、day 2-21) の併用。
  2. 対照群 (n=659): ドセタキセル 75mg/m² (21日サイクルのday 1に静脈内投与) とプラセボ (1日2回経口投与、day 2-21) の併用。 治療は許容できない有害事象または病勢進行まで継続された。用量調整は、ニンテダニブは200mgから150mg、さらに100mgへの減量が許容され、ドセタキセルも添付文書の推奨に従って減量が許可された。 主要評価項目: 独立中央判定によるPFS。 副次評価項目: OS (腺癌サブグループおよび全集団)、客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、QOL、安全性。 解析計画: OS解析は階層的アプローチを採用し、まず一次治療開始後9ヶ月以内に進行した腺癌患者、次に全ての腺癌患者、最後に全集団の順で統計学的有意性を評価した。PFSの主要解析には714件のイベントが必要とされ、検出力は90%であった。最終OS解析は1121件の死亡イベント発生後、または48ヶ月後に行われた。統計解析にはSAS (version 9.2) が用いられた。