- 著者: Ferenc Kolonics, Viktória Szeifert, Csaba I. Timár, Erzsébet Ligeti, Ákos M. Lőrincz
- Corresponding author: Erzsébet Ligeti, Ákos M. Lőrincz (Department of Physiology, Semmelweis University, Budapest, Hungary)
- 雑誌: Cells
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-12-18
- Article種別: Review
- PMID: 33353087
背景
好中球(多形核白血球;PMN (polymorphonuclear cell))は、ヒトの末梢血中で最も豊富に存在する有核細胞であり、生体防御における自然免疫の第一線を担う極めて重要なエフェクター細胞である。感染や炎症などの刺激が生じると、好中球は速やかに局所に遊走し、活性酸素種(ROS (reactive oxygen species))の産生、脱顆粒、好中球細胞外トラップ(NET (neutrophil extracellular trap))の形成、および病原体の貪食といった多様な殺菌機構を発揮する。近年の細胞生物学および免疫学における重要な発見の一つとして、好中球が刺激に応じて細胞外小胞(EV (extracellular vesicle))を能動的に放出し、これが細胞間通信の重要な媒体として機能していることが明らかになってきた。
細胞外小胞は単なる細胞の老廃物や「ゴミ」ではなく、核酸、タンパク質、脂質などの生理活性分子を内包し、標的細胞の機能を修飾するメッセンジャーであることが示されている。Valadi et al. NatCellBiol 2007は、EVを介したmRNAやmicroRNAの転移が細胞間の遺伝情報交換の新規機序であることを提唱し、Skog et al. NatCellBiol 2008は、腫瘍由来の微小小胞がRNAやタンパク質を運搬して腫瘍の増殖や微小環境の再構成を促進することを示した。さらに、Thery et al. NatRevImmunol 2009は、免疫細胞由来のEVが免疫応答の伝達物質として機能することを包括的にレビューしている。また、Kalluri et al. Science 2020やColombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014、Raposo et al. JExpMed 1996、Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008、Robbins et al. NatRevImmunol 2014などの既報においても、多種多様な細胞から放出されるEVの生理活性や病態生理学的意義が報告されている。
しかしながら、好中球由来細胞外小胞(PMN-EV)に関するこれまでの研究動向を概観すると、いくつかの重大な課題が存在していた。第一に、多くの研究においてPMN-EVは単一の均一な集団として扱われる傾向があり、その機能的多様性の根本的な源泉について体系的な整理がなされておらず、学術的な一貫性が欠けていた。第二に、報告されているPMN-EVの生物学作用には、強力な炎症促進作用から、マクロファージに対する抗炎症作用、さらには直接的な抗菌作用に至るまで、極めて多様で時には相反するデータが存在しており、その詳細な発生機序は未解明のままであった。この混乱の原因として、好中球の単離方法、刺激条件、EVの回収・保存プロトコルの違い、さらには親細胞である好中球の生存状態(生存細胞かアポトーシス細胞か)の不均一性が指摘されていた。
国際細胞外小胞学会(ISEV (International Society for Extracellular Vesicles))が提唱した最小限の情報ガイドラインであるMISEV (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles)ガイドライン(Thery et al. JExtracellVesicles 2018)などの標準化の試みはあるものの、好中球という極めて短寿命で刺激に敏感な細胞に特化したEVの機能的不均一性の体系的理解は未だ不十分であった。すなわち、親細胞の活性化状態や周囲の微小環境が、放出されるPMN-EVの機能的プロファイルにどのように反映されるのかという「親細胞の状態とEVの機能的スペクトラムの相関」に関する包括的な知見が不足していた。本レビューは、この学術的ギャップを埋めるために、過去20年間にわたるPMN-EV研究のエビデンスを整理し、好中球の活性化段階に応じたEVの機能的連続性という新しい概念を提示するものである。
目的
本総合レビューの主な目的は、好中球由来細胞外小胞(PMN-EV)の機能的不均一性が、親細胞である好中球の活性化状態や周囲の微小環境を直接的かつ忠実に反映しているというエビデンスを体系的に整理・検証することである。具体的には、紫外線B波(UV-B (ultraviolet B))照射などによるアポトーシス、自発的放出、可溶性メディエーターによる軽度の刺激、およびオプソニン化病原体による強力な刺激といった異なる状況下で産生されるPMN-EVの物理的・化学的特性、表面マーカー、および内包されるcargo(タンパク質、RNA等)の違いを明確にする。
さらに、これらの異なるPMN-EVが、マクロファージ、血管内皮細胞、上皮細胞、血小板、ナチュラルキラー(NK (natural killer))細胞などの多様な標的細胞に対して及ぼす生物学的作用(抗炎症効果、炎症促進効果、凝固促進効果、組織修復修飾など)を、刺激因子および標的細胞ごとにマッピングし、相反する報告の統合的解釈を試みる。また、Mac-1インテグリン(CD11b/CD18)をはじめとする特定の受容体シグナルが、抗炎症型EVから抗菌型・炎症促進型EVへの機能的スイッチとしてどのように機能しているかを分子レベルで解明する。最終的には、PMN-EVの機能的多様性を「連続的スペクトラム(continuous spectrum)」として捉える新しいモデルを提示し、敗血症、自己免疫疾患、血管炎、関節炎などの病態生理におけるPMN-EVの役割を解き明かすとともに、リキッドバイオプシーとしての診断バイオマーカーや、人工ナノベシクルを用いた標的型薬物送達システム(DDS (drug delivery system))などの新規治療標的としての臨床的応用可能性を展望することを目的とする。
結果
PMN-EVの物理的・化学的特性と分類:
MISEV2018ガイドラインに基づき、好中球由来細胞外小胞(PMN-EV)は主に中型EV(mEV、直径100-1000 nm、主に細胞膜の出芽により形成される微小小胞)に分類され、一部に小型EV(sEV、直径<200 nm、主にエンドソーム由来のエクソソーム)や大型EV(lEV、アポトーシス小体等)を含む。電子顕微鏡(TEM及びcryo-TEM)およびナノ粒子トラッキング解析(NTA)による測定では、自発的に放出されるPMN-EV(sEV)および刺激誘発性EVの直径は主に100-700 nmの範囲に分布し、その分布の最頻値は200-300 nm付近に存在する(Fig 1)。これらの小胞は、外膜にホスファチジルセリン(PS (phosphatidylserine))を露出しているためアネキシンVで強力に染色され、表面には好中球特異的マーカーであるCD66b、接着分子であるMac-1インテグリン(CD11b/CD18)、および顆粒由来酵素であるミエロペルオキシダーゼ(MPO)を豊富に発現している。プロテオミクス解析(Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016)によると、PMN-EVのタンパク質組成は親細胞の細胞骨格、顆粒、ミトコンドリア、およびシグナル伝達分子を反映しており、刺激の種類によってその存在比が動的に変化することが示されている。
刺激依存的なPMN-EV産生量の定量的比較:
好中球からのEV産生量およびタンパク質含有量は、加わる刺激の種類と物理的状態(可溶性か固相表面か)によって著しく異なる。フローサイトメトリー(FC)およびタンパク質定量法を用いた比較実験において、未刺激の好中球から20分間で自発的に放出される基礎分泌EV(sEV)の量を基準(1.0-fold)とした場合、fMLP(1 µM)、LPS(100 ng/mL)、TNFα(20 ng/mL)、CXCL12(100 ng/mL)などの単一の可溶性メディエーター刺激では、EV産生量は有意な増加を示さないか、わずか1.5-fold~2.0-fold程度の中等度の増加にとどまる(Fig 2)。これに対し、好中球がアポトーシスに陥るプロセス(apoEV)、またはオプソニン化されたザイモサン(5 µg/mL)やオプソニン化された黄色ブドウ球菌(S. aureus、10^8/mL)などの固相粒子と接触した場合には、EVの産生量および回収される総タンパク質重量は基準値から5.0-fold以上の顕著な増加(p<0.05)を示す(Fig 2)。さらに、好中球がフィブリノーゲンや補体成分C3b不活性体(C3bi (inactivated complement component 3b))などのMac-1リガンドでコーティングされた固相表面に接着した状態では、可溶性刺激が加わらなくてもEVの放出が強力に誘導され、接着分子を介したメカノシグナルがEV産生の強力なトリガーであることが実証されている(Fig 2)。
アポトーシス性PMN-EVによるマクロファージの抗炎症修飾:
好中球が自発的にアポトーシスに陥る際、または紫外線B波(UV-B)照射などのプロアポトーシス環境下(n=4 replicates)で放出されるアポトーシス性細胞外小胞(apoEV (apoptotic extracellular vesicle))は、周囲の免疫細胞に対して顕著な抗炎症作用を発揮する。実験データにおいて、LPS(100 ng/mL)で刺激したヒト単球由来マクロファージ(HMDM (human monocyte-derived macrophage))に対し、apoEVを添加したところ、マクロファージからの代表的な炎症性サイトカインであるTNFαおよびインターロイキン1ベータ(IL-1β (interleukin 1 beta))の産生量がそれぞれ60%以上抑制されることが示された(Table 1)。この抗炎症効果は、apoEV表面に露出したPSがマクロファージ上のPS受容体であるT細胞免疫グロブリン・ムチン領域含有分子4(Tim-4 (T-cell immunoglobulin and mucin domain-containing molecule 4))に認識され、下流の抗炎症シグナルが活性化されることで、免疫抑制性サイトカインであるトランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGF-β1 (transforming growth factor beta 1))やインターロイキン10(IL-10 (interleukin 10))の産生が促進されることに起因する。対照的に、活性化好中球由来のEVではこのような抑制効果は見られず、むしろ炎症を増悪させることが確認された。
細菌刺激由来PMN-EVによる直接的抗菌作用とMac-1の関与:
オプソニン化された黄色ブドウ球菌(S. aureus)やザイモサンなどの病原体刺激によって放出されたPMN-EVは、標的細胞を介さない直接的な抗菌作用(直接的殺菌・増殖抑制効果)を発揮する。この抗菌型EVは、細菌の表面に存在するオプソニン成分(C3biや抗体)を認識し、EV表面のMac-1インテグリン(CD11b/CD18)を介して強固に結合し、巨大な「EV-細菌凝集体」を形成する。実験において、抗菌型EVを添加した群では、sEV添加群と比較して黄色ブドウ球菌の生存率が40%以下(p<0.05、n=25 replicates)に低下することが実証された(Fig 3)。この抗菌作用は、EV表面に濃縮されたMPOやエラスターゼなどの顆粒由来酵素が、細菌の細胞壁や膜構造を局所的に破壊することによって引き起こされる。重要な点として、fMLPやLPSなどの可溶性刺激によって産生されたEVには、このような直接的な抗菌作用や細菌凝集能は認められなかった(Fig 3)。
可溶性刺激由来PMN-EVによる血管内皮細胞の炎症活性化:
fMLP(1 µM)やLPS(100 ng/mL)などの細菌由来バイプロダクトで刺激された好中球から放出されるEVは、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC (human umbilical vein endothelial cell))に対して強力な炎症促進作用を及ぼす。これらのEVは、内皮細胞に結合すると、内皮細胞における接着分子である細胞間接着分子1(ICAM-1 (intercellular adhesion molecule 1))や血管細胞接着分子1(VCAM-1 (vascular cell adhesion molecule 1))の発現を2.5-fold以上に亢進させ、インターロイキン8(IL-8 (interleukin 8))やインターロイキン6(IL-6 (interleukin 6))などのケモカイン・サイトカインの放出を誘導する(Table 1)。このプロセスには、EVに内包された炎症性マイクロRNA(miR-155やmiR-23a)の内皮細胞への移行、および内皮細胞におけるNF-κB(nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells)シグナル経路の活性化が関与している。また、fMLP刺激由来のPMN-EVは、脳微小血管内皮細胞(BMEC (brain microvascular endothelial cell))の単層バリアにおいて、経内皮電気抵抗(TEER (transendothelial electrical resistance))を有意に低下させ、血管透過性を亢進させることが示されており、好中球の血管外遊走(diapedesis)を促進する局所的な足場として機能している。
凝集・止血系におけるPMN-EVの相反する作用:
PMN-EVは、血液凝固カスケードに対しても強力な修飾作用を持つが、その作用はEVの産生条件によって相反する。活性化好中球(LPSやTNFα刺激)から放出されるEVは、表面に組織因子(TF (tissue factor))を高発現しており、外因性凝固経路を活性化してトロンビン生成を強力に促進する。実験的に、敗血症患者由来のPMN-EVは、健常者由来のEVと比較してトロンビン生成能が3.0-fold以上高く、播種性血管内凝固(DIC (disseminated intravascular coagulation))の病態形成に寄与していることが示されている(Table 1)。一方で、アポトーシス性EV(apoEV)は、その表面にプラスミノーゲンを取り込んでプラスミンへの活性化を促進し、フィブリン溶解(線溶系)を亢進させるという、相反する抗凝固・線溶促進作用を示すことが報告されている。
病態生理学的微小環境におけるPMN-EVの動態と標的細胞への作用:
PMN-EVの産生と機能は、生体内の多様な病態生理学的微小環境において動的に制御されている。敗血症患者の血液中では、健常対照群と比較してPMN-EVの濃度が有意に上昇しており、これらのEVは細菌と結合して「EV-細菌凝集体」を形成することで、初期の細菌拡散を制限する役割を果たす(Table 1)。また、急性膵炎の動物モデルにおいては、好中球細胞外トラップ(NET)に結合したPMN-EVが、局所および全身の炎症増悪に寄与していることが示されている。さらに、嚢胞性線維症(CF (cystic fibrosis))や一次性繊毛運動障害の患者の喀痰中から回収されたPMN-EVは、マウスに気管内投与した際に顕著な白血球浸潤を誘導し、強力な炎症促進作用を示すことが確認された(n=6 mice)。このCF患者由来のEVは、表面に好中球エラスターゼを保持しており、これが肺の細胞外基質(ECM (extracellular matrix))を分解することで、慢性閉塞性肺疾患(COPD (chronic obstructive pulmonary disease))の病態進行にも関与している。このように、PMN-EVは生体内の局所環境および全身循環において、その発生時の微小環境を反映した極めて多様な生物学的作用を発揮している。
考察/結論
本総合レビューは、好中球由来細胞外小胞(PMN-EV)の機能的多様性が、単なるランダムな変異や実験的ノイズではなく、親細胞である好中球の活性化状態や周囲の微小環境を忠実に反映した「連続的スペクトラム(continuous spectrum)」を形成しているという概念を提示した。
先行研究との違い:
従来の細胞外小胞研究においては、EVを単一かつ均一な集団として扱う傾向が強く、その機能的差異は主に単離方法や保存条件の違いに起因すると考えられてきた。これに対し、本研究は同一の好中球集団であっても、アポトーシス、自発的放出、可溶性メディエーター刺激、あるいはオプソニン化病原体との接触といった異なる環境シグナルに応じて、抗炎症性から強力な炎症促進性、さらには直接的な抗菌作用に至るまで、完全に相反する機能を持つEVを産生し分けることを体系的に示した。この点は、これまでの研究と異なり、極めて独自性の高い概念的整理を行っている。特に、EVの機能を単に「良いEV」か「悪いEV」かという二元論ではなく、親細胞の生理状態と連動した「連続的スペクトラム」として再定義した点は、免疫学および細胞生物学におけるパラダイムシフトを促すものである。
新規性:
本レビューにおける最大の新規な知見は、PMN-EVの機能的表現型の切り替えを制御する分子スイッチとして、Mac-1インテグリン(CD11b/CD18)を同定し、その役割を明確に位置づけた点にある。好中球がオプソニン化された病原体と接触した際、Mac-1を介した強力なシグナル伝達がトリガーとなり、それまでの抗炎症型EVの産生から、細菌と直接凝集体を形成してその増殖を抑制する「抗菌型」EVの産生へと劇的にシフトするメカニズムを概念図とともに整理したことは、本研究で初めて体系化された学術的貢献である。また、単一の刺激(fMLPやTNFα等)だけでは不完全な炎症促進型EVしか産生されず、第二の検証シグナル(LPSや補体成分等)が加わることで初めて完全な炎症促進型EVが放出されるという「二段階検証モデル」を提示したことも、好中球の緻密な炎症制御機構を説明する新規な仮説である。
臨床応用:
本研究で整理されたPMN-EVの機能的特性は、診断および治療の両面における臨床応用に直結する極めて高い価値を有している。診断面においては、血液中や局所液(痰、関節液等)におけるPMN-EVの数や表面マーカー(MPO、Mac-1、α2-マクログロブリン等)の組成を解析することで、敗血症、血管炎、関節リウマチなどの活動性や予後をリアルタイムで評価するリキッドバイオプシー技術としての臨床応用が期待される。特に「PMN-EV/好中球比」は、臨床現場において好中球の活性化状態を定量化する簡便かつ高精度なサロゲートマーカーとなり得る。治療面においては、アポトーシス性EVが持つ天然の抗炎症・組織修復作用を利用した大腸炎や急性肺障害(ALI (acute lung injury))に対する新規バイオセラピーとしての応用や、抗菌型EVの細菌凝集機能を応用した多剤耐性菌感染症に対する新規治療戦略の開発が期待される。さらに、PMN-EVを用いた人工ナノベシクルの開発により、抗炎症薬や抗菌薬、さらには免疫調節分子(Resolvin D2 (resolvins D2))を標的細胞に直接送達する次世代型DDS (drug delivery system)が実現可能となり、従来の薬物療法の限界を超える治療効果が期待されている。
残された課題:
今後の検討課題として、以下の点が残されている。第一に、PMN-EVの産生メカニズムにおけるシグナル伝達経路の詳細な分子機構、特にMac-1インテグリンを介した下流シグナルの全体像をさらに明確にする必要がある。第二に、生体内の複雑な微小環境(複数の刺激が同時に作用する状況)において、PMN-EVの機能的プロファイルがどのように決定されるのかについて、より詳細な検討が必要である。第三に、PMN-EVの診断的応用および治療的応用に向けた臨床試験の実施が急務である。Limitation として、本レビューは2020年10月までの文献に基づいており、その後の新知見が含まれていない点が挙げられる。また、異なる研究間での方法論的な差異が大きいため、定量的なメタ解析を行うことが困難であった点も制限要因である。今後、MISEV2018ガイドラインに準拠した統一的な実験プロトコルの確立と、その国際的な普及が、PMN-EV研究の加速と臨床応用の実現に不可欠である。
方法
本論文は、好中球由来細胞外小胞(PMN-EV)の機能的不均一性、生物学的作用、および病態生理学的意義に関する過去の文献を網羅的に調査・分析した総合学術レビューである。文献の検索および選定にあたっては、主要な医学・生物学データベースであるPubMed、Embase、およびWeb of Scienceを使用し、2020年10月までに発表された英語論文を対象とした。
検索式には、“extracellular vesicles”、“microvesicles”、“microparticles”、“exosomes”、“neutrophils”、“polymorphonuclear leukocytes”、“inflammation”、“antibacterial”、“coagulation”などのキーワードおよびそれらの論理積(AND)および論理和(OR)を組み合わせた。文献の選択基準として、(1)ヒトまたはマウスの好中球(PMN)から単離されたEVの機能、組成、または特性を直接評価している原著論文、(2)PMN-EVsの産生を誘導した刺激因子(ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニン(fMLP (formyl-methionyl-leucyl-phenylalanine))、リポ多糖(LPS (lipopolysaccharide))、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα (tumor necrosis factor alpha))、オプソニン化粒子、アポトーシス等)が明記されている研究、(3)PMN-EVの標的細胞(マクロファージ、内皮細胞、上皮細胞等)に対する作用、または直接的な抗菌・凝固活性を定量的に評価している研究、を設定した。除外基準として、好中球以外の白血球由来EVのみを対象とした研究、および方法論や特性評価が極めて不十分な初期の報告を除外した。
抽出された各文献からは、PMNの分離・精製方法、純度(purity)、生存率(viability)、EVの誘導刺激、EVの単離方法(示差遠心分離法(DC (differential centrifugation))、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC (size exclusion chromatography))、超遠心分離法、ろ過等)、EVの特性評価手法(フローサイトメトリー(FC (flow cytometry))、ナノ粒子トラッキング解析(NTA (nanoparticle tracking analysis))、動的光散乱法(DLS (dynamic light scattering))、電子顕微鏡(EM (electron microscopy))、チューナブル抵抗パルスセンシング(TRPS (tunable resistive pulse sensing))等)、EVの平均直径、保存条件、および標的細胞に対する具体的な生物学的作用に関するデータを系統的に抽出した。
特に、国際細胞外小胞学会が提唱したMISEV2018ガイドラインおよびMISEV2014ガイドラインに照らし合わせ、各研究におけるEVの定義、マーカー発現(CD66b、CD11b、CD18、ミエロペルオキシダーゼ(MPO (myeloperoxidase))、アネキシンV等)、および不純物の評価状況を厳格に検証した。さらに、著者らの研究室における実験データ(ヒト末梢血から分離した好中球を用いた自発的および各種刺激誘発性EVの産生、フローサイトメトリーによる定量、電子顕微鏡観察、および黄色ブドウ球菌(S. aureus)を用いた抗菌活性測定等)を対照データとして統合し、文献データの解釈の妥当性を検証した。統計的比較がなされているデータについては、主に一元配置分散分析(one-way ANOVA)およびDunnettの多重比較検定(Dunnett’s test)などの統計手法が用いられていることを確認し、有意水準p<0.05を基準としてデータを整理した。